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双生のインプロア  作者: クロレキシスト
序章:超常の邂逅
11/34

EP11:真紅と辛苦と望まれるべき再会


         《1》


 辻斬必手の宿す《マックスエンド・スパイス》は、宿主の肉体に二つの変化をもたらす能力——一部の博識な人間たちの間では、《異形系》という名前がつけられた能力系統のもの——だ。

 まず、この能力は「体格の変化」をもたらす。宿主の肉体は能力の発動によって、筋肉並びに骨格が肥大化し、頭に角が生えることも相まって、まさしく鬼神が如き体躯へと変貌する。

 元々百七十一センチメートル程度だったヒッテの身長は百九十近くにまで急成長し、さらに運動不足気味でヒョロヒョロとした四肢は、ギリシア彫刻のような屈強かつ美麗な筋肉を得る。反動こそ存在するが、それも肉体の一部のみを肥大化させることで克服できる。

 これだけでも相手にとっては十分脅威となり得るのだが、ここに二つ目の変化が加わることによって、宿主は更に格上にも対抗し得る力を得る。

 その二つ目の変化は、「刺激性の液体を分泌する」ことだ。一つ目の能力で肥大化した腕には、朱色の怪物じみた鉤爪が備わっている。その根本からは、人体に強い影響をもたらす朱色の液体が分泌されている。

 一度皮膚に触れれば炎症を引き起こし、気管に入ろうものならば例外なくむせかえる。体内に吸収すると体を巡ってアドレナリンの分泌を誘発し、激しい発汗と心臓への負荷をもたらす。また場合によっては痛覚を麻痺させる作用をもたらすが、液体そのものがもたらす苦痛と比べると気休め程度にしかならないだろう。

 これらの特徴は、唐辛子類に含まれるカプサイシンによく似たものだ。それ故にヒッテは、この力を「最も死に迫るスパイス」、《マックスエンド・スパイス》と名付けた。

 また、その力が何を由来とするものかは、ヒッテの容貌が言葉を介さずして語っている。

「君も……この世界の底に溜まった、罪人の一人ということか……」

 フェニックスは、目の前に立つ大男へ、その言葉を投げかけた。


 ——悪魔。


 《ツインズ》のことをよく知る者たちは、死後《冥界》に流れ着いた罪人の成れの果てを、その言葉を用いて人間と区別している。

 悪魔は基本、死ぬことがない。すでに人間としての死を経た上で、悪魔としての「第二の生」を受けているためだ。だが例外として、明確に殺害する意思を持った攻撃を受けた時と、《冥界》ではない場所で攻撃を受けた時には、死亡するリスクが生じてくる。

 しかし、生物学的に死亡したとしても、その魂は依然として世界に存在し続ける。そういった魂はやがて、自我を持つ前の肉体に憑依し、第三の生を開始する。だがその魂が持っていた自我は、その肉体本来の自我の成長に伴って薄くなり、やがて消滅する。

 しかし、それが何らかのきっかけで覚醒するケースが稀に存在する。その「二つの自我」、そして「二人分、もしくはそれ以上の生命力を有した魂」がもたらすのは何か、もう言うまでもないだろう。

「悪魔の魂を持った人間……ますます気に入らない!」

 フェニックスは荒い息を制して叫ぶ。

「俺は悪魔を恨んでいる。そして君もまた、悪魔の力を宿す一人だ。この戦いは君から仕掛けられたものだが、どうやら俺にも、君を相手にする理由ができたみたいだ!」

 一方のヒッテは、少年の叫び声など聞こえていなかった。彼の額には汗が伝い、左手は脇腹に添えられている。

(——こいつ強い……《サイダーズ》ってやつなだけあるな……)

 ここまで戦いで、両者の消耗は限界直前まで進んでいた。

 ヒッテの攻撃は体術と爪での切り裂きを中心にしており、一撃が重い。躱したとしても、例の液体が降り注ぎ、全身を蝕む痛みを与える。だがフェニックスに物理攻撃は通用しない。彼の血によって傷が焼き塞がってしまえば、もう攻撃などなかったも同然だ。

 しかしその特性は、相手も利用できてしまう。フェニックスの攻撃は血の炎を纏った格闘、その攻撃は確かに激痛を伴っているが、体に傷が残ることは絶対にない。

 ではこの終わりのなさそうな勝負に、一体どうやって決着をつけるのか。実はその答えは至極単純で、どちらかが負けを認めてしまえばいい。フェニックスが毒液の苦しみに音をあげるか、もしくはヒッテが再生の痛みに耐えきれなくなるかの戦い。

 つまりこの戦いの本質は、「我慢比べ」というくだらない一言に集約されてしまうのだ。

(——早めに決着をつけさせる……絶対に!)

 先に攻めに出たのは、ヒッテの方だった。彼は両手を広げ、フェニックスへと駆ける。両手の爪からは大量の刺激液が流れ落ちている。

 何度目かの攻めの姿勢に気づいたフェニックスは、咄嗟に近くの瓦礫を手に取り、ヒッテへとそれを投げつけた。ただ瓦礫を投げたといっても、手のひらにギリギリ収まるような大きさの壁の欠片を山なりに投げたわけではない。バスケットボールよりもやや大きいくらいの、折れた鉄筋が貫通した塊。それを、ほぼ地面と平行に「ブオォン!」と風を切って投げつけたのだ。

 当たったらまず肉が抉り取られるであろうそれを前に、ヒッテは左手を振るった。直後、「ガァン!」と甲高い音がこだまし、彼の毒爪がコンクリートの塊を切り裂いていた。

 攻撃を受けたヒッテは、さらに加速する。今の彼はまるで暴走トラックのようであり、もし正面からぶつかったとすれば、全身の肉が四散することはどう足掻いても避けられないだろう。

「ゥオラアアアアアァァァァァッッッ!」

 ヒッテが特別強く地面を踏み切る。彼の屈強な肉体が一つの砲弾となって、フェニックスへ襲いかかる。だが。

「そんな攻撃……見切られて当然だとは思わなかったのかい!」

 フェニックスは、なんとヒッテの方へ駆け出し、身を低くしてスライディングをしたのだ。そのタイミングでちょうどヒッテが強く踏み切り、わずかながらも彼の体が浮いていた。フェニックスはその足の下を通ると、そのまま地面を滑るヒッテを見送った。

 ヒッテは地面に体を打ちつけ、路面に表面を削られる。それだけでも十分な痛みだったが、彼は更なる衝撃を感じた。背中に降ってくる体重。フェニックスが真下へ向けた飛び蹴りを繰り出していたのだ。ヒッテは内臓が圧迫されて悲鳴を上げているのがわかった。

「次はこうだ」

 フェニックスが宣言すると、首筋に鋭い何かが突き刺さった。彼がヒッテの首筋に犬歯を突き立てていたのだ。

 だが、《マックスエンド・スパイス》で増強された筋肉はもはや、ただ純粋な力を盛るだけにとどまらず、それ自体が鋼が如き肉の鎧になっていた。故にその歯はロクに血管まで届かず、表面をチクリと刺すだけにとどまっていた。

 それにフェニックスが気づく前に、ヒッテは彼の頭をガッチリと掴む。そしてそのまま、それを地面に勢いよく叩きつけた。ヒビが入る頭蓋。飛び散る瓦礫と血液。ヒッテは今まで受けた苦痛を全て返す勢いで、異形の手のひらに収まる頭を、その顔を隠す仮面ごと、何度も何度も叩きつけた。

「オラァッ! オラァッ! オラァァァァッ!」

 ほとんど衝動に任せて、握る箇所が無くなるまで徹底的に叩き潰す。自身の刺激液が散った空間にずっといたせいで自身にも成分が回り、興奮状態に陥っていたのもあっただろうが、その間彼に理性的な部分は残っていなかった。やがて原型がなくなると、ヒッテはその胴を掴み、山なりに投げ捨てた。首無し死体は、中身を撒き散らしながら宙を舞う。

 だがヒッテにもまだ見える距離にいる間に、その屍が炎を吹いて、空中で徐々に元の姿を取り戻していく。

「痛いなぁ……!」

 何の支えもない空中で体勢を整え、フェニックスは膝から着地する。もちろん高度的にノーダメージでの着地とはいかなかったようだが、それもじきに再生するだろう。

(——攻撃しても攻撃しても再生する……その上あのリアクション、あいつ、まだまだ攻撃をやめないつもりだ……クソッ埒が明かない、いったいどうしろっていうのさ!?)

 そんなことを考えている間にも、フェニックスは肉体の悲鳴お構いなしにブーストをかけ、全身の古傷から炎を噴きながら接近してくる。

「こんなにも野蛮な戦いに、知恵が入り込む隙があるとでも?」

 感覚的には、一瞬だった。かなり遠くまで投げ飛ばしたはずなのに、フェニックスの指がヒッテのこめかみの表面を抉り取った。

 フェニックスは距離が詰まり切る前に、先ほどのメアとの戦いでやったように手の指を射出したのだ。狙いはあまり正確ではなかったが、それでも肉の弾丸はヒッテを掠ったのだ。

「ああ……だが知恵を使うのも悪くない。君の攻撃を受けずに、俺の攻撃だけを通す良い手段を思いついた……今やったこれがそうだ」

 フェニックスは接近を止め、瓦礫の山の頂点に立つ。そしてそこから、文字通りの意味での「指鉄砲」を乱射した。自身のこめかみを攻撃したそれの正体、それを考える暇を与えられる前に、ヒッテへ襲いかかる肉の雨。予測し難い不安定な挙動、それでも十分ヒッテにダメージを与えられる範囲に発生する、血の炸裂。不死の炎。全てが脅威だ。

 ヒッテは手に力を込めた。自身の《ツインズ》を肉体から引き摺り出すようイメージすると、その手には武器が握られる。赤と緑に塗られた無数の棘を有した鬼の金棒。《マックスエンド・スパイス》の持つ武器形態だ。

 これ以上攻撃を受ければ精神が負けてしまう。そう悟ったヒッテはすぐさま、その小型ミサイルの群れをできる限り自身から遠ざける方向に戦闘をシフトした。

「ヴァァァァァァァァ——ッ!」

 金棒は凄まじいスピードでスイングされた。棘の根本から漏れ出た刺激液を空気中へ拡散するとともに突風を巻き起こしたそれは、同時に指ミサイルの挙動を乱し、ヒッテに当たりそうなものは野球ボールのように弾き返した。朱色の旋風が吹き終わる頃には、その台風の目に立っていたヒッテがそこで膝をついていた。

 肉体を組み替えるという普通ならあり得ない事象を引き起こした上で、平常時の数倍の筋肉へエネルギーを供給しなければならないために、《マックスエンド・スパイス》を使用した時の体力消耗は洒落にならない。フェニックスのような大物を相手にしない限り、変化の範囲も腕だけに留めているほどなのだ。

 本来であれば、ヒッテは限界をとっくに超えている。フェニックスの血による無尽蔵の生命力供給によって、つまりは相手の攻撃によって、かろうじて体力は賄えている。だが体力だけあっても、それを十分に使えるだけの精神力がなければ意味がない。

(——一気に畳み掛けないと負ける……でももう僕には……!)

 すでにヒッテは、小さなきっかけで戦いを放棄しかねないほどに精神を消耗していた。もしフェニックスが次の手に踏み切り、彼に罵声を浴びせながら深々と拳を叩き込んだのなら、ヒッテは発狂して動かなくなるだろう。

 幸い、ヒッテは自身の周囲に刺激液を撒き散らしていた。刺激液は水よりも速く蒸発する特性を持っている。蒸発によって大気中に舞った刺激成分は、ヒッテを包み込むようにして漂っている。先ほどのような遠距離攻撃は防げずとも、接近戦を仕掛けられることはないだろう。

 微かに朱色に染まった空気の中、ヒッテは呼吸をする。精神的に追い詰められたためか、はたまた《ツインズ》の毒が少なからず自らにも影響を及ぼしているためか、その息は浅く、間隔が早い。

(——もしこのまま僕が挫けたら、メア姉ちゃんとかルリとかってどうなって……いいやだめだ、そんなこと考えるな!)

 己から湧き出るネガティブな思考から目を背けるために、ヒッテは不死鳥へと再び意識を向けた。

 だがしかし。

「……?」

 ヒッテの見た不死鳥は、見当違いな方向へ指ミサイルを放っていた。まるで、何か別のターゲットが現れたように。

(——一体何を狙ってるんだ? もう騒ぎはかなり大きくなってるから、下手に近づくような人はいないはず……もしかして!)

 ヒッテは知人の顔を思い浮かべ、走り出した。


       《2》


「まさか、こんな短時間で立ち直るなんてね。メア・ヒュノプス」

 フェニックスは、翼を力強くはためかせて向かってくる、一人の悪魔へその言葉を投げかけた。殺意と血液をこめたミサイルと共に。

 名を呼ばれたメアは、旋回しながらミサイルを避け、勢いを全く殺さずに、瓦礫に立つフェニックスへと突っ込んだ。赤い三叉槍がコンクリート片を穿つ。噴煙が昇るが、それもまた一瞬でかき消された。フェニックスが瞬時に右拳を放った、その風圧によって。その拳もまた、メアが構えた三叉槍の中腹で受け止められていた。

「いや、別に立ち直ったってわけじゃないんだよ。実際テメェを逃した罪は重い、クビまで行かなくても、干されるくらいは確実だなぁぁって思うと息が詰まる……でもアタシ、気づいちゃったんだよなぁ」

 槍を回り込むようにして、フェニックスの左拳が飛ぶ。メアはそれを屈んで回避した。と同時に、槍に体重を預け前傾気味だったフェニックスは、突然支えがなくなったせいでよろける。メアはそれを見逃さず、すぐさまフェニックスの背後を取り、その背中にヤクザキックを叩き込んだ。更に、その足でフェニックスを地面にギリギリと押さえつける。一見すると、どちらが悪役か分からなかった。

「アタシがここでテメェを捕らえた暁にゃ、左遷くらいで済んだり、もしかしたらチャラってこともあるんじゃねェかなァなんて……さアァァァァァァッ!」

 メアはフェニックスの首に、三叉槍の穂先を突き刺した。

 ——ブシュッ!

 飛び散る鮮血。発火性のそれを顔面に浴びながらも、メアは狂喜に顔を歪め、笑っていた。

「アハっ! アハハハハっ! アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 顔が焼かれても、メアは笑い続けている。槍を引き抜き、もう一度突き刺す、それをひたすら繰り返している。まるで鶏肉に下味が馴染むよう、表面にフォークで穴を開けていくように。

 ——「滅多刺し」。その一言に尽きるだろう。

 その姿はまさに悪魔そのものであり、悪い夢と信じたいほど、見るに耐えないものであった。しかし。

「いい加減に……しろッ!」

 踏みつけられて穴だらけにされてもなお、フェニックスは立ち上がった。全身の傷穴から炎を吹き上げ、その爆風によってメアの体が打ち上げられた。

「うわ——ッ!?」

 あの苛烈で非道な攻撃を以ってしても、フェニックスに負けを認めさせることはできなかったのだ。彼は背中に降り注ぐ無数の痛みを耐え抜いたどころか、むしろ怒りによって力を取り戻したかのように見えた。

「……君たちは、俺を虐げることを楽しんでいるんだろう。俺が死なないのをいい事に好き放題苦しめる。やはり悪魔の本質は、あの争いの時から全く変わっていないようだ」

 彼の意思もまた、怒りに支配されていた。その仮面の奥には、自ら潰したという眼球がいつの間にか蘇っており、冥界の赤い空を落ちていくメアの姿を、限界まで目を開いて見つめていた。

「メア姉ちゃん!」

 ヒッテは走りながら、その名前を叫んだ。それに気づいたメアが慌てて翼をはためかせ、空中に留まる。どうやら打ち上げられた時に、意識が途切れていたようだ。

「あっぶねー……なあヒッテ、アタシはあの不死鳥を捕まえる。だから手伝ってくれるよなァ!」

「無茶だよ! それに捕まえるとしても、周囲の被害が大き過ぎる!」

「これ以上放っといたら被害は余計に増えるだけだろ! 今捕まえなきゃ意味ねーんだよバーカ!」

「バッ……!? と、とにかく、今はアイツを止める事に集中しろってこと!?」

「そーゆーことだ、行くぞ!」

「あ、ちょ、待って!」

 メアは翼を力強くはためかせ、フェニックスとの間合いを詰める。

(——自分から眼を再生してくれるなんて好都合だ、これでアタシの能力が使える!)

 フェニックスの意識がメアに向いた。もちろん視線も。

「悪夢に堕ちろ、《インフェルノ——」

 メアは眼を赤く光らせる。その奥に浮かび上がる、月の形。確かにそれはフェニックスの瞳の中にも転写された。直後、


 ——ビシュゥッ!


「は?」

「その手には絶対にかかりたくないからね。対策を何個も用意するのは当然だろう?」

 メアの瞳を、緋いレーザーが貫いていた。その直線を辿れば、レーザーがフェニックスの瞳から伸びていることがわかるだろう。

「圧縮した血液を眼窩から撃ち出す技だ。あの脚本家のガキの家で見かけた漫画を参考にしたんだけど、上手く再現できていたかな?」

「て……めぇ……!」

 目は急所だ。突然の激痛に、メアはそのまま墜落する。地面に落ちていく悪魔の姿を、愉悦に浸りながらフェニックスは眺めた。

 だがその姿が地面でひしゃげる前に、フェニックスは後ろを振り向いた。

「奇襲のつもりだったんだろうけど、生命力探知で丸わかりだよ」

「……ッ!」

 振り下ろされた金棒を、古傷が開いた右手で受け止める。噴き上がる炎が限界を超えた出力に耐えきれず弾ける筋肉を即座に再生し、圧倒的な腕力を生み出す手助けをしていた。

 ヒッテの脳天を狙った打撃は受け止められてしまった。だが、それは本命の攻撃ではない。彼は金棒の持ち手を強く握り込んだ。

「ぐあっ……!?」

 フェニックスが悲鳴をあげる。呼吸器に、皮膚に、そして再生したての瞳に染み付く、朱色の激痛。金棒の棘の根本から、刺激液が吹き出たのだ。

「目は急所だ。唐辛子の成分をモロに受ければ、最悪の場合失明することもある。ちょっと人の道は外してるけど……喰らえッ!」

「くそッ……これしきの痛み……死の苦しみと比べればッ」

 フェニックスはイメージする。誕生から今までに受けた、無数の死の苦しみを。「不死」であることを確かめるために、あらゆる方法で殺されてきたあの時の苦しみを。戦乱の中で味わった痛みを。

「そうだ……これしきの毒で俺が負けるはずがない! 俺は不死鳥だ、あらゆる死の形を以ってしても、世の苦しみを以ってしても、負けることはあり得ないのだよ!」

 それは周りに知らしめるようでありながらも、自分に言い聞かせるような響きも伴っていた。その修羅の形相は仮面に覆われて誰にも見えなかったが、仮にその素顔が晒されていたならば、思わず凄んでしまっていただろう。

 何かが来る、そう悟ったヒッテは、金棒を握る手に更に力を込めた。今度は指だけじゃなく拳ごと飛ばしてくるかもとか、また目から血のレーザーを飛ばしてくるかもとか、様々な推察を飛ばしてみる。だが実際に来たのは、思っても見ないことだった。

「俺は《サイダーズ》第一座、『自殺の不死鳥』! 不死鳥は自らを焼き滅ぼし、その灰よりよみがえ……あ?」

 金棒を抑えていた不死鳥の腕が、突然力を失ったのだ。金棒にかかっていた力が一気にフェニックスへ解き放たれ、その体が地面に叩きつけられる。

 ヒッテは図らずも、金棒を思い切り地面に叩きつけ、不死鳥の体を地面にめり込ませたことになる。彼は動揺した。まさかあえて攻撃を受けて全身から出血することで、人間爆弾にでもなろうとしているのだろうかと、疑いを巡らせた。

「何が……起きている?」

 だが更に予想外なことに、地面と金棒の間からは、震えを伴った声が聞こえた。ヒッテはその隙間を咄嗟に覗き込む。

「俺の体に……何が起こっている!?」

 叩きつけられた衝撃で、不死鳥の仮面は粉々に砕けていた。露わになったのは、《スーサイド・フェニックス》の借り物の素顔——記憶を贖罪の炎に焼かれ、体を現世への束縛の炎に炙られ続けている、一人の少年の素顔だ。仮面は皮膚と同化していて、それがなくなった今は肉が露わになっているはずだが、再生能力故か、その顔は綺麗な状態で冥界の空の下に晒された。

 そして特筆すべきことに、その瞳の色は、少年元来の暗い茶色でも、不死鳥の与えた緋色にも染まっていなかった。虚空を見つめる目は、冥界の空にも似た煉獄を思わせる月光を湛え、今にも寿命を迎えそうな蛍光灯が如く、その赤い光を明滅させていた。


 ——不死鳥は、防いだと思っていた《インフェルノ・ムーン》の術中に、不完全ながら堕ちていた。


         《3》


 不意に瓦礫の山から、人影が現れた。

「……『白昼夢』って言葉、知ってるか?」

 重い前髪の奥で、紅い月光を放つ瞳が、フェニックスと同じタイミングで、か細く、それでいて劇しく点滅している。フェニックスの血で回復されたことが何らかの異変を引き起こしたのか、はたまた紅い月明かりがフェニックスの瞳に映ったのがほんの一刹那だったせいなのかは分からないが、居合わせた誰もが知らない——能力者であるメアさえ初めて体験する事が起こっていた。

「なんでも、起きてんのに夢を見てる、それか、夢を見ているように上の空で妄想してるってことらしい……これを聞いて……アタシは思ったわけさ……『起きたまま悪夢を見ること』は、できんのかってさぁ……」

 メアが流暢に説明できている理由は、自身の能力を研鑽する過程で、人間の「夢」や「認識」について様々なことを調べたからに他ならない。初めて見る事象を、有り合わせの知識を組み合わせて、あたかも前々から用意していた奥の手かのように説明してみせる。正確に言えば今起こっていることは、メアがかつて目指していた能力の発展のうちの一つだ。「想定内の偶然」、とでも言うといいだろうか。

 呪いのビデオから現れそうな、ゆらりゆらりというような不気味な動きで、悪夢の悪魔はフェニックスへと近づいていく。その距離が一歩縮まる度に、ヒッテの足元のフェニックスの顔色が白くなっていく。何か、恐ろしいものを目にしているようだった。

「アタシはテメェの見てる悪夢の中身を見られんだけどよ……これ……何だ? 黒いローブの人影がいくつか……何かテメェを責めてるみてぇだな……アタシの能力的に、これはテメェの記憶から引き出されたシーン、『トラウマ』ってやつのはずだけどよ」

「あ……アッ……!?」

 フェニックスは答えない。メアの言葉も、ヒッテの姿も、何も分からないようだった。覚醒状態にありながら、完全に意識が悪夢に呑まれてしまっている。より端的に表すなら、彼は幻覚を見ている。それも外界の刺激を受け付けないほどの、強固な幻覚を。

「ああ、あともう一つ、説明しなきゃいけねぇ事があるな」

 メアはフェニックスのすぐ側まで来て、その顔を覗く。続いて、不死鳥の体を地面に押し付けるヒッテにアイコンタクトをとった。

 ヒッテは金棒の実体化を解除し、不死鳥の体を解放した。自身の年上の友人の眼光に、揺るぎない勝利の確信の片鱗を感じたからだ。

「——テメェはよ、『ノセボ効果』って知ってるか?」

 悪魔はその言葉と共に、人差し指で不死鳥の額を突いた。その瞬間、フェニックスの額に、緋い液を吹く間欠泉が出来上がった。

「うわアァァァァァ——ッ!?」

 フェニックスが悲鳴を上げる。メアがしたのは、ただ軽く額を指先でつっつくという、何でもない行為だ。そこに攻撃の意思も、攻撃になるだけの衝撃も込められていない。にも関わらず、フェニックスの体には、重篤な傷——矢に貫かれたような跡が現れたのだ。

「『プラセボ効果』くらいは——『プラシーボ』って言った方馴染みあるかもしれねぇが——、有名だから知ってんだろ? 薬になるような成分が含まれてない偽薬でも、『これには不眠を治療する効果がある』って薬を飲むヤツが信じてれば、不眠が治るってアレだ。要するに人間の思い込みは、時に現実の肉体に影響を及ぼしかねないってことだ。んで、ノセボ効果はそのネガティヴな方だ」

 悪魔は、今度は不死鳥の右肩をつつく。するとさっきと同じように、存在しない矢によって射抜かれたような跡が発生した。

「あガッ……ハあァァッ!?」

「その偽薬に副作用を起こすような成分が含まれてないくせに、『この薬には害がある』って思い込んだせいで、存在しないはずの副作用が現れる。同じ『脳の勘違い』が起こすものでも、プラセボは人間に利のあるもので、ノセボは人間に害があるものだって違いがあんだよ。んで、その『脳の勘違い』は時に、体の不調とかそーゆーのじゃ収まらない時がある」

 メアはヒッテに目配せした。ニュアンス的には、「ほら、お前もやってみろよ」というような感じだと思われる。

「……嫌だよ」

「うるせぇお前も悪夢に堕とすぞ」

「それはしっかり脅しだと思うな」

 ヒッテはその圧に負けて、能力を解除する。身長は二十センチほど縮み、筋骨隆々としていた体格も、人並みもしくはそれ以下ほどに落ち着いた。額の角は消滅し、爪も人間のものへ戻った。

 そして彼はその「ただの人間の指」で、フェニックスの手の甲をゆっくりなぞった。その結果を見て、ヒッテはゾッとした——あの朱色の爪を立てたわけでもないのに、刃物を走らせたようにその皮膚が裂けたからだ。

 メアは「な。言った通りだろ?」とでも言いたげに自慢げな表情を浮かべると、フェニックスを見てまた口を開く。

「冷たいアイロンを押し当てたり、ポットから注いだ冷水をぶっかけたりすると、人間は火傷をするもんだ。『アイロン』とか『ポットから注がれた液体』が『熱いもの』だって先入観で、つまりは脳の勝手な『勘違い』のせいで火傷をするってことらしい……今テメェが見てる夢じゃ、黒いローブの奴らは弓だったり刃物だったりで武装してるみてぇだな。その武器による攻撃のイメージと、アタシらがテメェの体に触れた感触、その二つが重なって、アタシらがテメェに触れた≒黒ローブが攻撃したって『勘違い』が発生する。人体に害ある錯覚が発生してるから、これは『ノセボ効果』で攻撃してるって言える、だろ?」

 フェニックスは相変わらず答えない。ただ自分の見ている光景が信じられない、体に走る鮮明な痛みが信じられないという感じで、水中に酸素が足りない金魚のようにパクパクと口を動かしていた。

「あー、これあれか。アタシたちの姿も、悪夢の中で黒ローブに置き換えられてんだなこれ。んじゃ、アタシらの声も聞こえてねぇってことでいーのかな」

「僕に聞かれても分かんないよ?」

「んー、じゃあとりあえずそういう仮説があるって事にしとくか」

 場違いに適当というか、やけに軽々しいトーンは、まだメアが狂気から正気に帰ってきていない証左なのだろうか、なんて恐ろしいことをヒッテは考えてみる。

「で、どうするの? 今コイツが悪夢の中にいるなら、目を覚ます前にさっさとトドメ刺しちゃった方がいいと思うけど」

「それもそうだけど……せっかくアタシの人生、いや『悪魔生』終わらせやがったクソ焼き鳥がアタシの手に堕ちてくれたんだ……たっぷり虐めてやらないと納得しねェ」

「あっそ……」

 そういえばメアは、やられたことはやり返すまで引きずるタイプだったなと思い出す。ヒッテがメアにこうして会うのは実に半年以上ぶりだったが、《冥界》のややブラックな職場環境に置かれ続けても、その本質は変わっていなかったようだ。

「さてさて、次はどこを攻撃してやろうか……首か? 脚か? それとも胸か? 腋とかもいいかもな」

「……てくれよ」

 メアがフェニックスの体を舐めるように眺める中、不意にフェニックスが言葉を、「寝言」を発した。

「やめてくれよ……確かに狂ったのは俺の方だ、でもだからって追放はおかしいだろう……? ……はは、聞く耳は持たないみたいだね」

 どうやらその言葉は、黒ローブたちに向けてのものらしい。それはいつになく弱々しく、恐れを抱いているように聞こえた。

「でも俺たちは仲間だ、いくら俺が君たちと違うからって、そうやって追い出すっていう結論に至るのはおかしいだろう? ……え?」

 不死鳥が首を傾げたその時、ゴトリ、と彼の左腕が落ちた。

「「「——ッ!?」」」

 フェニックスも、それを見ていたヒッテも、悪夢に落としたメア自身も、全員が息を止めた。だが程なくして、不死鳥の少年は、諦めたような笑いを見せた。荒い息も涙も止めず、ただ諦めたように。

「ああ——最初から分かっていたさ。俺は生きた人間のようで、でも君たちは機械のようで、分かり合えるはずがない。合理主義にとって人情なんてものはノイズでしかないんだろう、……分かっていた、分かっていたけれど、君たちに見捨てられたら、俺は一体どこに行けば———そうかい。君たちはどこまでも、創られた理由に縛られ続ける冷たい奴らなのか……しがみ付いていた俺がバカみたいじゃないか……じゃあ、君たちに『廃棄』される前に、一つだけ忠告しておこう。それを聞いたら、俺の頭を切り飛ばしても構わないさ」

 不死鳥は息を深く吸い込み、その言葉を口にした。

「——今、《天界》のヤツらは新しい《サイダーズ》の開発に着手している。戦争が終わろうとしている今、必要のない兵器を生み出そうとしているんだ……俺からの最後の願いだ。もう俺たちのような宿命を背負った、冷たい冷たい生き物を、これ以上増やさせるな」

 最後の一文字が放たれた直後、その首を取り囲むように、緋い線が現れた。その線から、緋い液体が垂れ始めた。

「頼んだよ……《サイダーズ》を完成させないでくれ」

 緋い首輪は、突如として上下に炎を噴射した。フェニックスの姿を一本の火柱の中に覆い隠したと思えば、それは爆散し、大量の火の粉を周囲に撒き散らした。

「ヤバっ……!」

 咄嗟に身構えるメアとヒッテ。だが、火の粉は二人に降りかかる直前で、見えない壁に阻まれたかのように停止した。メアが悪夢を通して見てみれば、火の粉は全て、フェニックスを取り囲むように立っていた黒ローブたちが受け止めていた。

 フェニックスが意識を喪失したのと同時に、悪夢は消滅し、火の粉も消えて無くなる。その中から現れたのは、眠る一人の少年の姿だった。

 少年の体を挟み、メアとヒッテはしゃがみ込む。

「……これ、勝ったってことでいいのかな」

「起きないし、そういうことでいいんじゃねぇのかねぇ?」

「僕ら勝ったんだ……不死身の化け物に……」

「……んじゃ、コイツの身柄はもらってくから」

「え? ちょっと待ってよ、僕の話聞いてなかったの!? 僕はこの日暮くんをルリのとこまで連れてくために、わざわざ《冥界》まで来たんだよ!?」

「あーそうだったの? てっきりアタシのために駆けつけてくれたもんだとばかり……でも、アタシは自分が可愛いから、立場を保つためにコイツを使わせてもらうよ、異論は認めない」

「待って待って、ルリのことはメア姉ちゃんも知ってるでしょ、なんなら会ったことも話したこともあるよねッ!?」

「うん。だから何」

「だーッ!? じゃ、じゃあせめて僕もその冥界の偉い人のとこに連れてってよ!『スコーヴィル』の立場を借りればワンチャン……」

「えー、めんどくせー……」

「そんなこと言わないでッ!」

 血を血で洗う戦いの後だというのに、二人はまるで放課後の教室にいるかのような騒がしさで話していた。緊張が解けた反動だろうか。瓦礫の中心にポツリと、光があるようだった。


 ——だが二人は会話に夢中になりすぎたために、少し離れたところから二人を見ている人影があった事に気づけなかった。

(——あ……ああ……大変でしゅ……大変でしゅーッ!)

 人影は心の中で叫びながら、瓦礫の山の中を走っていった。


        《4》


「大変でしゅ大変でしゅ大変でしゅーッ!」

 今度はその叫びをしっかりと声に出しながら、その人影は無数の本棚の間を走り抜ける。

 それは少女だった。だがそれをただ「少女」と形容するには、あまりにも特筆すべき点が多すぎるだろう。

 まずその少女の服装は、奇抜かつ過激だ。警察が事件があった現場を囲むように張り巡らす、黒と黄色の通行規制テープを、まるでミイラのように首から下の全身に巻き付けている。肌に直に巻き付けているため、テープの巻き方や面積的にギリギリ隠せない場所からは、彼女の柔肌が覗いていた。

 その過激さを誰かに指摘されたのか、彼女はそのテープミイラの上からホットパンツとパーカーを身につけ、大切な部分を隠している……つもりなのだろうが、ホットパンツは裾の存在が確認できるギリギリまで丈が詰められ、パーカーも前が大きく開いた状態なので、あまり防御となっている実感は感じられない。

 さらに加えて、少女には肉体的にも異常がある。側頭部の辺りから上に伸び上がるような角があり、背中には蝙蝠のような羽が生えている。さらに腰の辺りからは、蠍のような尻尾も。といっても、この三つも全て規制テープでぐるぐる巻きにされているので、その本来の色はチラリとしか見ることができなかった。

 もうお分かりだとは思うが、彼女は正真正銘、《冥界》に二度目の生を受けた悪魔——その名を「エントレ・レギュレイト」と言った。

「大変でしゅ大変でしゅ大変で——ほギャッ!?」

 がむしゃらに走り続けていたエントレは、本棚の影から現れた何かに勢いよくぶつかった。それは壁のように動かず、ぶつかった反動で後ろ向きに転がったエントレに、その手を差し伸べた。

「エントレさん、図書館では大声を出すことも、走ることもあまりいいことではありません。もしここにアスカさんがいたとしたら、反省室に連れ込まれていたでしょうね」

「ふえぇ……アサカゲしゃん、ごめんなしゃい……」

 ぶつかられた人物は、「いえ、結構ですよ」と、エントレに優しく笑いかけた。エントレが「アサカゲ」と呼んだ、長身でスタイルが良く、人も良さそうなその男性は、エントレの仲間だった。

「それで、何がそんなに大変なのですか?」

「あっ、そうなんでしゅ! 大変なんでしゅ! ……さっき言われた通りに《冥界》を偵察しにいったんでしゅ……そしたら見ちゃったんでしゅ、《サイダーズ》の第一座が、二人の《ツインズ》能力者に倒されたところ!」

「第一座、《スーサイド・フェニックス》ですか……確か『館長』が《冥界》へ、彼を捕えるよう依頼と情報を送っていたはずです。《冥界》で倒されたならば、何ら問題はないはずですが」

「その後が問題なんでしゅ! その後に片方の《ツインズ》能力者が言ってたんでしゅ、『スコーヴィル』の力を借りればどうたらこうたらって! これは大変なことなんでしゅ!」

「……『スコーヴィル』ですか……聞き覚えがないわけではないのですが、明瞭には思い出せませんね……」

「あたしが説明するでしゅ!『スコーヴィル』は昔、《冥界》と《天界》の戦争の真っ最中から、終わった直後あたりまで活躍してた料理人でしゅ。『スコーヴィル』はその料理の腕前と食材の知識を活かして、戦争の前線でも美味しい食事を食べて、疲れ切った兵士たちの指揮をあげるための特殊なレーションの開発に貢献したんでしゅ。その後も、壊滅寸前の《冥界》に住む悪魔たちの乾き切った心を癒すために、ありあわせの食材で様々なレシピを考案したんでしゅよ」

「それは……大層な人ですね」

「でも最後には、兵士が足りなくなった《冥界》のために前線に行って、そのまま戦死しちゃったらしいんでしゅけど……『スコーヴィル』が考えたレシピは、今でも残ってるくらいなんでしゅ。要するに、《冥界》にとっては正真正銘の偉人ってことでしゅ。……だからもし、『スコーヴィル』の魂を元にした《ツインズ》が、《冥界》の上層部に直々に掛け合ったら……」

「《冥界》の上層部が折れて、フェニックスの身柄をその《ツインズ》能力者たちに差し出してしまう可能性が出てくる、という解釈で良いでしょうか?」

 エントレはブンブンと首を縦に振って同意した。

「確かに……そうなるとかなりまずいですね。また第一座がどこにいるか分からなくなるどころか、あの二人の回復も他を当たらなければならなくなる……ですがわざわざゲートを用いて《天空王国》や《異類隔離区》に行くのは時間がかかりすぎますし、そもそもあの方々が死者を蘇生させたり、意識まで回復させられる確証はない……『館長』でも、『肉体の破損の程度はそこまでひどいものではなかった』程度の改変しかできなかったわけですから、やはり不死鳥の血は必須でしょうから……こればかりは仕方がありませんか」

 アサカゲは不意に黒縁の眼鏡の位置をクイと直し、改めてエントレに向き合った。

「エントレさん、明日は何か予定を入れていますか」

「ふぇ? ……特に何も入れてないでしゅけど」

「なら少し、付き合っていただけないでしょうか」

「付き合うって……あたしに何をさせるつもりでしゅか?」

「いつもの通り、あなたの《ツインズ》で人払いをして、私の行動を誰にも見つからないようにしてくれるだけで構いません。『館長』への連絡や行動計画等諸々は、私の方で済ませておきますから、エントレさんは今夜に向けて気持ちを整えておいてください」

「えっ、それじゃああたし何もすることないじゃないでしゅか! アサカゲしゃんは一体何をするつもりなんでしゅか!?」

「それは、簡単ですよ」

 アサカゲはエントレに背を向け、本棚に挟まれた道を歩き始める。

「少し……不死鳥に血を分けてもらいに行くんですよ」

 ほんの一瞬だけ、アサカゲのメガネの奥の黒い瞳が、更に黒い不穏な雰囲気を帯びた。エントレはそれに気づいていなかった。

 どうも、クロレキシストです。皆様のおかげで、「双生のインプロア」はついに二桁話数を突破いたしました。……本来であれば前回の投稿の時に行うべきだったのでしょうが、何せあの時は疲れていましたので、今回お礼を言わせていただく運びとなりました。皆様本当にありがとうございました。

 さて、この話の投稿日は12/31、すなわち大晦日。皆様の2023年はどのような年になりましたでしょうか。私は……反省すべき点が多くあった年だと感じております。せっかくの年明けですから、皆様明るい顔で新年を迎えられるよう、今日のうちに悔いは済ませておくか、忘れておくかするといいかもしれませんね。

 一応本編の内容にも触れておきましょうか。今回はほぼ全編バトルだったことに加えて、今後の展開への伏線が多くあった回になっております。年の瀬に投稿する内容としては少しモヤっとする内容かもしれませんが、その分年明けの後には大きな進展があると思ってもらって構いません。

 さて、今日の雑談はこれくらいにしておきましょう。本日は読んでいただきありがとうございました。今後の励みになりますので、コメントやブックマークの方もよろしくお願いします。それでは皆様、良いお年を。……ほとんどの読者の方は、年が明けてからこの話を読むのでしょうけれど。

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