2-19 ふふふ、私は知っています
「芽衣、ちゃんと前を見て歩いて下さい。危ないですよ」
「うーん、分かってるよぉ。ふあぁ」
次の日の朝、リビングで待っていると哨に押されながら芽衣が二階から下りてきた。眠そうに欠伸をしている。
「お兄ちゃん、空君おはよ。寝過ぎちゃった」
「芽衣がなかなか起きなかったので、お待たせしました」
「おはよう、まだそんなに遅くないし問題ないだろ」
「おはよう、今日は晴れだってさ。雨じゃなくて良かったね」
現在時刻は朝の九時。
ちょうどよく心地いいくらいの気温で寝過ぎてしまうのも分かるところだ。
何だかんだで引っ越してもフィアはベッドに潜り込んで来ていたが、二人にバレた様子は無さそうだ。良かった。
しかし、心のどこかで若干期待していたのでそれほど驚かなかったが、一応部屋の鍵は掛けたんだけどなぁ? と、嬉しいような嬉しくないような、そんな複雑な気持ちになる。
そんな事を考えていると芽衣がキョロキョロと辺りを見回した。
「あれ、フィアさんは? まだ寝てるの?」
「いや、用事があるとかで早くに出掛けたよ」
「えー! 今日はフィアさんも一緒にって思ってたのにー!」
芽衣が頬を膨らませている。
予想はしていたが、昨日の今日でもう懐いているんだな。
果たして芽衣がちょろいのか、フィアが凄いのか。
多分芽衣がちょろいんだろう。
「そう言うと思って一応誘っておいたよ。後で合流出来るだろ」
「ほんと!? さっすがお兄ちゃん!」
「ちょっ、待っ!」
そう言って芽衣が胸に飛び込んで来た。
なんとか受け止めるが、バランスが崩れて椅子から転げ落ちてしまった。
なんか最近飛び込まれる事が多い気がする。
気の所為だろうか?
「いてて、おい芽衣いきなり飛び込んで来るなよ」
「喜びは全身で表現した方が伝わるでしょ? えへへ」
そう言って芽衣が頬擦りしてくる。やだ、この子可愛い。
しかし、悪い気はしないが芽衣もそろそろこういうのは止めた方が良い時期じゃないだろうか? そろそろ俺も心を鬼にするべきなのか?
「芽衣、危ないからそういうのはダメです」
「そんなこと言って、哨ちゃんも飛び込みたいんじゃないのー。ほれほれ~」
「そんなことは……あるけど」
「いや、あるんかい。って待って待って、にじり寄って来ないで」
「お兄ちゃーん!」
「うわあ!」
ふふふ、空も飛び込まれてひっくり返った。やっぱり親友には同じ境遇を共有してもらわないとな。ナイスだぞ哨。
「……何かお兄ちゃん悪い顔してない?」
「いやいや、そんなことはないぞ。それにしても哨のお兄ちゃん呼びって珍しいな」
俺は芽衣から目線を逸らしながら自然に話題を逸らした。
「なぜお兄ちゃん呼びか、ですか? ふふふ、私は知っています。世の兄さん達はお兄ちゃんと呼ばれると嬉しくなってしまうと。さらに、それがレアであればあるほど効果は鰻登りなのだと」
「えっ! そうなの!? 私普段からお兄ちゃん呼びだよぉ!」
「な、なんという偏った知識なんだ。芽衣も信じなくていいから」
「何でもいいから早くどいてよ……」
「ふふ、嬉しいくせに兄さんは素直じゃないですね」
芽衣も大概だが、哨のスキンシップも兄妹にしてはいきすぎなような気が……。いや、深く考えるのは止めよう。
「……ほら、もういいだろ? 今日は出かけるんだから早くご飯食べろよ」
「はーい」
俺がそう言うと満足したのかようやく芽衣が退いてくれた。
俺は未だに押し倒されて頬擦りされている空を横目に朝食を配膳する。
あー、哨の上に芽衣が引っ付いて哨大好きサンドが出来上がってしまった。
これはもうしばらく掛かりそうだな。
ふぅ、朝から少し疲れたな。
なんだか長い一日になりそうだ。
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