2-12 その胸、お借りしますわ!
「あれは……?」
遠くに見える森から空に向かって、轟音と共に光が走った。
あれは間違いなく雷人の授雷砲よね。
あれを撃ったって事は決着が付いたのかしら?
フィアは前方をちらりと見ると飛来した銃弾を鎖で受け止める。
「あっちはそろそろ決着が着きそうね。こっちもそろそろ終わらせましょうか?」
「っ……、まだ、まだ負けていません」
目の前には満身創痍で銃を構えるニアベルがいた。
服も所々が破れて肌が露出しており、持っている盾も既にひしゃげてしまっている。
使い物にならなくなった銃と盾も辺りに散乱している。
明らかにもう戦える状態ではないだろう。そんな彼女を立たせるのはあの男の存在だろうか?
「もう良いんじゃない? これは仮想戦闘なんだし、あなたが脱落してもあの男も納得するわよ」
フィアは降参するように言うが、ニアベルの目にはまだ光が灯っている。
およそ諦める者の目ではない。
……あの時の私もこんなだったのかしら?
そう考えるとちょっと複雑ね。
「まだ私は、フィアさんに……、一回も攻撃出来て、いませんわ。このまま……、引き下がるわけには、いきませんの」
うーん、向こうの状況が分からない以上、あまり長引かせるのも良くないわよね。
向こうが気になるというのは事実だし。なら、そろそろ決着をつけないとね。
「そうは言うけれど、あなた一人では力が足りないように感じるわ。多分、A級っていうのも二人合わせてって事なんじゃないの? そうなら作戦ミスね。二人で雷人を倒すべきだったわ」
その言葉にニアベルは悔しげな表情を浮かべる。
だが、それでもその顔には諦めの感情は浮かんでいなかった。
「……フィアさんの言う通りですわ。私達は彼の力を見誤っていたのですね。私は二人であなたに負けるつもりだったのですが、もっと善戦出来るものだと思っていました。でも、それは自惚れでしたわ」
ニアベルの表情は尚もその言葉に反して諦めを感じさせない。
一体何をするつもり?
しばしの沈黙の後、ニアベルが口を開いた。
「これは想定とは違いますが、やるべき事はさせて頂きますわ。今の私の全力、試させて頂きますわ」
そう言うと彼女の全身を隠すほどの強烈な光が発生し、包み込んだ。
そしてその手には巨大な光線銃が握られていた。
足元には反動を抑えるためであろう。
固定用の杭が砂に突き刺さっている。
「その胸、お借りしますわ!」
「……分かったわ。負けた後に次を考える思考は重要よ。存分に生かしなさい!」
そう言ったフィアの手に視界が歪むほど高温の炎が集まり、圧縮される。
十メートルは離れているが、ニアベルの額には汗が滲んでいる。
この一撃で決める。
その意思が込められた見事な炎球が出来上がる。
「いつでもいいわよ!」
「行きますわ!」
その声を合図に双方の攻撃が放たれ、瞬間、辺りは光に包まれ音が消えた。




