妖人街
最後まで楽しんでお読み頂けると嬉しい限りです。
だれもが一度は聞いたことがある。
鬼、天狗、河童、雪女。
最近なら口裂け女、トイレの花子さん、などなど……。
これら全ての妖怪、または妖などと呼ばれるものは大昔から実在している。
平安時代、人を好きになり、結ばれ、子を作った妖がいた。
その子は母親である妖の能力を使うことができ、名のある陰陽師となった。ただ、その力を世に広めたくなかった。
だから普通の人間と結婚し子を作った。
しかしその子も力を使うことができた。
だからとて殺すこともできず、妖の血は時間が経つほど、網目状に広まっていった。
これは特殊例ではなく、昔から多くの種類の妖怪でも起こっている。
そこで昔の人は考えた。
そして現在。世界は妖怪の血が混ざる妖人の力が重要になった。
日本五大妖都、朱雀山。
五大妖都の中でも頭一つ抜けているこの街は、妖人街と呼ばれている。
「ってのが、我らが妖人街の歴史でしたー」
妖人街のことを詳しく知らない子供たちにこの街の歴史を教えている。
聞きたいことがたくさんあるようだ。皆モジモジしている。
「はーい。じゃあ聞きたいことある人ー?」
皆手を挙げた。
「お姉ちゃんも能力使えるの?」
「そりゃもちろん。あと正しくは妖力ね」
さらに厳密にいうと妖術だ。
「僕らも使えるようになる?」
「使えるようになるかもね。でも暴走しちゃうと私らに殺されるかもしんないから気を付けてねー」
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
子供たちが逃げていく。なにか怖いことを言ったわけでもないのだが。
「あれ? なんか怖いこと言ったかな?」
「ちっさい子に殺すなんて言ったらあかんやろ」
「おっ、犬神。飲み物ありがと」
「あとでや。スマホ見とらんのか」
そう言われて仕方なくスマホを見ると、(九条大路に完全妖体出現)とあった。
「んー? あーホントだ。しょうがないなー。一働きしてからアフタヌーンティーにするか」
「お茶ちゃうけどな」
「まぁまぁ細かいことはいいの。ん?」
自らが張った結界に異変が起きた。
「どないしたん?」
「いや、結界誰かがくぐっただけ」
「今? なんちゅうタイミングなんや」
「そーゆーことじゃないんだけどねー」
「あ? どうゆうこっちゃ」
「なーんか妖力を全然感じられないんだよねー」
結界は普通、妖術を使えるか、少なくとも妖力を認知していないとくぐれない。
「んなことあるかいな。妖力ない奴がどうやって結界くぐんねん」
「それはそうなんだけどー」
「まぁええ。とりあえず自分らの仕事はよ片付けな」
「はいはーい」
そして、急いで現場に行こうと思ったらサイレンが鳴った。
「警報。九条大路に完全体出現。直ちに避難してください。繰り返します……」
「これさー。いっっつも思うんだけど私らより皆が先じゃない?」
自分たちにメールを送っている暇があるならもっと早く鳴らせるだろう。
「そらそやな。あとでボスに言ってみっか」
そんな面倒臭いことはしたくない。一人でやっていただこう。
「たのんだー」
「なんでやねん! お前も一緒やろ!」
まさか犬神もそんなに嫌だとは思わなかった。
「わかったわかった。おっきな声出さないで」
「ったく。はよ行くぞ」
「あいよー」
妖人街の外れの山道、一人の高校一年生がいた。
(ここが妖人街か。すっげぇデカい)
綺麗な山道を歩き続けていると、ビルとまではいかないが、背の高い建物が見えてきた。
街の数百メートル手前だろうか。
急に、鳥肌が立つときのような気持ち悪い感覚に襲われた。
擬音をつけるなら「ゾワッ」が正しいだろう。これはおそらく結界だ。
街に着いた。大きな門がある。人に話しかけられた。
「お兄さん旅行者? この街は初めて?」
「はい初めてです。どんな街なんですか?」
「どんな街ってそりゃあ、妖人が住む街さ。あんたはなんとのハーフだ?」
「僕は純人間ですよ」
「え? 妖人じゃないの?」
なにをそんなに驚くことがあるのかわからない。
しかし突如、警報とアナウンスの音が響いた。
「警報。九条大路に完全体出現。直ちに避難してください。繰り返します……」
サイレンが鳴った。
完全体。聞いたことはある。力を抑え切れず血に潜む妖に飲み込まれた状態の妖人のことだ。
「九条!? ここじゃんか! あんた早くあの建物に入るぞ!」
勝手に焦りだして勝手に決定している。すると急におじさんが手を引っ張ってきた。
その三秒後、横から恐ろしい気配と雰囲気を感じた。
恐る恐る横を向くと、そこには手と足が長い化物がいた。
(え? は? ん……んだよあのバケモンは)
そう思ったのと同時、本能が足を動かした。おじさんと一緒に走り出す。
すると、後頭部になにかがカスった感覚がした。
振り返ると、ただでさえ長かった腕がさらに長く伸び、さっき俺の頭があった位置を通りすぎていた。
(え? 今動いてなかったら……)
恐ろしい想像をしてしまった。怖さでまた足が止まる。瞬きの回数も増えている。
死ぬ気で走った。もう倒れそうだ。
「こ……ここは……なんて場所ですか?」
「ここは……そうだな、防妖壕とでも言おうかな。こういうときに一般人が逃げ込むとこ」
たしかに多くの人が集まっているが、あの化物との間には壁一枚しかない。
「ホントに大丈夫なんですか?これだけで」
「大丈夫だ。この壁を破られる前に倒してくれる。まぁ、倒せなくても破られることはないだろうけどな」
倒す。つまりなりたい職業ランキング1位の退魔師が外で戦っているということか。
(そういえばあのクソ野郎も退魔師だったらしいな)
見たい気持ちを抑え、このシェルターで事態が落ち着くまで待った。
5分後、おそらく退魔師であろう男1女2の3人組が入ってきた。
「みなさんご安心ください。もう倒しましたんで。ここから出るのはあと10分ほどお待ちくださーい」
そう言ったのは女性の一人だ。女性というか女子だが。
その3人はなにかコソコソ喋っている。探し物でもしている雰囲気だ。すると、3人が近づいてきた。
「妖力をほとんど感じないのはこの方ですね」
さっき呼びかけなかったほうの女性が言った。そしてそれに続けて呼びかけたほうの女性が訊いてきた。
「あなたは何とのハーフですかー?」
これをあと何回聞くことになるのだろうか。
「純人間です」
「じゃあやっぱりおかしいね。ボスのとこに連れてこうか」
なかなか物騒な言葉が聞こえたが大丈夫か?
「ごめんなさい。あまり怖がらないで」
「紫音さんの言い方が悪いから」
「ごめーん。でさ、私はここの結界を張ってるんだけどさ、普通、純人が通ることはできないんだ」
「じゃあ俺は妖人ってことですか?」
「いや見たとこホントに純人っぽいね。まぁ私たちにはわかんないから偉い人のとこに連れてくね」
「わかりました」
そして3人はどこかへと歩き出した。俺はそれについて行った。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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