2-11 見栄の張り方
巨大な銃を取り出したレオンは、自慢気に説明を始めた。
「これは何だと思う? なんと超高密度光線銃だ! それもただのではない! ニアベルがその力をもって生み出した! 俺の! 俺だけの最強の銃だ! さらに、俺の力が加わるのだからな。これを食らって耐えられる者などいはしない! それこそ、フィア・ライナックであろうとな!」
レオンは興奮した様子でこちらを見据える。
恐怖して欲しいのかもしれないが、生憎とその威力がどれ程のものかなど俺には分からない。
だが、あの自信だ。間違いなく奴の切り札だろう。
とりあえず、壁を作っても耐えられないだろう事は分かるが、避ければ問題ないと思う。
しかし、それを見越したかのようにレオンが言った。
「その余裕そうな顔……。さては躱せばいいなどと思っているのではないか? 残念だったな、この銃は追尾可能だ!」
「なっ!? 大威力の銃が追尾可能!? とんでも性能じゃないか!?」
「ふはははは! 普通であれば難しいであろうがな。実際この銃もあまり追尾性能は高くない。だが、俺の力が加わればその限りではない! ……ふはははは! どうやらエネルギーが溜まったようだ。時間稼ぎももう終わりだ。それでは、退場願おうか!」
レオンがそう言いながら引き金を引いた。次の瞬間、途轍もない量の光が解き放たれた。それは数メートルも離れた樹々さえも焼く程の熱量を持ったエネルギーの塊。
その光に俺は為す術もなく消し飛ばされる。そのはずだった。
しかし、それは俺とレオンのちょうど中ごろ辺りでその進撃を止めた。
その光景に、レオンの表情は驚愕に彩られる。
「馬鹿な……。馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な! ありえない!!」
「はは、時間を掛け過ぎたな。力を溜めていたのはお前だけじゃないんだよ!」
雷人は右手で銃の形を作り左手で右手を支えている。
そして、右手の人差し指から数センチほど離れて極太のビームが放たれていた。
俺はここまでただ逃げていただけではない。
いざという時のために力をずっと溜めていたのだ。
じりじりと少しずつ莫大なエネルギーの衝突地点がレオンの方へと動いていく。
それを見てレオンの顔はみるみると青ざめていった。
「そんな、俺は、俺はヘイゼル家の跡取りなんだぞ! こんな、前座などに負けるわけには、負けるわけにはいかんのだ!」
「はははははは!」
レオンの言葉に雷人は笑って見せた。
レオンはその態度に怒りの感情を表に出した。
「き、貴様あぁ! 何が可笑しい!?」
「いや、そりゃ俺みたいな新人でも勝てるよなと思ってな」
「なんだと! それは、どういう意味だ!」
「お前は家がどうとか、前座がどうとか。フィアや肩書だけを意識して俺を見下してたんだろ? そんな肩書だけ見てるような色眼鏡を掛けた状態で、まともな対策がとれると思うのか?」
「な、色眼鏡だと? そんなことは……」
「あるだろ。もっと慎重に作戦を組んでいれば俺なんかじゃ勝てなかったかもな。お前の真価はあの子と一緒の時なんだろ? そもそも、俺を一人で倒せるって前提にしてた時点で俺の事を舐めてるだろ」
「……いや、そうだな。くそ、悔しいが、確かに貴様の言うことは……正しいな」
「ん? ……人の言う事には反発するだけの聞かん坊かと思っていたんだけど、認めるんだな」
「ふはははは、だが……貴様も人の事は言えんみたいだな。俺はまだ負けてはいないぞ」
「いや、終わりだ。授雷砲!!」
掛け声とともに授雷砲の勢いが一気に増し、光線がレオンを貫く。
「ぐぅ、まだ、終わりではない!」
「なっ!」
レオンはギリギリで回避を試みたらしく、左半身が吹き飛んだままこちらへと突進して来た。どうやらブースターのような物を装備していたらしい。右手には一本の刀が握られている。
俺はすぐに迎え撃とうとするが、授雷砲を撃ったことで体力の消耗が激しく、思うように体が動かない。それでも、属性刀を握り迎え撃つ。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「あああああああぁぁぁぁぁ!!」
レオンが、俺が咄嗟に作った盾を切りながら刀を振り切り、属性刀が弾き飛ばされる。そして、そのままの勢いでレオンは地面に激突した。
「う……、ははは、ふはははははは! 浅いか……今回は、貴様の勝ちだ」
「いってぇ。何だよ。今の速さは。切り札って奴か?」
「ふはは、本当の奥の手は最後まで取っておくものだ。だが、それを切っても貴様が勝った。それは紛れもない事実よ」
右手足を伸ばして仰向けに寝転がりながらレオンは言う。
レオンは悔しそうにしながらも笑った。
「恐らく、貴様はまだまだ伸びるであろう。本気でやれば、今はまだ俺の方が強いだろうがな。全ての動きに改善の余地があるように見える」
「言ってくれるな。まぁ、その通りだろうけど」
「今回は負けを認める。だが、そうだな。……貴様のおかげで昔のことを少しばかり思い出した。どうやら俺は、商会の名声や肩書ばかりに意識が向いて、目の前の大切な事が見えていなかったらしい。礼を言おう。少しばかり、目が覚めた」
よく分からないが、どうやらちゃんと反省はしているらしいな。
昔の事とやらが何かは知らないが、自分の悪い部分を認識するのは改善のための第一歩だ。それを認められたのなら、変わることも出来るだろう。
あ……そういえば、フィアに言われてたな。
「……そうだ。お前の態度だけどな。初対面の奴相手にあれは悪印象を与えるだけだぞ。商会を軽んじられたくないのは分かったが、方法を間違えれば逆効果だ。あれじゃ家の名前を笠に着てるようにしか見えないぞ」
「ふはは、そうだな。そんな事は、分かっていたはずだったんだがな。忠告に感謝しよう。……次があれば、もう負けんぞ」
「そうかよ。だったら俺はもっと強くなってやる。俺は守るために、もっともっと強くならなきゃいけないからな」
「ほう、いいだろう。では貴様を俺のライバルと認めてやる。今日は久々に本気になれたからな。……光栄に思うがいい」
「……相変わらず上からな奴だな……。学んだんじゃなかったのか?」
俺がそう言うと、レオンは満足そうに笑みを浮かべた。
その顔にはこっちを見下していた時のような不快感は無かった。
「それとこれとは話が別だ。家柄を笠に着たり、色眼鏡で相手を見下すことはもうしないように努めるが、こういう見栄も必要なのだ。……それを俺はいつの間にか履き違えてしまっていたようだがな。さて、貴様の名前は何だったか?」
「……雷人。成神雷人だ」
「雷人か。覚えたぞ。俺はヘイゼル・ディン・レオンだ。忘れるなよ。……ニア、すまない」
レオンはそう言うと静かに目を閉じた。
プライドの高いどうしようもない奴かと思ったが、自分を見つめ直すことが出来るなら大丈夫だろう。
人間、ちょっと話しただけでは相手の事など分かるはずもないのだが、やっぱり第一印象には引きずられてしまうよな。
「あー、駄目だ」
俺は地面に倒れ込み、そのまま目を瞑った。
血は止まりかけているが体が非常に重い。
やはり、授雷砲を使うのは控えるべきかもしれない。
フィアの方はどうなったのだろうか? そう思いながら空を眺めた。




