2-20 ブレイブ・ランド
最寄りの駅から十駅先、そこが今日の目的地だ。
その名もブレイブ・ランド。
なんでも子供達が将来勇敢な良い子に育つようにという名目で作られた、勇者とかが出てきそうな世界観を作り出している遊園地だ。
見た目は中世の西洋を思わせる造りの建物が多く、アトラクションにもそれっぽい物が多い。
ここはラグーンシティの端にあり、ギリギリ外の人が大した手続きもなく入れるエリアにある。
ここより外に出ようとする場合は能力者だけが厳重な手続きを求められるし、中に入ろうとする場合は非能力者だけが厳重な手続きを求められる。
この一帯は中と外の境目なのだ。
……あれ? もしかして芽衣が一人でここまで来れれば母さんだけでも良かったのでは?
……してやられた気はするが、まあいいか。
母さんも忙しいだろうし、ここまで来るのも大変か。
この遊園地は観光地として結構有名で邦桜一の……みたいなアトラクションが多いのも特徴だ。
一般人には危険じゃないかとも思うアトラクションもあるのだが、一応は開園以来死傷者は出ていないらしい。
「わあああぁぁぁ! 凄い凄い! お兄ちゃん! 空君! 哨ちゃんも早く早くー!」
「芽衣、待って下さい。走ると危ないですよ」
「ははは、芽衣ちゃん楽しそうだね」
「そうだな。さて、じゃあまずは何から乗りたいかを決めないとな」
そう言って俺は遊園地の地図を広げた。
この遊園地は結構広い。とてもじゃないが、一日で回り切る事は出来ないだろう。
やりたい事を決めて計画的に行かないとな。三人も集まって来て全員で地図を覗き込んだ。
「そうだねぇ。やっぱりハイエスト・デス・マウンテンは欠かせないよね」
「僕としてはスクリュー・デス・マグカップとかが面白そうかなぁ」
「あ、このフライング・デス・サーカスというのも良さそうじゃないですか?」
「……なぁ、この遊園地のアトラクションほとんどのものにデスとかついてるが、本当に大丈夫なのかこれ? 兄ちゃん心配になってきたぞ」
名前を見るだけでどんな物か想像出来るのは良いんだが、いくらテーマが勇者とはいえ冒険し過ぎではないだろうか?
なんだよジェットコースターの最高時速三百キロって、どうやって走らせてるんだよ。
「じゃあ、その辺から回って行くか。よーし、並ぶだろうしクレープでも買ってやろう」
「え、雷君が買ってくれるのですか?」
「お兄ちゃん良いの? お金大丈夫?」
「え、おいお前ら、一体どんだけ買うつもりだ? さすがに一人一つなら苦にもならないが……。って妹達にこんな心配されてるのもなんか悲しいな」
「さすが太っ腹だね雷人。有難く頂くよ」
空がそんな戯言を言いながら手を出してくる。
この親友は何を言っているのだろうか?
「空、お前は自腹だ」
「だよねー」
「ほら買ってこい」
「はーい、お兄ちゃん大好き!」
「雷君、ありがと、大好きだよ♪」
そう言って芽衣と哨はクレープ販売の車に向かって走って行った。哨は普段敬語なのにこういう的確なタイミングで甘々なギャップを見せてくるあたり魔性の女になりそうで少し不安だ。
その時、携帯が振動した。
俺はすぐに携帯を取り出して相手を確認すると通話を開始した。
「もしもし、着いた? 悪いな、こんな事頼んで。なんちゃらマウンテンっていうジェットコースターに向かってるからその辺りで、そうそうそれ、あぁ、ありがとな」
「着いたって?」
「あぁ、間に合ったみたいで良かったよ。それにしても感謝しかないな」
「昨日の夜いきなり頼んだからね。OKしてもらえなかったら危なかったよ」
そんな事を話していると芽衣と哨が走って帰って来た。
「何々? 何の話?」
「何かあったのですか?」
「あぁ、フィアとな。もう一人兄ちゃん達の友達が着いたんだってさ。すぐに合流出来ると思うぞ」
そう言うと芽衣と哨が驚いた表情を見せる。
もう一人来る事を言っておかなかったのはまずかっただろうか?
そんな事を考えていると、二人が叫んだ。
「え、お兄ちゃん達って他にも友達いたんだ!?」
「兄さんと雷君に遊ぶような友人が他にもいただなんて……!」
「何でそんな反応するの!?」
「さすがに失礼だろ!?」
どうやら俺達はボッチだとでも思われていたらしい。




