2-6 面子
レオンがなぜか二対二の勝負を挑んで来た。
まさか巻き込まれる事になるとは。
と言うか、ニアベルさんが不憫だな。
フィアの実力を知っているのか、顔が青くなり始めてるぞ。勝てないと悟ってるんじゃないのか?
「ちょ、ちょっとレオ? 私が加わったところで勝てるとは思えませんわ。止めておいた方が良いのではないですか?」
やはり遠慮がちにニアベルさんが止めるが、レオンに止まる気配はない。
「馬鹿にされたまま黙っていられるか! ヘイゼル商会を継ぐ以上、俺は舐められているのを見過ごすわけにはいかんのだ! 実力を証明しなければな!」
うーん、しかし話を聞く限りフィアが挨拶に来なかったのが許せなかった感じか? 俺には分からないが、商会にも面子とかがあるんだろうか?
いまいち悪い奴なのか分からないが、とりあえず好きではないな。そもそも、商会の面子とこいつとフィアの勝敗は全く関係ないだろ。完全にやり方を履き違えている気がするぞ……。
これに対してフィアは少し考える素振りを見せて俺に確認をとって来た。
「どうする? いつも私やマリエルさんが相手だから、たまには別の人を相手にするのも良いと思うけど」
「ふはははははははは、どうした? 早く決断をするがいい新入りよ。そんなにこの俺が恐ろしいか? その気持ちも分からんではないがな!」
こいつ、フィアにはビビってたくせに俺には凄い強気で来るな。
適当にあしらっても良い所だが、そうすると調子に乗るのが目に見えるようだ。
そうでなくてもこのまま引き下がるのはよくないだろう。
俺はともかく、フィアが難癖付けられるのは気分が良くない。
「分かった、やってやるよ。吠え面かかせてやるから覚悟しろ」
一応挑発したつもりだったのだが、完全に俺の事は下に見ているらしく、レオンは機嫌が良さそうに高笑いをした。
「ふはははははははは、それでよいのだ。では訓練場に向かうぞ。俺には充分な実力があるのだという事を思い知らせてやる!」
そう言うとレオンは踵を返して歩いて行った。
するとレオンの方をちらちらと確認しつつ、ニアベルさんがこちらへと駆け寄って来て、軽く頭を下げた。この様子だと普段から振り回されているんだろうな。
「レオがすみません。根は悪くない人なのですが、商会を継ぐプレッシャーもあって気が張っているみたいで。ヘイゼル商会の看板を気にしすぎるあまり、どうにも自分は下に見られてはいけないと過敏になっているみたいなのですわ」
想像通りの話だな。
だとしてもあの態度は逆効果でしかないと思うが、小物臭がプンプンする。
なんにしても、こっちとしてはこのまま引く選択肢は無いな。
「悪いけど、フィアにあんな態度を取られた以上、このまま黙ってるつもりはない。……えっと、確か……」
俺が一瞬言い淀むと赤髪の女性はハッと何かに気付いたような表情をし、自己紹介を始めた。
「あぁ、申し遅れましたわ。私、フレゼア・ニアベルと申します。あの……このようなことを頼める立場ではないのは分かっているのですが、……どうか、レオンをガツンと打ち負かして頂けませんか?」
「……言われるまでもないが、俺達にそんなことを言っても良いのか? よく分からないけど、多分あなたはお付きとかそういうのだろ? あいつに何かあったら困るんじゃないのか?」
「いえ、大丈夫ですわ。私はその方が彼のためになると思いますので」
そう言ってニアベルさんはレオンの方を見つめた。
その視線は、自分の上司への腹いせとかではなく、純粋な思い遣りが見て取れた。
あいつ自身には一切の好感が持てなかったが、他人のこういう目を見ると、俺が知らないだけであの男にも良い所はあるのかもしれないなと、そんな風に思えた。
フィアもそう思ったのか、ニアベルさんの目を真っすぐに見て答えた。
「いいわ、全力で来なさい。ダメダメ坊ちゃんの目を覚まさせてあげようじゃないの。うちの雷人がね」
「は? 俺が? いてっ」
突然の丸投げに驚いてフィアの方に目を向けるとバシッと背中を叩かれた。
思いの外強くて背中がジンジンする。
「おい、今の流れで何で俺なんだよ」
「だって、私があいつを倒しても経験の差だーとか言われて終わりでしょ? 私が何を言っても聞く耳持たないと思うわ。でも、あいつは雷人の事を舐め切ってるみたいだし、雷人がやった方が効果があるわよ。これからもあの態度で来られたらうんざりするし、コテンパンに打ち負かして、態度を改めた方が良いって言ってやりなさいよ」
やけに乗り気だと思ったら最後のが本音か。
まぁこの会社にはしばらく出入りするし、これから会う事もあるかもしれない。
その度にあの調子で来られたらと思うと、確かにうんざりするな。
「そうだな。俺もあいつには少しばかりイラっと来てるし、思う所がないでもない。いっちょやってやるか」
「ふふ、ありがとうございます」
ニアベルさんはフィアと雷人の言葉に柔らかい笑みを浮かべた。
恐らくレオンの事を想っているのだろう。彼女は実に誠実そうに見える。
その彼女が心配しているというだけでも、第一印象だけで決めつけるべきではないかな? 程度の考えは浮かぶ。
一見するとただのいけ好かない奴だが、そういう家に生まれたなりに抱えているものがあるのかもしれない。そう思う事にしよう……。
「ニア! 何を話しているのだ! 早く行くぞ!」
「はい、すぐに行きますわ! それでは胸を借りさせて頂きますわ」
ニアベルさんは一礼するとレオンの元へと駆け足で近付いて行った。
正直今の俺では理解出来ないが、彼女は見る限りでは幸せそうな気がする。
人の事を想えるというのは一種の強さなのかもしれないと思った。
「さ、私達も行くわよ」
「あぁ、そうだな。行くか」
自分がフィアとそんな関係になる事もあるのだろうか?
と一瞬考え、雷人は頭を振ってこの後の戦いに集中することにした。




