2-33 束の間の休息
フィアが妹達を抱きしめているのを眺めていると隣で唯が呟いた。
「芽衣ちゃんと哨ちゃんの訓練もそうですけど、私達ももっと強くならないといけませんね」
唯の言葉に緩んでいた空気が少し引き締まった気がした。
今回の戦い、フィアと空が本調子では無かったとはいえ、芽衣がいなければ勝つのは難しかった。
結局バルザックの奴には逃げられてしまったし、より強くなることは間違いなく必須だ。
「そうね。ロボットへの対応の事も考えると今日みたいに多対一に持ち込めるとも限らないし、個人でもそれなりに戦えるようになる必要があるわ。どこから引っ張って来るのか知らないけど、襲って来る敵が想像以上に強いもの」
「宇宙にはあんな奴らがゴロゴロいるのか? あんなのが何人も来たら一溜まりもないぞ」
「いや、あの二人はさすがに強い部類よ。ただ、宇宙中から集められれば全くあり得ない話じゃないわね。私達は指輪で強化してるから強い部類だと思うけど……マリエルさん達、S級社員クラスなら指輪無しでも私達を一蹴出来るくらいには強いし。つまりそのぐらいの強さの奴がいてもおかしくはないのよ」
その状況を考えて状況がいまいち分かっていない芽衣と哨以外の表情が暗くなる。
「とは言ってもさ。この前の敵も今回の奴もダメージは負ったわけだしさ。次に来るのもすぐではないんじゃないの?」
空の言葉にフィアが口に手を添えて考え込む。
空の言うことはもっともだが、それは希望的観測だと言わざるを得ない。
奴らが来なくとも新手が来る可能性もあるのだから。
「そうね……あながち間違いじゃないかもしれないわ」
しかし、フィアはそう言った。
俺達全員の視線がフィアに集まる。
「今回来たやつ……バルザックだったかしら。あいつは自分の事を傭兵だって言ってたわ」
「確かに言ってましたね」
唯が同意する。
確かにそんなことを言っていた。
組織の一員とは言っていたものの、傭兵であるということは実質的な構成員はいないのかもしれない。
「前回から今回まで日が空いた事と、敵の……コスモスルーラー……って言ったかしら? 組織が送ってくる敵が傭兵であることから考えて、次の敵が来るまでは多少の猶予があると考えていいかもしれないわね」
「そうは言っても次の傭兵もすぐに見つかるかもしれないし、ジェルドーやバルザックが回復するかもしれない事を考えると厳しくないか?」
「それは確かにあるけど、傭兵とは言ってもあいつらみたいに強いのはそこまで多くないと思うわよ。掛かるコストも大きいだろうし」
「なるほど、それでロボットが多いんですね」
「そっか、じゃあ安心なんだね」
「今日見た限りでは、そのロボットは私達でも簡単に倒せるくらいの強さでした。であれば敵の宇宙人が幾ら強くても一人相手なら人数で押し切れるはずです。問題ないでしょう」
芽衣と哨がそう言った瞬間、突然腕時計が振動し始めた。
「なっ!?」
この振動、まさかフラグを立ててしまったのか?
腕時計を着けていない芽衣と哨を除く全員の顔が青ざめる。
「まさか!」
「嘘でしょ!」
「早過ぎます!」
「えっ、何々? 皆慌ててどうしたの?」
「……もしかして私、フラグを立ててしまいましたか?」
「シンシアさん! 何があったんですか!?」
問い掛けるとすぐに返答があった。
「皆さん。敵襲です! 今回は誘導が成功したので場所はいつもの場所ですが、確認出来る敵の数が非常に多いです!」
「っ! 分かったわ! すぐに転送して!」
「わ、私も行く!」
「あ、それなら私も行きます」
「芽衣、哨……」
俺は迷った。今度こそは二人に危害が加わるかもしれない。
しかし、敵が多いのならば猫の手も借りたいのは確かだ。
その時、空が俺の肩を掴んだ。
「雷人! 迷ってる場合じゃないよ! 出し惜しみ出来るほど僕達には余裕がないし、僕達の妹は強い、そうでしょ!」
「ぐ……そうだな。分かった。芽衣! 哨! 絶対無茶はするなよ!」
「分かってる。私だって出来るんだから」
「芽衣の事は私に任せて下さい。誰にも指一本触れさせないと」
そして俺は芽衣の手を握りしめ、輝く転送の光に包まれた。




