2-26 哨の隠し事
「はぁ、はぁ、はぁ……!?」
ロボットに荒らされて所々が破壊されている舗装された道。哨が芽衣の手を引く形で走っていたが、芽衣は突然足を止めると哨の手を振り払った。哨も足を止めて振り返った。
「芽衣?」
「哨ちゃん、ここまででいいよ。私はここで準備する」
いつになく真剣な表情の芽衣。雷君が大好きな芽衣ならそうするだろうと思ってはいましたが、やっぱりこのまま逃げてはくれないみたいですね。
ちょっと妬いちゃうなぁ。そうは思うが、そんな気持ちは表に出さずに哨は向き直って微笑んだ。
「そうですね。それが良いと思います。それでは準備をしましょう」
「……準備したら私は戻るけど、哨ちゃんはこのまま逃げてね」
「え、どうしてですか?」
「どうしてって、だって、私には能力があるけど哨ちゃんは戦ったり出来ないでしょ? 私の我儘に大切な友達を巻き込めないよ」
そうですね。確かに私は芽衣に自分の能力をちゃんと紹介したことはなかったです。だから芽衣ならそう判断するのは分かります。でもさ、それはちょっと傷つくなぁ。
「心外です。私が芽衣を残して逃げると思っているのですか? 芽衣が雷君を大切に想うように、私も芽衣の事を大切に想ってるんですよ?」
「そんなの私だって! そうだから逃げて欲しいんじゃん」
「はい、そうですね。分かっています。だから、一つ謝らせてね。ごめんなさい。私、芽衣に嘘を吐いているんです」
「え? 嘘って、え? どういうこと?」
突然の話に頭が付いて行かないらしく、芽衣は頭を抱えて首を傾げている。芽衣は本当に可愛いなぁ。
「私の能力の事、芽衣は知ってますよね?」
「え? うん、カメラを出す能力だよね?」
そう、私は芽衣に自分の能力をカメラを出す能力だって説明しています。それは嘘じゃないけど、正解でもないです。
「そうです。でも、私の能力はそれだけじゃない。ほら」
「……え、え、え、えええええぇぇ!?」
哨の持っていたカメラはみるみるうちにその形を変え、哨の右腕を覆うほどに大きく長大な銃のようなものになっていた。
「な、何それ! 何それ!」
「これが私の能力、幻想兵装。思った通りに変えられるから普段はカメラにしてるんです。可愛くないし、芽衣に野蛮だって思われたくなかったから隠してましたけど、今は非常時ですから」
「や、野蛮だなんてそんなことないよ! 寧ろカッコいい! サイコー!」
「そ……そうだよね! この流線型の部分とかカッコいいよね! 私可愛いのも好きだけど、こういうカッコいいのも好きなんだ!」
「私も私も! ほぇー、哨ちゃんにこんな力があったなんて驚きだよ。もっとじっくり見たいなぁ」
「……うん、でもそれはまた今度。ほら、だからね。私も戦えるよ」
「うん、分かった。それじゃあ私達でお兄ちゃん達を助けてアッと驚かせよう!」
「決まりですね。それでは私は遠くから援護しますから、芽衣も頑張って下さい。……絶対、私が守りますから」
「うん、頼りにしてるね」
哨はにんまりと笑うと芽衣に背を向けて走り出した。
目指すのは園全体を見渡せる時計塔、その上部の展望台だ。
そして、目的の場所に辿り着いた哨はブレイブ・ランドを眼下に見下ろした。
高所だけあって風が強い、哨は靡く髪を手で押さえ、そして呟いた。
「ごめんなさい、芽衣。私、すっごい噓吐きなんです。それでも、こんな嘘吐きな私でも、好きでいてくれる?」
哨は西洋風の時計台、その展望台にある手すりを乗り越えて開けた大きな窓の上に立った。
「世界観測者」
どこからともなく浮かび上がって哨を包み込む翡翠の光。
それは幾つもの幾何学模様を描きだす。
「周囲二キロ、索敵開始」
哨が目を瞑って呟くと周りに浮かぶ幾何学模様が哨の周囲を回る。そして、開かれた哨の瞳に収束した。
「……あれ、何かたくさんいますね。ふぅん、やっぱり兄さんは私がいないとダメダメなんですから、しょうがないなぁ。私が尻拭いしてあげる。よし、芽衣の準備が終わるまでには終わらせます」
そして、時計塔の上が光ったかと思うと遠く離れた幾つもの場所で煙が上がったのだった。
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