2-13 好敵手
目を開けるとそこは見慣れたカプセルの中だった。
体は元気なままのはずだが、若干の虚脱感がある。
使うのは精神だけとはいえ、急激な体調の変化に頭が切り換えられていないのだろうか?
ボタンを押して外に出るとちょうどレオンとニアベルさん、フィアも出てくるところだった。
確か終わるまで意識があったので、勝負は勝ったという事で良いのだろうか?
レオンの方を見ていると視線に気付いたのかこちらへと歩いて来た。
いつの間にかフィアが傍に立っている。ニアベルさんが心配そうに見ている中で突然レオンが頭を下げた。
「え?」
突然の事態に俺とフィアは驚きの声を上げ、ニアベルさんはポカーンと口を開けた。
「先刻は大変失礼をした。ヘイゼル商会の立場などを持ち出して侮辱してしまったこと、謝罪させて頂きたい。すまなかった」
「え、えーっと。私としてはそこまで怒っていたわけでもないから別に構わないんだけど……。あなた何があったの? いきなりの手の平返しはさすがに困惑するんだけど」
「少々思う所があってな。間違いに気付いた以上、直さねばなるまい。迷惑をかけた。そうだな……もし何かあれば言ってくれ。詫び……というわけではないが、可能な限り力になろう。我が商会への口添えも出来るだろう」
「えっと……ありがとう?」
若干引きつった笑顔でフィアが礼を口にする。
それに対しレオンが別人かと思うような爽やかな笑顔を浮かべた。
いや、本当にお前誰だよ。
一気に変わり過ぎじゃないか?
「色々と思うところはあるだろうが、今後は仲良くしていけたらと思っている。そういう訳だ。宜しく頼む」
もしかして女神様のいる池にでも落ちて、綺麗なレオンでも出てきました?
違います。落としたのはもっと上から目線なレオンです。
という無粋なボケは心の中に押し留めた。
レオンの言葉に苦笑いのままフィアが俺を肘で突く。
そして、耳元でレオン達に聞こえないように話しかけてきた。
「ちょっと、本当に何があったのよ? 少し前と全然違うじゃない。人が変わったみたい……というかもはや別人なんだけど?」
「はは、同感だ。確かに態度を改めるべきだとは伝えたけどな。こうもすぐに変わるなんて思うわけないだろ。でも、俺にもよく分からないが、何か信念みたいなものを感じる気がするし、まぁ良いんじゃないか?」
「むむ……釈然としないけど、そういう事にしておきましょうか」
レオンの方を見るとニアベルさんと何か話していたようだが、こちらに気付くと右手を上げながら後ろへと歩き出した。
「それではな。次に戦う時は俺が勝つ。精進しろ、我がライバルよ」
「分かったよ。次には俺ももっと強くなる。楽しみにしておいてくれ」
レオンと俺はどうやらライバルになったらしい。
しかし、こういうのも悪くはないか。
最初のレオンならばともかく、今は素直にそう思えた。
相変わらずフィアは不思議そうな顔をしている。
ニアベルさんはレオンとこっちを数回見比べた後、こっちへと小走りで走って来た。
そして、深々と頭を下げた。
ニアベルさんは以前にも増して柔らかな笑みを浮かべている。
今度は確信を持って言える。
こういうのを幸せそうな表情と言うのだろう。
「この度は本当にありがとうございました。レオはこの頃、無理をしているみたいでしたが、今の表情はとても晴れやかです」
「大した事をしたつもりも無かったけど、レオンが変わって良かったな。それに、こっちもいい訓練になったし、ライバルも出来た。今後とも宜しく頼むよ」
「ええ、こちらこそ宜しくお願いしますわ。お二人も上手く行く事をお祈りしています」
そう言ってニアベルさんが笑って見せる。
上手く行く?
「何の話だ?」
「そ、そういうんじゃないわよ!」
「ん?」
フィアが顔を赤くしている。もしかして、フィアは恋仲とかそう言う風に捉えたのか?
しかし、俺達の関係も彼女達の関係に関する話も全くしていないから、そういう話ではなく訓練とか仕事の話じゃないだろうか?
でも、可愛いからこの表情はしっかりと記憶しておこう。
「ふふ、それではまた」
「ええ、また」
手を振り、ニアベルさんが遠ざかっていく。
どうやらレオンは壁にもたれかかってニアベルさんを待っていたようだ。
以前と比べると配慮が出来ている。
改めて、人とはこんな簡単に変われるのだろうか? と思った。
いや、違うかもしれないな。
もしかしたら、レオンの場合は元に戻っただけなのかもしれない。
現在の態度もかなり自然に見えたし、多分元からそう出来るだけの度量はあったのだろう。レオン達を見ているとフィアが俺の手を引いた。
「さ、それじゃ私達も行きましょ」
「そうだな」
忙しそうなサリアさんにお礼を言って部屋を後にする。
廊下を先ほど手を引かれてからずっと、手を繋いだまま歩いている。
フィアはあまり気にしていないかもしれないが、正直これは緊張する。
女子の手って、思いの外柔らかいんだな。
……何かさっきから無言だし、手の感覚が余計に気になる。
手汗が出てきた。何か恥ずかしいな。
「なぁ、これ、手……」
「ん? 何? あ……つ、繋いだままだったわね。いやぁ気付かなかったなぁ。あはは」
思わず言ってしまったところでフィアが手を放してしまう。
しまった、言わなければ良かったか。
だが、言ってしまったものは仕方ない。
何か話題を……。
「そういえば、今日はこれからどうする? 何か訓練するか?」
「えっ? そっそうね。今日はこのくらいにしてもいいかもしれないわね。たまには一緒にショッピングでも……」
そこまで言ったところで通信が入った。
どうやらウルガスさんが来て欲しいとのこと。
何か進展でもあったのだろうか?
フィアがなんだか残念そうな顔をしている。
相当ショッピングに行きたかったらしい。
また時間を作って行けるようにしよう。
「……行きましょうか」
「あぁ、そうだな」
俺達は並んで技術開発研究所へ向かうのだった。
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