2-24 バルザック・ヴィスタ
柱時計の上に座っていた何者かは立ち上がり、時計から飛び降りると話し掛けてきた。
「やっと来たでござるね。待ちくたびれてしまったでござるよ」
「ご、ござる!?」
「その語尾……聞いた事があるような? 確か古きに存在した……サムライだったでしょうか? あれ? ニンジャでしたっけ?」
「何を言っているのかは分からんが、どっちでもいいでござるよ。これはただの口癖でござるからな」
その男? は人型であったが、肌は赤褐色だし顔はトカゲみたいだし、鱗はあるし……。
よくいう所のリザードマンみたいな見た目をしていた。
というか、ドワーフとか悪魔とかこれまでの流れからして本当にリザードマンなのではないだろうか? そう考えて男に向かって言い放つ。
「その見た目、お前リザードマンだな!?」
「失礼な小僧でござるな! 違うでござるよ!」
「何!?」
結構確信を持って言っていたので、正直その返答は予想外だった。
隣で唯も不思議そうな顔をしている。
「違うんですか? トカゲに近い特徴が見られますが……」
唯の言葉にそのリザードマン? の瞼がぴくぴくと動く。
イライラしているのだろうか?
「……仕方ないでござるか。奴らと拙者達に近い特徴が多いのも事実でござるからな。ではここで知っていくがいいでござる! 以後、間違えたら容赦は無いでござるよ!」
その言葉に、やっぱりリザードマンは存在するんだとか、次回はあるのか? とか色々言いたいことも出て来るが今は置いておく。
リザードマン? は高らかにこう言った。
「拙者の名はバルザック・ヴィスタ! 傭兵であり、現在はコスモスルーラーに力を貸す者! そして、我が種族の名は竜人族! 宇宙一強い種族でござる!」
竜人族? のバルザックと名乗った男の声の後にはしーんとした静寂が場を占めた。
今の発言には結構情報が詰まっていた気がする。
こいつらの組織、コスモスルーラーとかいうのか。
あのジェルドーも言わなかったのにこんなに簡単にばらすなんて何を考えているんだろうか。多分、名乗りを上げる拙者カッコいいとか思っているんだろうな。
「うん? 拙者の名乗りがカッコ良過ぎて言葉を失ったでござるか? わははははは!」
本当に言っちゃったよ。
ジェルドーと比べて緊張感の薄い奴だな。……一応、聞いておくか。
「お前達の目的は何なんだ? どうして邦桜を襲う」
「む? 拙者はそんなことは知らんしどうでもいい。傭兵はただ言われた通りに敵を倒すのみでござる!」
知らないのかよ……。
そんなことを思っていると、空におぶられたフィアと芽衣、哨が広場に入って来た。
既に戦闘服に着替えているようだ。
「む? 新手でござるか? よいよい、宇宙最強の種族である拙者を相手にするのだから、そのくらいのハンデは……何だ? 最初からボロボロでござるな」
「フィア、空、動いて平気なのか?」
自称宇宙最強さんは無視してフィア達に声を掛ける。
するとフィアに睨まれてしまった。
「あんた達、まずはロボットを倒しなさいよ! 今回は数が少なかったからもう倒してきちゃったけど、放っておいたら被害が出ちゃうじゃない!」
「あ、そっか。悪い」
「す、すみません」
俺達が頭を下げているとバルザックはポカーンという表情でこちらを見る。
「倒した? 今、倒したと言ったでござるか? ああああああぁぁぁ! やってしまったでござるぅ! 護衛対象を守れなかったでござるよぉぉぉぉ!」
バルザックが頭を抱えてうずくまる。こんな所で待ち伏せしていたのに護衛しているつもりだったのかよ。
というか、こいつが暴れるんじゃなくてわざわざロボットを護衛するってことはあのロボットには暴れる以外の目的があるのか?
うーん、考えても分からないな。
とりあえず戦力は整っているし、客もあらかた避難したようだ。
今はこいつを倒して捕らえるのがいいだろう。
そう思っていると芽衣が近付いて来た。
不安なのか俯いている。
巻き込みたくないからどうにかして離れてもらいたいところだ。
しかし、芽衣は真剣な表情で俺の目を見つめてきた。
「お兄ちゃん、フィアさんから大体の話は聞かせてもらったよ」
俺が反射的にフィアを見るとフィアは気まずそうに目を細めて顔を逸らした。
この状況だからな。隠すのも無理があるだろう。仕方ない。
俺は意を決して芽衣の目を見返した。
「危ない事をしてるんだってね。じゃあ私も頼ってよ。私なら力になれるよ」
「駄目だ」
俺の言葉に芽衣は目を丸くさせた。
目の端に涙が浮かぶ。
「何で? お兄ちゃん私よりも弱いじゃん」
……痛い所を突いて来る。
実の所、ホーリークレイドルに入る以前の俺は確実に芽衣よりも弱かった。
だが、それも以前はの話だ。
「今なら俺の方が強いよ。間違いなくな」
とはいえ芽衣は俺が強くなったことなどもちろん知らない。
こんな事を言っても納得など出来るわけもない。
芽衣は俺に涙を溜めながら言い放つ。
「そんなの分かんないじゃん!」
「俺は芽衣に傷ついて欲しくないんだ! 大事なんだよ! ……分かってくれ」
であれば卑怯だろうがなんだろうが、俺の事を好いてくれていることに付け込むしかない。俺の言葉に芽衣の目が大きく開き、下を向いた。
震えているのが分かる。我慢しようとしているのだろう。
俺は自分に出来なかったことを妹にさせようとしている最低な男だ。
だが、兄としてここを譲るわけにはいかない。
「お兄ちゃんさ、ずるいよ……。そんなこと言われたらさ、我儘、言えないじゃん」
芽衣は涙を目に溜めながらも笑って言った。
俺は芽衣を抱き締めて頭を撫でる。
これでいい、この道は危険な道だ。
俺の我儘に妹まで巻き込むわけにはいかない。
「……一旦下がるけど、危なそうだったら割り込むからね! 分かった?」
「あぁ、分かったよ。大丈夫だ。兄ちゃんには頼れる仲間が付いてるからな」
そう言って、俺は他の三人を見渡した。
「言ってくれるね。体調も大分良くなったし、僕も頑張るよ!」
「……まだ完全には回復してないけど、サポート位なら出来るわ。任せなさい」
「私は元気一杯ですから! 頼りにして下さいね!」
と唯以外はまだまだ本調子じゃないが、サムズアップする。
「哨、そういうわけだから芽衣ちゃんと一緒に下がってて、あとはお兄ちゃん達が何とかするからさ」
「分かりました。芽衣の事は私に任せて下さい。兄さん、いつもダメダメだからって、こんな時まで雷君達の足を引っ張ってはダメですよ」
「う、大丈夫だって、カッコつかないなぁ」
「ほら、芽衣。行きますよ」
芽衣が哨に引っ張られるようにして広場の外へと走っていく。
二人が避難したのを確認し、改めてバルザックに向き直る。
どういうわけか、この長いやり取りの間バルザックはずっと腕を組んだまま動かなかった。こいつはなぜ待っていたのだろうか?
漫画の悪役はお決まりでこういうのは待ってくれるが、現実でそんな事をする奴などいないはずだ。何か理由でもあるのだろうか?
「準備は出来たでござるか?」
「待たせたみたいで悪かったな」
「構わないでござるよ。拙者は不意を突くほど落ちぶれてはいないでござる。それに、こっちも準備が整ったでござるよ」
バルザックがパチンと指を鳴らすと空間が円形に歪み、四体のロボットが姿を現した。




