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変化する日常①

のらこと野田良子が入学してきて三週間が過ぎた。この間に俺の日常は少しずつ変化が訪れていた。一つ目の変化は、朝の通学のときの車内。前にも説明したが、電車のダイヤの都合もあり、俺と栞梨、正道は同じ電車に乗って通学している。そして俺は栞梨たちと待ち合わせをしている駅までは自転車で通学している。自宅の最寄駅で、中学のときの同級生と顔を合わさないためというのが、大きな理由ではある。だが電車で待ち合わせの駅に向かうよりも、自転車のほうが時間がかからないという理由もある。俺の住む町には最寄駅は一つ。のらは俺と同じ中学に通っていた。というわけで、長い説明になったが、当然のようにこうなる。


「おはよっす、センパイ!」


 俺が自転車を漕いで駅に向かっていてると、後ろから追いついてきたのらが俺と並走して自転車を走らせる。入学式の日に図書室で感情を爆発させたのらだったが、翌日に会ったときは、なにごともなかったかのように普段通りの態度だった。この先、どういうふうに接していけばいいのだろうかと、一晩中悩んでいた俺はかなり拍子抜けした。


「うっす」

「どうしたんすか、朝からテンション低いっすよ。さては昨日の夜、抜きすぎたんじゃないっすか?」

「……女子がそんなこと口にすんなよ」


 ジト目でのらを睨みつける。ちなみに俺のテンションが低いのは抜きすぎなどではない。ただ単に朝が苦手なだけだ。

 のらと自転車で駅まで向かうことは、なんの抵抗もない。告白はされたが、のらの俺に対する態度は、前述したようにいままでと変わることはなく、あの告白は俺の夢の中の出来事だったのではと疑うほどだった。もちろん俺の栞梨への想いは、のらに告白されても微動だにしない。のらの想いに応えてあげられないのは心苦しいが、こればかりは諦めてもらうほかない。ただ、こうして自然体ののらと軽口を叩きあって自転車を走らせるのは、とても楽しくて、駅までの距離があっという間に感じた。

 

しかし、栞梨と正道の待つ駅に到着し、四人で車内のボックス席に座ると、たちまち居心地が悪くなる。学校の最寄りの駅に着くまでが長く感じられた。


「まーくん先輩、聞いてくださいよ。センパイ、昨日抜きすぎて朝から元気ないんすよ」

「そうなのか? おい、右京ほどほどにしとけよ」

「栞梨に誤解されるから、マジでやめて」


 栞梨は「抜きすぎ? 釘?」と首をかしげているから、いらぬ心配だろうけど。

 のらは正道のことを「まーくん先輩」、正道は「良子ちゃん」と呼び、ここ数日で仲良くなっていた。一方、栞梨とのらはというと。


「しぃちゃん先輩、昨日ライソで送ったライオンの赤ちゃんの動画見ました?」

「うん見たよー。ころころしてて癒されたよー。野田ちゃんはいつもどこからああいう動画見つけてくるの?」

「ユーツーブっすよ。しぃちゃん先輩はあんまし見ないんすか?」


 と、割と仲良くしていた。のらも一緒に通学してもいいかと栞梨に訊ねたときは、初めは当然ながら拒否された。しかし電車のダイヤの都合などを説明すると、渋々ながらも了承してくれた。だからそのときは、一体これからどんな不穏な空気の車内になるのだろうかと、不安にかられた。だが、いざのらを含めて四人での電車通学が始まると、最初のうちは二人ともほとんど会話をしなかったが、数日後にはこうして普通に話を交わすようになっていた。さすがに毎日一時間ほど車内で同席しているわけで、二人ともいがみ合うのに疲れただけかもしれないが。なんにせよ、こうしてカノジョと後輩が表面上だけでも仲良くくれているようで、俺の不安は少しは解消されていた。

では、車内は居心地のいい空間かというと、そんなことはまったくない。というのが、栞梨はのらと会話はするものの、のらに俺をとられるのではないかと常に警戒しているからである。それはカノジョの行動にはっきりと表れていた。

本来、恥ずかしがりな栞梨はボディタッチなどのスキンシップが苦手なようで、あまり積極的にすることはなかった。公共の場で手をつないで歩くときも、頬を赤らめていたほどだ。まあ、俺も顔が赤かったのだろうが。そんな栞梨がこうしてのらと電車通学を始めるようになると、俺とスキンシップをとろうとするようになった。過剰とも思えるほどに。

栞梨はいまこうしてのらと話をしているときも、俺の腕をぎゅっと掴んで放そうとしない。まるで大切なものを守るように栞梨は俺の腕に身体を押し付けて、力強く握りしめていた。カノジョの豊満で柔らかい胸の感触が俺の腕を刺激していて、カレシとしてはこれ以上なく嬉しい。思わず口元が緩んでしまう。しかし、すぐに現実に戻される。

 栞梨と会話をしているのらは楽しそうな笑みを浮かべているのに、俺がにやついていることを目敏く見つけると、蔑むような視線を投げてくるからだ。それはあくまで一瞬で、すぐ栞梨に視線を戻して、笑顔で話を続ける。

しかしその瞳はまったく笑っておらず、さらに後輩の身体から激しく燃える真っ赤な炎が出ているように見えた。そして俺自身がにやついているとは思っていなくても、定期的にのらは鋭い視線を向けてくる。なぜのらがそのような視線を投げてくるのかは理解しているつもりだ。もし俺がのらの立場だったら不愉快な気分になるだろうから。

ただ、大好きなカノジョにスキンシップをされて嬉しいわけで、口元がだらしなくなってしまうのは避けようがない。ならば、栞梨に車内でのスキンシップを控えてもらうようにすればいいのかもしれないが、カノジョが大胆な行動をしていることを咎めることはできない。入学式の日にのらから挑発的な発言をされて、気が気でないに違いないから。

そう考えると、のらがあのとき図書室を去るときに栞梨を刺激するようなことを言わなければ、こんな居心地の悪い電車通学にならなかったのだと思えた。

じゃあ原因はのらじゃねーかと、後輩を恨みがましく見つめる。のらは俺と目が合うと「ふん。このむっつりが。こっち見んな」とでもいうように、すぐに視線を逸らした。

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