2-36 フィアVSシルフェ
「はいはーい、忙しいところにすみません。シンシアでーす」
「何かあったの?」
突然通信をしてきたシンシアにシルフェから目を離さないようにしながら答える。
一方シルフェは「どこからか声が……?」とか言いながら興味津々の目でこちらを眺めている。
「天使族について簡単に調べました。必要そうな情報だけお伝えしますね」
「ありがと。手短にね」
「おおー!」
シルフェが手を叩いている。
本当に、なんとも緊張感のない子ね。
「調べた限りですと、どうやら天使族は髪の毛を謎の物質に変化させる事が出来るみたいです」
「謎の物質?」
「はい、なんでも重さも硬さも操作も自由自在、体積までは変わらないそうですが」
「……見た感じ髪の長さは変わってないみたいだけど?」
「どこかに輪っかとか無かったでしょうか? 天使族は、普段は髪を輪っかに変えて身に着けているらしいです」
そう言われて見ると、確かに頭の輪っかが消えている。
しかし……。
「輪っかの大きさからは信じられない大きさのハンマーになってるんだけど……体積の話はガセじゃないの?」
「ちょっとそこまでは……」
「んーん、ガセじゃないよ。このハンマーは中が空洞なんだよね」
シルフェが突然そう言いながら笑った。
「物知りな仲間がいるんだね! ちょっと羨ましいなぁ」
「……話が終わるのを待っててくれたのかしら? 優しいのね」
「面白そうだったからねー。それにバレても別に支障はないし? それじゃあ、もういいよね」
その言葉にフィアがもう一本刀を握って構えると、シルフェはまたもや突っ込んで来た。
「二度も食らわないわよ!」
前方に冷気を放って凍らせようとするが、突然出現した薄い膜のようなものに阻まれる。すぐさま鎖を膜の向こう側に出し、シルフェを縛ろうとするが手応えが無い。一体どこに?
「それー!」
「きゃあ!?」
次の瞬間、気の抜けそうな声と共に足場が崩れ下の階に落ちる。
突然の浮遊感にヒヤッとする。
「下に逃げてたの!?」
「もらったよ!」
その着地点を刈るようにシルフェが槍を薙いだ。
それを見ると、すぐさま鎖を張って足場にして攻撃を躱す。
そのまま複数の炎弾を作り出して飛ばすが、勢いそのままに振り返ったシルフェは槍を風車のように回して全て防いでしまった。
「おお! お姉さんやるね! すごーい!」
「簡単に防ぐじゃないの……ならこれでどう!」
今いる階は無数の柱があるのみで何もない階のようだ。
その階全体を凍らせ、アイスリンクのようにする。
シルフェはジャンプして足を凍らされるのを躱したが、目的はそれではない。
「うひゃ、ほえー。一面氷! 足場はつるつる、天井も低いから飛ぶのも難しいね。でも、お姉さんも動けないんじゃないの?」
「まさか、自分の不利になるようなことをするわけないじゃない」
「やっぱり? そうだよねー」
フィアは氷で足場を作るとそれを蹴って滑り、鎖で自分を引っ張って高速で動き回る。足場を滑りやすくして相手の動きを阻害し、自身の動きを良くする。これでどう!
「それならこっちも! どっせーい!」
交差する直前、シルフェは地面を踏み抜いて足を固定し、ハンマーを横薙ぎに振った。
私はそれを滑りながら上体を後ろに倒してギリギリで躱し、そこから一撃を加え……。
「な!?」
ぎゃりぃぃぃ! という金属の擦れる音が階に反響する。
ハンマーを躱した先に剣があったのだ。
突然の事態だったが、なんとかやり過ごして滑るままに距離を取る。
「むむむ、今のは決まったかと思ったんだけど、駄目かぁ。お姉さん凄いねー」
「なるほど、重さを変えれるって事は軽くも出来るものね。そのデカいハンマーを片手で振っていたわけか、あーもう! 感覚が狂いそうになるわね!」
「ふっふっふ、これも戦術なのだよー!」
またもや胸を張るシルフェを他所に、私は階全体に向けて炎を放った。
「あつっ! 無言で撃たないでよ。もう!」
そう言いながらもシルフェは両手に持った槍をぶんぶんと扇風機の様に回して熱を追いやる。やはりころころと武器が変わるというだけで大分厄介だ。それにしても……。
「常々思ってたんだけど、あなた達って手を抜いてるわよね? どうも本気には見えないし、遊んでるのかしら?」
「え? 他の人の事は知らないけど、別に遊んでないよ。ただ、倒す気がないだけ。前に戦った人達もそうなんじゃないかなぁ?」
「倒す気が……ない?」
一体この子は何を言っているのだろうか?
倒す気がないというのなら、一体何をしに来たのだろうか?
「コスモスルーラーは私達を倒したいんじゃないの?」
「コスモスルーラー?」
シルフェが首を傾げる。
どうしてここで首を傾げるのだろうか。
「えっと、あなたを雇ってる組織でしょ?」
「組織……? ごめんね。よく分からないや」
「……あなた、ずいぶんと雇い主への関心が薄いのね」
「私は困ってるって言うから依頼を引き受けた、ただの傭兵だからね。組織とかは気にしてなかったよ」
「やっぱり傭兵よね。でも、雇い主の素性はもう少し気にした方が良いと思うわよ……」
「うーん、よく分からないけど私の仕事はただの足止めなんだ。調査が終わるまで足止め出来ればそれでいいから、倒す必要はないよね!」
「……それが目的なんだったら、私だけ足止めしてても意味無いとは思うけどね?」
私がそう言うと不思議そうな顔をする少女。
一瞬時が止まったかのように動きが止まり、ようやく理解が追い付いたのか疑問を口にした。
「えっと……え? 仲間がいるの?」
「え、知らなかったの?」
「あー……」
私の返答にシルフェの顔がみるみるうちに青くなり、振り返ると凄い勢いで外に飛び出して行った。
「あっ! こら、待ちなさい!」
私を油断させようと演技でもしているのかとも思ったが、今の反応からするに本当に何も知らない?
ただの間抜けなのかそれとも……私の思いもしない何かがあるのか。
何にしてもここから逃がすわけにはいかないのよ!
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