2-30 ブレイブランド戦閉園
「お主は最初に逃げた小娘ではないか! よもやこのような力があったとは、謀ったでござるな!」
「謀ってないよ! 能力使うのに必要な準備が出来てなかったから、準備してただけだもんね! 芽吹け、プラントシード!」
芽衣が叫びながら投げた種が空中で既に芽を出し、みるみるうちに巨大化して地面を覆っていく。
フィアはポカーンと口を開け、空は呆れた表情をしている。
「な、何よこれ! あの子ここまで強力な能力者だったの!?」
「いやー、芽衣ちゃんの本気を見るのっていつ以来だろ? 芽衣ちゃんの力は周りへの影響が大き過ぎるから、基本的に本気で使うの禁止されてるんだよね」
「そりゃそうでしょうよ……」
「ほら空、フィア、ぼさっとしてないで奴を追い込むぞ! 芽衣の力で縛り上げるぞ!」
「任せて! ガンガン生やすよ!」
「芽衣ちゃん、普段本気出せないうっ憤を晴らそうとしてない?」
「この程度! 拙者が負けるものか! 植物如き燃やせばいいのでござる!」
バルザックが盛大に炎を吐いて燃やそうとするが、表面が焦げるばかりで巨大な植物の蔦は燃える気配がない。
「な!? 燃えないでござる!」
「ちゃんと作る時に耐火性能付けといたもんね。やっちゃえ! 蔦ビッグくん!」
「ぬぅ! ふざけた名前でござる! そんなもので拙者は止められないでござるよ!」
バルザックは二本の刀を振り回し、蔦を切り裂き始めた。
しかし、自我を持っているかのようにバルザックに向かって伸びる蔦ビッグくんの成長は止まる気配がない。
「注意が散漫ね。アイシクル・プリズン!」
フィアが鎖を空中に無数に張って飛び回り、凍った鎖による檻を作り出して少しずつバルザックを追い詰めていく。
「ぐぬぬ、拙者とは相性が悪いでござるな。流石に多勢に無勢でござるよ。今回の所は退却するでござる!」
そう言うとバルザックは刀に炎を纏わせ、氷の檻を切り裂いて逃げ出そうとする。ここまで来て逃がすかよ!
「雷盾四層!」
「ぬお! この! 硬いでござるな!」
バルザックの前方に四重にバリアを展開し逃亡を妨害する。
だがバルザックの斬撃にすぐに切り払われてしまった。
追加で雷盾を展開しようとするが間に合わない。
このまま逃げられるかと思ったが、次の瞬間、どこからか飛来した光がバルザックの肩を打ち抜いた。
「があああぁ! 一体、どこから!?」
一体誰の攻撃だ? 分からないが、とにかくバルザックの体勢が崩れた。これはチャンスだ! それを見計らっていたかのように跳び上がった空がバルザックに躍りかかる。
「僕を忘れてもらっちゃ困るよ!」
「な、何奴! ぐはっ!」
空のボディブローが見事に炸裂し、バルザックが下に叩き落される。
っていうか何奴って、空の奴完全に認識されて無かったな。
地味だし仕方ないけど。
バルザックの落とされた先には巨大な食虫植物が口を開けて待ち構えていて、バルザックを飲み込んだ。
……某ゲームに出て来るバックンみたいだ。
それ、食虫じゃなくて食人じゃないだろうな。
なんにしても、ここが勝負所だ。
「フィア!」
「分かってる! チェーンバインド!」
バルザックを飲み込んだ植物をフィアが鎖で縛り上げ、俺もカナムを膜状に展開して包み込みように押さえつける。
「唯! 今だ! 奴は硬いから全力でやってくれ!」
俺の言葉に応じ、唯は食虫植物の下へ走り込むと聖剣を構えた。
「すみません……その命、頂きます! 穿て! 聖なる光線!」
「させないでござるよおおおぉぉぉ!」
唯の攻撃の直前、食虫植物を突き破って巨大なゴーレムが立ち塞がる。
しかし、ゴーレムはあまりの高エネルギーにみるみるうちに溶け、その巨体の真ん中に穴が穿たれた。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
数秒後、そこには植物も鎖も全てを穿つ大穴が残された。
唯はそれを見て膝をついた。
「今度こそ……ですね。しかし、これも仕方のない……」
「いや……そうでもないみたいだな」
「なんてしぶといのよ……」
大穴の下、ゲートが開きそこに佇む影が一つ。
ギリギリで躱したのか……。そいつは油断ない瞳でこちらを見据えていた。
「お主達、予想以上に強かったでござるよ。今回は拙者の敗北でござる。次はこうはいかないから覚悟するでござるよ」
「逃がすわけないでしょ! クリスタル・プリズン!」
「クリエイト・ゴーレム!」
フィアがバルザックを氷漬けにしようとするが、それは出現したゴーレムに阻まれてしまう。
その間にバルザックはゲートを潜り、ゲートもすぐに消えてしまった。
ゴーレムは巨大な植物に絡みつかれ瞬く間に潰された。
相変わらず芽衣の力は強い。
「はー、逃げられちゃったわね」
「仕方ないんじゃないかなぁ。僕はもう疲れちゃったよ」
「そうですね。それにしても全員で戦ってようやくだなんて、これは複数の敵が来たりしたらまずいですよ」
「ああ、そうだな。それはともかくとして……これ、どうする?」
「……」
何ともひどい戦いだったが、今の状況もなかなかにひどい。
広場周辺の建物は崩れ、噴水も壊れ、アスファルトは割れて地面がむき出しになっている。
そして何より、巨大な植物が現在進行形でうねっている。
頭の痛くなる状況だ。
先刻言った芽衣を傷つけたくないというのはもちろん本音だが、その力が周りに大きな被害を与える事も戦わせたくなかった理由の一つなのだ。
そんな中、芽衣が走って来て俺に抱き着いた。
「もう! もう! やっぱりお兄ちゃんはダメダメなんだから! 心配させないでよ! バカ!」
芽衣が俺の胸を叩く。
言い訳の一つでも言おうかと思ったが、芽衣の目に浮かぶ涙を見て口を噤む。
理由はどうあれ心配をかけた。そのことに変わりはないのだ。
とはいえ、俺は止まるわけにもいかない。
「ごめんな。芽衣」
「……お兄ちゃんがやらないと誰かが悲しむのは分かってるんだ。でも、傷つくお兄ちゃんをただ見てるのは辛いよ。私のことも頼ってよ」
「……そうだな。……じゃあまずは、この植物どうにかならない?」
「もおおおぉぉぉぉぉ! そうじゃないでしょ! バカぁ!」
妹の叫びに俺は苦笑いをするのだった。




