2-37 贋作聖剣
空は闇の中をただひたすらに走っていた。
ロボットに出くわす度に殴り、蹴る。
敵はそれなりに強いが、今の空の敵では無かった。
「誰も見てないし、こうしないとスムーズにいかないよね。バレない事を祈ろう。うわっとぉ!」
目の前に現れたロボットを空が反射的に殴りつけるとロボットの胴部分が吹き飛び、部品が散乱する。
「力入れ過ぎちゃった。暗いと見えなくて困っちゃうなぁ」
「左斜め前方に三体程いますよ」
「了解です。ありがとうございます。シンシアさん」
「はーい。……聞くべきじゃないかもですけど、空君は何で力を隠してるんですか?」
「シンシアさんにサリアさん、フィアさんに雷人。隠してるって言っても結構バレちゃってますけどね……。こういう力を持っていると利用しようって輩が現れるかもしれませんから。そりゃ! ……出来れば使いたくないんですけど……とぉ! この状況じゃあ、形振り構っていられませんからねっと。あー、僕も雷人や唯ちゃんみたいにカッコいい能力が良かったなぁ」
ぶつくさと言いながらも空はあっさりとロボットを殴り倒す。
昼間に見た奴も混じっているが、本気を出しさえすれば空の敵ではない。
「お見事です。空さんの力も充分凄いんですから、そんなこと言ってると罰が当たっちゃいますよ?」
「そうは言ってもですよ? 僕の力じゃどう頑張っても結局は肉弾戦なんですよ。遠距離攻撃出来るの羨ましいなぁって、やっぱり隣の芝は青く見えちゃうわけですよ」
「あっ、次は右に十メートル程行って角を左に曲がったらいますよ。ロボットはまだまだいますから、不貞腐れずに頑張って下さい!」
「……分かりました。さて、憂さ晴らしと行きますか!」
そう言って闇の中をひた走り、人知れずばっさばっさと敵を殴り倒していく。
フィアさんの方はどうなっただろうか?
そんな事を考える余裕さえあるのだった。
*****
「改めて見ると凄い数ですね……」
唯はビルの上から眼下に蠢くロボットの群れを眺めていた。
種類は様々、持っている武器が違ったり、最初の頃に戦ったバイザーのない人型もいますね。
大型は目立ちますが、数はそれほどいません。
問題は昼に見たあのタイプ。少なくとも五体はいます。
「私は戦っていませんが……、調子が悪かったとはいえフィアさんが倒すのに時間が掛かった敵ですし、用心するに越したことは無いですね」
それにしても、数こそ多いものの質はさほど高くないですね。
数を撃てば当たるという考え方がありますが、狙いはそれでしょうか?
もしもそうなら、昼間の竜人族達と合わせて来れば良かったのに……。
もしかしたら、相手も一枚岩では無いのかもしれませんね。とりあえず、今私のするべきことは一つだけです。
「それでは、お誂え向きですし、新しい力の試し撃ちをさせてもらいますね」
和服をたなびかせ、腕を上げた唯の手に一本の聖剣が収まる。
それが輝くと同時に空中に無数の聖剣が出現した。
「ふふふ、これが私の第四の能力です。写し、作り、的を定めて……穿て! 贋作聖剣の流星!」
腕を振り下ろすと無数の贋作聖剣はロボットの群れへと降り注ぎ、ガンガン貫いていく。
アスファルトは割れ、土煙が舞い上がり、聖剣の輝いている様子だけが伺える。
それを膝に手をついて覗き込み、視界を邪魔する髪を手で押さえる。
「……もしかしてやり過ぎたでしょうか? このくらいではラグーンシティは沈んだりしませんよね? ……多分、大丈夫ですよね?」
「そのくらいではその人工島は沈みませんよ」
「は、はひっ!」
突然聞こえた声に跳び上がってしまう。
辺りをキョロキョロした後、端末だと気付いてそれをじーっと見る。
「あ、ありがとうございます。……あのー、もしかしてずっと聞いてました?」
「もちろんですよ! 私は全員分モニターしてますから、さすがに常にとはいきませんけどね」
その返答にさっきまでの独り言を思い出し冷や汗が流れる。
……モニターってもしかして。
「ちなみに普段は……?」
「さすがにプライベートは不干渉ですよ? 私にも良心がありますから、プライバシーは侵しません!」
「そ、そうですよねー」
若干上ずった声で返答しながらほっと胸を撫で下ろす。
危ない、危ない。必要ない時は端末を外しておく事を忘れないようにしないとですね。
「痛っ!」
そんなことを考えていると、突然足に衝撃が走って尻餅をついた。
急いで足を確認すると傷が出来ていてそこから血が出ていた。
「あわわわわわわ! と、とりあえず……贋作聖剣、形状変化。はわっ!」
傷口に聖剣を包帯状に変えて巻きつけると、今度は地面に何かが当たる音がして驚く。
見ると地面に弾痕がついており、顔を上げると向かいのビルに銃を構えるロボットが見えた。それを見ると唯はすぐさま聖剣をそちらに向けた。
「落ち着いて、落ち着いて……。極力威力を絞って……聖なる光線!」
剣先から伸びた細い光線が銃を貫き、銃身を赤く染め上げる。
そして、発生した爆発の衝撃にロボットはバラバラに千切れ飛んだ。
「あ、危なかったです。ふぅ」
「ごめんなさい! 私が話しかけたから……」
「あ、いえ大丈夫です! シンシアさんの所為じゃないですから、気にしないで下さい」
「そうは言っても……足、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。聖剣の特徴なのか、微弱ながら触れたものへの治癒の効果があるんです。痛み止めにもなりますから、これを巻いておけばこのくらいは問題ありません。これ凄く便利なんですよ?」
「それなら良かったです。でも気を付けて下さいね。さっきの攻撃を避けたロボットが結構いるみたいなので」
「えーと、そうみたいですね。分かりました。頑張ります!」
唯は足の具合を手で擦りながら確かめる。
元々痛みには強くなっているうえに聖剣も巻いていますからね。能力の同時使用には意識を裂かれますけど、傷は少しすれば治るはず。
さっきはちょっと失敗してしまいましたが、最初を思うとかなり強くなっている実感があります。
使いこなせる能力も増えたし、聖なる光線も威力を絞れるようになってきたので、撃ったら力を使い切ってしまうという事ももうありません。
昼の事もあって正直かなり疲れてますが、能力による生命力の消費は大分抑えられるようになりましたから、ロボット程度には遅れは取りません。
さて、残りを片付けましょう。唯は両頬を音高く叩いて気合を入れ、地面を蹴ってビルの屋上から飛び降りた。




