2-17お茶目な妹二人組
居候であることを認めた所で、妹二人が俺と空の後ろに回って来た。
「ほらほら、お兄ちゃんもちゃんとお礼言わないと!」
「兄さん、お礼も言えないなんて人としてダメダメですね」
妹達にそんな事を言われたらもはや逃げ場はない。
俺と空は立ち上がり、フィアに向かって頭を下げた。
「す、住ませて頂いてありがとうございます」
「良いのよ、部屋は余っているもの」
そんなこんなで居心地の悪い時間は過ぎ、妹達は疲れているだろうからと風呂に追いやった。
芽衣は久しぶりに俺と一緒に入りたいとか言っていたが断った。どうも芽衣は子供っぽさが抜けないが、もう中学生なのだから流石にまずいだろう。俺は普通の兄妹らしい関係でいたいんだ。
それよりも問題は……。
「フィア、いきなりどうしたんだよ。妹の前でああ言われると兄としては立つ瀬がないんだが」
「まぁ、元から大した威厳は無いんだけどね……」
空もすっかり疲れた顔をしている。
やっぱり妹にヒモだと思われたら嫌だよな。
「私は間違ったことは言ってないわよ」
フィアの目がまた据わっている。
発言もどこか棘がある気がするし、声色も怒っている感じだ。
何が問題だったんだろうか?
「それはそうだけどな。さっきからなんか怒ってるだろ? 何でなんだ?」
「……何よ! そんな関係じゃないとか言うからでしょ!」
「は!?」
「え!?」
理由を聞いたら突然そんなことを言い出した。
思わず俺と空は驚きを口にする。
いやいや、俺達はそんな関係じゃないだろうが!
え? フィアの中ではそんな関係だったのか?
何かそう思うと顔が熱くなってきた。
「ちょっと、フィアさん」
「何よ」
空が何を思いついたのか手招きをしてフィアと小声で話している。
一体何を話しているのだろうか?
あの発言の直後だから非常に気になるんだが。
するとフィアがえっ!? と言うと真っ赤な顔でこっちをちらちらと見てきた。
そして、小さな声で呟いた。
「あぅ、ごめんなさい。ちょっと勘違いしてたみたい」
……もしかして、そんな関係の意味を勘違いしていた?
「……そうだよな。全く、焦ったじゃないか」
「ごめんね」
普段は強気で冷静なフィアだが、どうもこういう事には疎いらしい。
いや、俺も詳しいわけではないが。
謝る時のフィアはしおらしく、いつもより少し小さく見える。
人は小さいものを可愛いと思うと聞くが、その所為だろうか?
こういう時のフィアはいつも以上に可愛く見える。
大抵のことは許そうと思えてしまう。
今回の件に関しては……まぁ仕方ないだろう。
別に間違った事は言っていないし、妹達が勘違いしているだけだ。
どうとでもなるはずだ。
「いや、いいよ。実際間違ってはないし、むしろフィアには感謝しないといけない所だしな。フィアがいなかったら、今頃こんなにのんびりも出来てないはずだ」
「そう……?」
こちらを窺うように見るフィアに対して頷くと、フィアはやんわりと笑った。
こんな些細な事で一喜一憂できるような日常がいつまでも続いて欲しいものだ。
しかし、前回の襲撃から大分経ったし、そろそろ次があってもおかしくないだろう。
久しぶりに妹達と遊びに行くのだから、明日は止めて欲しいものだな。
そうこうしていると芽衣と哨が風呂から上がって来た。
「ん、上がったか。じゃあ二人とも寝室に案内するよ。部屋は余ってるからな」
「もー、お兄ちゃんの家じゃないんだから我がもの顔しないの。それに今日はお兄ちゃんと寝るもんね」
「あ、そういう事でしたら私も久しぶりに……兄さんと寝ようかなぁ」
「お前達……、もう中学二年だろ? 一人で寝れるだろ」
「そうそう、そろそろ男女の意識を持ってもらわないとね」
「兄妹だしそんなの関係ないもんね」
「それとも、兄さん達は妹に欲情しちゃう変態さんなのかなぁ?」
芽衣がいーっと歯を見せて抗議し、哨は恍け顔でそんな事を言ってきた。哨はちょくちょくおちょくってくるな……。
「哨……一体どこでそんな言い回しを覚えて来るのさ……」
「はいはい、馬鹿言ってないでもう寝とけ。二人とも明日は遊園地に行くんだろ?」
「もー、お兄ちゃんはまた子ども扱いしてー。しょうがないなぁ。じゃあ今日はフィアさんと寝ようかな。フィアさん変わったパジャマだよね? それどこで売ってるの?」
この瞬間、俺は頭に電気が走るような感覚に襲われた。
よくよく考えたらフィアの恰好ってかなりおかしいんじゃないか?
やばい、いつも見ているから完全に慣れてしまっていた。
いくら能力者揃いのラグーンシティでも、黒いローブ姿はさすがに浮いてしまう。
「……いや、これはパジャマじゃ」
「いやー、フィアは兄ちゃんと一緒でアニメ好きらしくてなー。今日コスプレショップで買って来たんだよ。うんうん。買ったら着たくなっちゃうもんな? ささ、芽衣ももう一人で寝れる歳だからな。寝るまでは隣にいてやるから、早く寝るんだぞー」
「もう、しょうがないなぁ。それじゃあ添い寝してよね?」
芽衣が甘えた声に加えて上目遣いで見てくる。
正直、妹は贔屓目で見なくても可愛いと思う顔立ちだ。正直可愛い。
しかし、もうそんな年齢では無いので、兄妹でこういうのはいけない。
断りたいところだが、背に腹は……変えられないか。
「仕方ないな。ちょっとだけだぞ」
「やったー」
「芽衣はいいなぁ。ねぇ兄さん。まさか私のお願いだけ断るなんてしないよね?」
「そんな甘え声出して……仕方ないなぁ。寝るまでだよ?」
「ふふふ、やったぁ」
「……哨、僕以外にそんな煽るような態度しちゃダメだからね」
「兄さん、私を何だと思ってるんですか? するわけないじゃないですか」
「いきなり素に戻らないでよ……やっぱりおちょくられてるなぁ」
そして、俺達は二人を添い寝で寝かしつけたのだった。




