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はじめてのカノジョ

高校一年生の二月。カノジョができた。


 鎌ヶ谷右京(かまがやうきょう)、一六歳、人生で初めてのカノジョである。



 グラウンドに面した窓から夕陽が差し込む図書室。

 

図書委員である俺は返却された本を本棚に戻しながら、人生で初めてできたカノジョが図書室に来るのを待ちわびていた。


 生徒会で会計の役職に就いているカノジョ。生徒会の仕事が終わったら図書室に来ることになっているのだ。


 付き合い始めて一カ月が経ち、図書室での待ち合わせもいまでは俺の日常の一コマとなっている。


 ただし早くカノジョに逢いたいという気持ちは、付き合い始めたときから変わってはいない。いまも俺の胸は高鳴っている。


 そんなふうにカノジョのことを想いながら業務をこなしていると、図書室の扉が静かに開けられた。


 そして扉の向こうで、はにかみながら小さく手を振るカノジョの姿が見えた。


「右京くん、お待たせー」


 俺のカノジョ、市川栞梨(いちかわしおり)が耳をくすぐるような優しい声音で俺の名前を呼ぶ。


 そして栞梨は子犬のようにてててっと、本棚の前で作業をしている俺のところへ駆け寄ってきた。


「今日は早めに終わったんだな。お疲れさま、栞梨」


 よしよしと栞梨の頭を撫でて労う。


 栞梨は「えへへー、ありがと。右京くんもお疲れさま」と撫でられて気持ち良さそうに口元をニヤニヤさせて答える。


 口元からちらりと覗く八重歯が可愛い。というか八重歯以外も可愛い!


 そう、俺のカノジョは徹頭徹尾、完璧なまでに可愛いのだ! 可愛すぎて語彙力が死んでしまう。


 俺がそう思うのは、自分の大切なカノジョであるため欲目で見ているところは確実にある。


 しかし、彼氏としての欲目を抜きにしても栞梨は校内で一、二を争うほどの美少女であることは間違いない。


 艶やかなストレートの黒髪、小動物のように愛らしい丸くてくりっとした大きな瞳、身体は小柄ながらもスタイルはよく、とくに存在感がありすぎる胸は、制服の膨らみからもその破壊力がどれほどなのかは推して知るべしといったところである。


 また容姿だけでなく、いつも笑顔を絶やさない栞梨は、人当たりのよさもあり校内でも人気が高い。


 それゆえに一年生ながらも生徒会の役員に任命されているのである。



 この子犬系愛され女子である栞梨が俺のカノジョであるという事実。


 実感はもちろんあるのだが、いまだに信じられない気持ちも共存している。


 あまりにも俺とはつり合いが取れているとは言い難いからだ。


 というのも俺は見た目も平凡で、図書委員で眼鏡をかけていることもあり、周りの生徒からの印象はよく言えば文学青年、悪く言えばパッとしない冴えない男子生徒だからだ。当然のことながらモテるわけではない。


 さらに言うと、性格も子供の頃から無表情で、誰かから話しかけられないと口を開かないほど無口だったため、小学校に入学するとすぐに俺は「地蔵」というあだ名をつけられたほどだ。

 

中学生になっても、俺の性格は変わることはなく、基本的にぼっちだった。


 そして小学校が同じだった生徒が多かったこともあり、相変わらず「地蔵」と呼ばれ続けた。


 しかし「地蔵」と呼ばれていても、思春期の男子である俺は人並みに女子に対する煩悩はあった。


 ただ男友達すらいない俺に女友達などできるはずはなく、恋愛とは無縁の中学生時代を送るしかなかった。

 


 そんな俺が高校に進学して急にモテはじめる――なんてことは起こるはずもなく、「地蔵」は「地蔵」のままであった。


 つまり無表情で無口なのは子供の頃から変わることがなかったということだ。


 いや女子に好かれるためには変わる必要があったのかもしれないが、俺はそのような動機で自分を変えるのは嫌だった。


 だから「地蔵」のままでいることを選んだ。


 意識して変化することで自分が自分でなくなる気がしたし、それよりもいまの自分をありのまま好きでいてもらいたかったからというのもある。


 そして高校一年の二月についに「地蔵」である俺を好きになってくれた女子に告白された。


 俺も以前からその女子のことが好きだったから、その場で返事をした。


 その女子というのが栞梨だ。クラスも一緒で席も隣だったし、他のクラスメイトよりも親密な関係を築けているという自負はあった。


 それでも栞梨から告白されるとは夢にも思っていなかったので、正直なところ告白をされたときはドッキリでも仕掛けられているのではないかと心配になったほどである。


 もちろん栞梨は人を騙して楽しむような人間ではなく、その告白は嘘でも冗談でもなく本気だった。


 だからその後、一瞬でも栞梨を疑ったことを俺は反省した。


 こうして俺は校内トップクラスの美少女である市川栞梨と付きあうことになったわけであるが、いまだに自分が告白されたことや栞梨の彼氏でいるという現実を、にわかに信じがたいことであると思ってしまう。


 小・中学校でほとんど友達がいなかった「地蔵」の俺が、こんなふうに突然幸せになってもいいんだろうかとか、実はこれは夢で目を覚ますとすべて無くなってしまうんじゃないだろうかと、つい不安になってしまうんだ。


「――くん。ねぇ右京くんってば!」


 自分は栞梨と釣り合いが取れるような男なのかと心配していると、カノジョが俺の名前を呼びながら、学生服の袖をくいくいと引っ張っていることに気づいた。


「もう! ちゃんと話聞いてよー!」


 頬を膨らませて抗議をしてくる栞梨。


 こうやって俺のことで機嫌を悪くする栞梨に悪いと思いつつ、俺のことを気にかけてくれるのが嬉しくて、さっきまでの心配事があっという間に消え去った。


「ごめん。えーとなんだっけ?」


 両手をあわせて栞梨に謝罪する。


「次の休みはどうしようって話だよー! 右京くんはわたしと一緒にお出掛けしたくないの?」


 拗ねたように栞梨が上目づかいで俺の顔を覗いてくる。


 小柄なカノジョは俺の肩くらいの身長で、下から見上げられるとたまらなく愛おしくなる。


 しかしいまはそんなことを考えている場合ではない。カノジョが不穏な発言をしているから全力で否定をしなければいけない。


「そんなわけないだろ! 栞梨と一緒だったらどこへでも行きたいし!」


 そう言ってから自分の耳が熱くなるのを感じた。


 好きな女の子に本音を伝えるとき、どうしていつも恥ずかしくなるんだろう。


 でも言われた栞梨も同じみたいで「私も右京くんとだったら、どこ行っても楽しいよ」と頬を染めていた。

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