2-10 決着をつけようではないか!
「一体何が? ……っ!」
光が晴れた次の瞬間、横からの衝撃に雷人は逆らわずにゴロゴロと地面を転がり、近くの木の陰へと飛び込んだ。激痛に腕を見ると血が滲んでいるのが分かった。
俺は奇襲に備えて常に体の周りに薄い膜のように電気を展開している。それと戦闘服のおかげでこの程度で済んだみたいだ。
それが無ければ、今頃腕は吹き飛んでいたかもしれない。
木の陰へと座り込み、背を預けながら衝撃があった方角を見据える。
そこには銃口から煙を上げるマシンガンを持ったレオンが立っていた。
「耐えたか。少し距離があったとはいえ、俺の力を使った銃撃で倒せんとはな。やはりただの新人ではないらしい……褒めてやろうではないか」
レオンは余裕そうな笑みでマシンガンを構えている。
すぐに撃ってこないとは何とも余裕のあるやつだ。
俺くらいなら簡単にやれるということか?
とりあえず、まずは情報を整理しなければと辺りを確認する。
背の高い木々が並び空を覆い尽くしているため、光があまり入って来なくて辺りは薄暗い。気味の悪い感じだ。
所々に蔦のような植物が生えていたり、腰くらいまでの高さの草が生い茂っている場所がある。どうやらレオンはそっちの方を気にしているらしい。
「ふむ、奴はどっちへ転がって行ったのか……。しまったな。すぐに倒して戻るつもりだったのだが、これでは時間が掛かってしまう」
レオンが苦々しい表情をしている。
辺りの様子が砂漠地帯から森の中に変わっていることから、さっきの光は転移の光だったとみて間違いないだろう。
そしてレオンの様子からして焦っている。
セリフからしてこっちにいないニアベルさんの心配をしているのだろう。
であれば、こっちには好都合だ。フィアの心配はする必要が無いからな。負けるはずがない。心配するよりも俺は自分がどうするかを考えるべきだ。
ここでの戦闘ならば障害物も多く射線が通り辛いが、レオンの放つ弾丸ならば木を貫通してしまう可能性が高い。
それに蔦や草が多いから、音が出てしまうので迂闊には動けない。
確実に俺が不利な状況だ。
そう判断して雷人は自分がもたれ掛かっている木を見上げた。
これしかないかな……。
その時、銃声が響き、そちらを見ると少し離れた草陰をレオンが銃撃したところだった。
「ちっ、はずれか。出て来るがいい! 正々堂々戦おうではないか!」
そう言いながらレオンはもう一丁マシンガンを取り出した。
まさか、数撃ちゃ当たるの精神でぶっ放すつもりだろうか?
迷っている暇は無いな。やるしかない!
雷人はなるべく音を立てないように木の上へと跳び、枝の上に乗る。
そして、一応レオンの様子を確認しようと振り向くと、運悪く目が合ってしまった。
「やばっ!」
「そこかああぁぁ!」
すぐに駆け出し、空中に足場を作ってジグザグに木を避けながら走る。
数発の弾丸が背中を叩くが止まらずに走り続ける。
そして二分程走った所で開けた場所に出たので、そこに降り立った。
横幅五メートルはあろうかという一本の巨大樹が生えており、樹を中心に半径十メートル程は樹が生えていない。
迎え撃つならばここがいいだろうと思い、巨大樹の陰に隠れる。
すると少し遅れてレオンがやって来た。
「くそっ! なんと逃げ足の速い! ……ふむ、どうやらここにいるようだな? ようやく追いかけっこも終わりか? さぁ出て来るがいい! 決着をつけようではないか!」
「何で分かるんだよ……」
雷人は自分の手を見て握って開いてを繰り返す。
そして、目を閉じて一度深呼吸をして目を開ける。
「よし、やるか!」
雷人が巨大樹の陰から姿を現すとレオンがにやりと笑った。
「覚悟は決まったか? 新人よ」
「それはこっちのセリフだ。わざわざそっちの有利な条件で戦ってやる必要はないからな」
雷人の言葉にレオンが眉を動かす。
「ほう、条件が対等ならば俺に勝てると?」
「それはこれから分かることだ!」
叫ぶと同時に斜めに走り出す。
すぐさま銃弾の雨が降り注ぐが、さっきと同様に壁を矢印状に作り出してやり過ごす。
そして壁が壊れると同時に地面を蹴り、レオンの後方へと跳んだ。
「逃がすか!」
すぐにレオンも振り返り、更なる弾丸を撃ち込もうとする。
「なっ!?」
しかし、その時にはすでに俺はそこにはいない。
レオンの斜め下でしゃがみながら属性刀を構えていた。
「馬鹿な!」
「馬鹿なじゃないっての!」
俺は跳び上がりながら一閃。
レオンが地面に膝をついた。
「ぐっ! そうか……空中に足場を作って!」
「当たりだ。壁を使えばすぐに反転出来る。A級とか言ってたが、大したことないな」
「ははは、ふははははは!」
突然笑いだすレオンを不気味に思い俺は構える。
すると、レオンは何かを投げつけて来た。
咄嗟に避けつつ見ると、側面の凹んだマシンガンだった。
「認めようではないか。確かに接近戦は分が悪い。だがな、勝負はそれだけでは決まらん」
レオンはそう言うと空中へと跳び上がり、どこからともなく取り出した浮遊する円盤に飛び乗った。
「ゆ、UFOか!?」
「違う」
一瞬テンションが上がりかけた雷人だったが冷めた口調で否定され、冷たい空気が流れる。レオンが一つ咳払いをした。
「んっ! ……油断したな? すぐに追撃するべきであったな。銃撃を主体とする者に距離を取られるなど、愚の骨頂よ!」
「お前の攻撃くらいなら耐えれなくもないからな。全ては躱せなくても、いくらでも接近出来るぞ」
俺がそう言うと、レオンは高笑いした。
どうやらまだまだ余裕があるらしい。
「ふはははははははは! それが油断だというのだ! なぜ俺にマシンガンしか攻撃手段が無いと思うのだ? 貴様にこれを使うつもりは無かったのだがな。すぐに決めさせてもらうぞ!」
そう言うとレオンは口径の大きな未来系SFの世界でしか見なさそうな巨大な銃を取り出したのだった。




