2-29 芽衣の能力
「え? ま、まさか……殺してしまいました……か?」
唯が手を顔に当てて震えている。
しかし、あれだけ頑丈な奴が消える程の威力では無かったと思うし、当てたのは上半身のはずだ。
仮にそうだとしても下半身が残っていなければおかしい。
つまり……。
「相手の心配とは甘いでござるよ!」
「唯!」
「きゃあ!」
後ろから唯に向かってバルザックが切り掛かってくる。
間に割り込み刀を何とか弾いたが、次の瞬間には腹部に衝撃が走り空中に投げ出された。
すぐに翼を展開して体勢を整えたが、すぐさま追撃を仕掛けてきたバルザックの踵落としが直撃し地面に叩きつけられた。
「うぐっ、があっ! な、何だこれ」
激痛が走り、そちらを見ると右腕と右足が茶色の棘に貫かれていた。
「雷人君!」
「来るな!」
唯が走って来るのを叫んで止めながら、無理やりに棘から腕と脚を引き抜く。
そのまますぐに横に転がると、掠めるように何本もの棘が地面から生えて来た。
俺は翼で飛び上がりながらカナムで傷口を圧迫止血する。
そして、辺りを確認するとアスファルトが割れ、地面が露出していた。
「ほう、すぐに気付き攻撃を躱すとは。なかなかやるでござるな」
「ぬかせよバルザック。ここまで能力を隠してやがったな」
「手の内は見せずに済むのなら見せない方が良いのでござる。しかし、先の攻撃は拙者でも食らっていたらまずかったでござるからな。さて、知られた以上は出し惜しみはしないでござるよ」
地面から生えた棘……というより地面自体が棘になっている。
恐らくこいつは土を操作することが出来るのだろう。くそ、地面は奴のフィールドで空でも恐らく奴の方が上か、これは厳しい戦いになりそうだ。
俺はアスファルトの上に降り立った。
奴はアスファルトを操る事は出来ないようだから、下から攻撃しようとするとアスファルトが割れるので気付く事が出来る。
とはいえ決定打が無い。何より足はともかく右腕がやられたのが痛いな。
どうしたものかと考えていると唯が走り寄って来た。
「雷人君、大丈夫ですか?」
「厳しいな。どうやらあいつは土を操作出来るみたいだ」
「そうみたいですね……。私の影縫いもそれで聖剣を抜かれたみたいです」
「勝機があるとすれば……」
俺は辺りを見渡した。
その時、ちょうど空とフィアがロボットの最後の一体を倒したところだった。
これで二人の力を借りることが出来る。そして……。
「全力の攻撃を当てる事が出来れば……やるしかないな。フィア達と協力して何とか動きを止めるから、攻撃頼めるか? 俺はもうあんまり余力が無いんだ」
「出来ますけど……動きを止める方法があるんですか?」
「情けない話だがな……あいつなら出来るはずだ。フィア、空、あいつの動きを止めたい。協力してくれ」
俺が通信機能で呼び掛ける。
すると、元気な返事が返って来た。
「了解、僕達がやらなきゃね」
「任せなさい。まだまだ本調子じゃないけど、それでも大分楽になったわ。大変な役をさせてごめんね」
「大丈夫だ。俺が望んでやってる事だからな。奴の動きを止める! 行くぞ!」
「おお!」
俺が叫び俺、空、フィアが走り出すとバルザックが地面に降り立った。
刀を抜いて構える。
「丸聞こえだったわけでござるが……相談はもういいでござるか? では、始めるでござる! アース・ダンシング!」
走る俺達に向かってうねった地面が襲い掛かってくる。
さながら土の津波だ。その面による攻撃が俺達を飲み込もうとする。
しかし、突如として巨大な植物が生えて辺りを包み込んだ。
植物に縫い留められたことで、土の津波がぴたりと動きを止めた。
「な! 動かない……何事でござるか!」
「さすがだな。カッコつけた手前恥ずかしいけど、手を貸してくれ! 芽衣!」
「まったく結局ダメなんじゃん、お兄ちゃん! 私を守るなんて百年早いよね! そこのトカゲ男! お兄ちゃんに怪我させたこと! 後悔させてあげるからね!」
蠢く巨大な植物の上でポーズを決める芽衣の姿がそこにあった。




