苦S女とクズ男(クズジョとクズオ)
お馴染み“月曜真っ黒シリーズ”です。
外す前にもう一度指を伸ばして左の薬指のエンゲージリングの輝きを確かめる。
笑うなら笑うがいい!
でも私にとって、この輝きは勲章!!
だからエンゲージリングを右の人差し指と親指で愛でながらそっと抜き、手のひらでもう一度輝かせてみる。
この輝きを皆に見せて回りたいけど、臆面もなく見せ続けるのはデメリットの方が大きくなる。
しかしこの爛れた会社の女子更衣室は、ロッカーのカギを開けられての盗難がしばしば起こる。
よって“貴重品”は置いておけるはずも無く、私は別の方法で指輪を身に着ける。
ただ一つネックなのは、このエンゲージリングを通すに相応しいのは“あのRobin egg blueの箱”から取り出されたプラチナチェーンネックレス”のみという事だ。
『まあ、このネックレスの出所は他の人に知られてはいないのだから構わないのだけど』
心の中で“独り言ち”てネックレスにエンゲージリングを通し、首に回して着ける。
胸の谷間に落ちて行く指輪の感触は1年ぶり……そう、このネックレスも……“あの人”から贈られた指輪をどうしても身に着けたくて“おねだり”したんだっけ……あの頃は指輪の形が服の上に浮き出やしないかと随分気を使ったけれど、今は例えTシャツを着ていたとしても構わない! これが“日の当たる”という事なんだ!!
そんな事を考えながら席に着くと隣の席の要ちゃんが声を掛けて来る。
「センパイ!おはようございます。 総務の同期から聞いたんですけど、今日、久しぶりに“ジュニア”が来るみたいですよ! 終日いらっしゃるみたいだから私、“ランチ会”に参加できるよう根回ししてるところなんです!! センパイもどうですか?」
「私はいいわ」
「ファイアンセさんに“義理立て”ですか? たかがランチですよ! 福利厚生みたいなもんじゃないですか」
「ランチ会の場所って、『レギューム』でしょ? あそこのランチ、5千円はするわよ!6人だとしても3万よ」
「そんなの“ジュニア”だもん!交際費で落としてるに決まってるじゃないですか!」
「だとしても……メリットが無きゃそんなお金出さないわよ!」
「メリットありありですよ! ランチの時間まで支店長や次長なんかの“おべっか”を聞かされるのはジュニアだってウンザリですよ。だから私達がハート溢れる会話をしてさしあげるんです! その見返りに私達の目とお腹は“満腹”になるんです!」
「そう、それは良かったね。ま、くれぐれも“イケメンジュニア”に食べられないようにね」
「キャハハハ! センパイ!そのセリフ、オヤジです!」
「さっ! もう始業時間よ!」と私はキーボードでパスワードを入力しながら話を切り上げた。
やむを得ない。私だって、“センパイ”からの忠告を聞かなかった“クチ”なのだから
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経理課での用を済ませて廊下を出ると向こうの方から支店次長のヒステリックな声が聞こえて来た。
間違っても捕まりたくないので、とにかく“くノ一”のような足運びで廊下を渡り、急ぎ階段を下りた。
席に戻って、何事も無かった様にルーティーンをこなしていると疲れ切った顔で課長が戻って来て、ドカッ!と椅子に身を投げた。当然の事ながら、この“腫物”には誰も触らない。
と、『山下君!』と指名される。
心の中ため息を付き、スッ!と席を立って課長の前へ
「お呼びでしょうか?」
「お茶!!」
私は頭を下げ給湯室へ向かう。
別に腹も立たない。
『力のないオスの無駄な遠吠え』というタイトルの標本箱にまた一つサンプルが増えただけの事だ。
ところが次の瞬間、手首をガシッ!と掴まれ、私の背中はザワッ!と凍った。
「久しぶりだな!」
忘れる事の叶わない声が私のカラダを蹂躙し声の主の熱い胸板に引き寄せて行く
慣れた指に……久しく触れられていなかった“点火スイッチ”をグニュッ!押されて
「ん、ん!」と鼻に声が抜ける。
「お前!苗字が変わるそうじゃないか」
こんな事を私にするのはアイツ……“ジュニア”しか居ない。
だから私は抵抗の身をよじる。
「止めてください!業務中です!!」
「給湯室へ油売りに来るのが業務か? だったらもっと成敗が必要だな」
払いのけようとする私の手をかいくぐって実に的確に“スイッチ”を押して回る“ジュニア”の指に私の膝は震える。
「……早く戻らないと……」
「だったらこう言え!『常務のワイシャツの裾が汚れていたので午後の商談に間に合うようにデパートへ買いに行っていました』と」
「そんな無茶な!」
と言い終わらないうちに“ジュニア”の鼻先が私の髪を分け入って来て、私の耳朶に言葉が流し込まれた。
「お前ので、裾を汚された事があったよな」
私はもう、抗いの首を振るのがやっとだった。
カレの指が昔と同じ様にうなじを這い滑りプラチナのチェーンを摘まむ。
「オレがはめた“首輪”に何を付けてんだ?!」
「勘弁してください……」と返す私の声はもう、喘ぎ声混じり
こんな事ばかりが得意なクズ男が仕切る事になったら会社は間違いなく傾く。
そうなる前に、“一抜けのネズミ”になるが如く婚活に勤しんできたのに!!
私の心とは裏腹に、胸元からジワジワと引き上げられる指輪とブラウスのボタンを外す彼の指先に官能するカラダを止めるすべは……ありはしなかった。
おしまい
まあ、こんなやつらは……
どうとでもなればって感じなのですけど(^^;)
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