2-31 くすぐり地獄……天国?
昔は芽衣と遊ぶと異常な植物が残ってしまい怒られることが多かった。
芽衣の能力は植物の品種改良と成長促進、及びそれを操ることだ。
種が一つあれば色々出来るが、品種改良をするのに時間が掛かってしまうのが弱点の能力だ。
半面その対応力は凄まじい。
バルザックの炎で燃えなかったのが良い例だろうか。
もう一つの弱点であった周りに与える影響に関しては過剰に成長を促進させることで植物を枯らすことが出来るようになったらしい。
今回の植物も跡形も無く土に還ってしまった。
もちろん植物自体が残らないだけで、植物により破壊された建物の被害はそのままなので、後から来た夕凪先生は頭を抱えていた。
しかし、大きな怪我をしたのは俺だけだし、その傷も空が治療してくれた。
人的被害は出なかったから、とりあえずは無事に一件落着と言ってもいいだろうか。
ゲート出現位置への割り込み妨害に関する解析も終わったらしく、あれから数時間が経った今ではここにゲートが開く事は無いとシンシアさんが言っていた。
何にしても今日は本当に疲れた。最近はなんとも忙しいからな。
今回の件もあって遊園地もしばらくは閉鎖することになるそうなので、原因の一つである俺達はバレない内に家に帰って来た。
時刻は午後六時半。
時間的にもちょうどいいので唯も誘って夕ご飯だ。
今日のご飯はカレーライス。
誰でもおいしいものだし、考えるのが手間だっただけというのは黙っておこう。
目下話題は芽衣と哨にとっては初耳である宇宙についてだ。
まぁ、あんなのを見たら聞かずにはいられないよな。俺だってそうだったし。
「いやぁ。あの時はその場の流れで驚く暇もなかったけど、宇宙人なんて本当にいたんだね! あんなトカゲ男を見てなければ今でも信じられなかったかも!」
「はい、トカゲの姿だけならまだしも、地面まで操ってましたよね。あんなの見せられたら信じるしかないです」
「ん? 何で哨がそんな事を知ってるんだ? ははーん、さては哨、逃げずに見てたな?」
「あ……さて、何のことでしょうか?」
最初は二人で逃げたが、芽衣が戻って来たからな。哨もついてきたんだろう。そう思って俺がそう言うと誤魔化すようにニコニコとしていた。すると芽衣がなぜか自慢顔で割り込んで来た。
「ふふーん。いやいやお兄ちゃん、哨ちゃんは逃げるどころか一緒に戦ってくれてたんだよ? 責めるのは筋が違うってものだよね」
「ちょっ、ちょっと。芽衣?」
「いや、別に責めてるつもりはないが、危険なのは注意しないとな。って、一緒に戦ってた?」
俺は他の皆に視線を向けるがどうも皆知らなさそうだ。知られるのが恥ずかしいのか、当の哨は芽衣の口を塞ごうとしている。だが、芽衣はどうしても言いたいらしく哨を遠ざけていた。
「なんと哨ちゃんはすっごい銃が出せる能力だったんだよ! 凄いよね!」
「あっ! あっ! あーっ!!」
口を塞ぐのに失敗した哨が若干涙目になっている。こんなに動揺している哨は久々に見たな。
うちの妹がすまん。こんな奴だけどこれからも仲良くしてやってくれ。それにしてもすっごい銃か。
「すっごい銃……あ、あれか! バルザックが逃げようとした時にあいつを撃ち抜いた光!」
「あ、そういえばありましたね。ごたごたですっかり忘れてました」
「なるほど、あれがそうだったのね。たまたま見てたんだけど、あれ八百メートルくらい離れた時計塔からだったわよ? かなりの腕前じゃない」
「八百メートルですか!? み、哨ちゃんは凄いんですね」
「あ、あうあう、あー」
哨ってそんな特技があったのか、知らなかったな。
……なぜか涙目で言葉を失って赤ちゃんみたいになってるが、そんなに知られたくなかったのか?
「当然、空は知ってたんだよな?」
「あはは、こんなでも兄だからね。でも、哨は可愛くなくてイメージが崩れるって気にしてたから、僕から言うのはちょっとね」
「お兄ちゃん!? 何でそれを言うの! バカバカっ!」
ポカポカと擬音がしそうな感じで空が哨に殴られている。可愛くないからだって、十分可愛い理由じゃないか。
それにしても口調が変わったな。そういえば昔は哨も芽衣と同じような話し方だったっけ。いつからかお堅い口調になってたけど、なんか懐かしいな。
「何にしても助かったよ。結局バルザックには逃げられちゃったけど、哨のおかげであいつのゴーレムも見れたしな」
「そうね。あいつとはまた戦う事になるだろうし、手札を引き出せたのは良い事よ」
「……それなら、良かったですけど。はい、良かったという事にします」
「んー! 哨ちゃん可愛い! うりうりー!」
「にゃっ!? こういうのは逆、逆だからー! あは、あははははっ! ひっ、ひー!」
恥ずかしそうに顔を赤くしている哨に芽衣が飛びついてくすぐりを始めた。
妹達の仲が良さそうで何よりだ。でも程々にな?
「よしっ、ここまでで許してあげよーう!」
「はーっ、はーっ、え、えへぇ♡」
ようやく芽衣がくすぐりを止めたと思った頃には、哨は結構やばめの蕩け切った表情で涙やら涎やらを垂らしてぐったりしていた。
……妹の様に思っていた子のこんな姿を見る日が来るなんてな。
目を逸らすべきか思案しているとスッと目を塞がれた。
「さすがにこんなあられもない姿をまじまじと見るものじゃないわよ」
「空君も、兄妹だからこそ、こういうのは見ちゃいけないと思います」
「……悪い。思わぬ状況に判断が追い付かなかった」
「うん、見たかったわけじゃないよ。うん……」
俺と恐らく空も、何とも言えない気持ちで見えない空を見上げたのだった。




