2-44 断罪願望
私の星は半分に分かれてた。
半分には私達天使族が住んでて、もう半分には悪魔族が住んでた。
見た目とか特性とか、色々と違いはあったけど、遠い昔には血が繋がってたんだってさ。
昔はその違いから争いが絶えなくて、仲は悪かったらしい。
でもある時、悪魔族の王様が変わったのをきっかけに少しずつ和解して、私が生まれる頃にはもうお互いの間の確執は大分なくなってた。
だから、私にも悪魔族の友達がいたし、他にも悪魔族と仲良くしている人は多くいた。それなのにどうしてかな? 少し前から、種族間の争いが増え始めたんだ。
お互いの仲は段々と悪くなっていって、遂に悪魔族の友達とは話す事も出来なくなっちゃった。
私は争いなんて大嫌いだ。
友達と仲良く出来ないなんて、そんなの間違ってるに決まってるもん。
だから私はそんな状況を変えたかったんだけど、私にはそんな力はなかった。
それでも少しでも抵抗しようと思って、家出をしたんだ。
簡単に連れ戻されないように、星から出ちゃう壮大な家出だよ?
でも考えなしだった私はすぐに困ることになっちゃった。
家出して星の外で暮らすのに、十分なお金を持ってなかったんだ。
宇宙の公用語を少しは勉強していたけれど、あまり上手くは話せなかったから、力で稼げる傭兵の仕事を受ける事にした。これでも、腕っぷしには自信があったからね。
危険な猛獣を倒したり、依頼人を守ったり、争いは大嫌いだったけど、誰かを守って「ありがとう」って言われるのは胸がポカポカして、凄く嬉しかったよ。
ある日、とても困ってるって相談してきたおじいちゃんがいた。
何でも祖先の遺産がある星に隠されているんだって。
おじいちゃんはなんとかしてそれを探そうとしてるんだけど、その星の人が取り合ってくれないらしい。探索用のロボットを送っても問答無用で壊されちゃうんだって、酷いよね。
だから、私はその依頼を快諾して、探索してる間その邪魔をする人を足止めすることにしたんだ。
実際にその星に行ったら、ローブを羽織った可愛い女の子が目の前に現れた。だから、私は自己紹介をしたんだ。ちょっと恥ずかしかったから、思い出のキャラクターの力を借りてね。
ちゃんと自分に大義があることも説明して、その上で足止めをしたんだ。
だけど、私は失敗しちゃった。相手は一人だけだと勘違いしてたんだ。
何かの組織が敵なんだったら女の子が一人で来るわけがないと思ったし、邪魔をしているのはその子だけだろうって勝手に思ってた。
でも、その子から仲間の存在を知らされて、状況の確認のために私は空へと飛び上がった。
そこで、私は銃や大砲を装備したロボット達を見たんだ。
それを一人の少年に向けて発砲してた。
私が守ってたのは、ただの探索用のロボットだったはずでしょ?
どうして探索用のロボットが武器なんて持ってるの?
私はその時、自分が本当に悪の片棒を担いでいた事を悟ったんだ。
*****
シルフェは自身の手の中に持てる力の全てを光の矢に注ぎ込んだ。
生きる者の全てが持つエネルギーである生命力を最大限に込めて、矢の形を作る。
正直お腹の傷が痛むし、それなりに消耗してるからキツイけど、これを撃てば私の仕事はもう終わり。
そうして出来上がった巨大な矢を出来るだけ高く飛ぶように全力で引き絞る。
そして、地面から見上げる少年に向かって笑顔で煽った。
「じゃあ、撃つよ? これを止める方法はただ一つ、私を殺すこと。君に出来るかなぁ?」
「やめろおおおおぉ!!」
少年が反応したことを確認して巨大な光の矢を撃ち放つ。
こうすればあの子は全力で私に襲いかかるはずだよね。
そう思って下を見ると、少年は私を見上げるばかりで動く気配がなかった。
その目には涙が溜まり、零れ落ちた。
まずい、もしかしてやり過ぎちゃったかな?
予想外の事態に私は焦った。頬を冷や汗が流れ落ちる。
「あははははは! 最後の悪足掻きをしないのかなぁ? 私を殺せれば、あれは止められるのに! 君、案外軟弱者なんだねぇ?」
出来るだけ相手を怒らせるように煽る。嘲る。
このままじゃ上手くいかない。計画が失敗しちゃう。
焦りで汗が止まらないよ。
なんだか、視界も覚束なくなってきちゃった。
んーん、これは焦りだけじゃない。生命力を失い過ぎたんだ。もう、気力だけで意識を保っている状態だよ。
でも、それを悟られるわけにはいかないんだよね!
私が必死に持ち堪えていると、少年の翼が大きく開いた。
そして、少年が地面を蹴った。やった、動いてくれた!
私の放った矢は幾千もの数に分かれて、夜闇を裂きながら降下している。
「ようやく……だね」
私は剣を作り出して構えた。
危うく取り落としそうになるが、私の武器は軽いから何とか持てる。
後は私が切られれば、それでおしまい。
私はやってしまったことに対して、然るべき報いを受けて死ぬ事が出来る。
もし間に合わなくても、あの光の矢はただのハリボテだからね。破壊の力なんて持ってない。あの数の矢の形を作るだけでも私はフラフラだけど、ブラフには充分だよね。
翼の生えた少年が迫ってくる。
私はそれに合わせるように、最後の力を振り絞って剣を振り上げた。
「さぁ! これで終わりだよ!」
そして剣を振り降ろした瞬間、ギリギリで保っていた私の意識は操り人形の糸が切れたように途絶えたんだ。




