2-4 能力の疑問
時は遡る。
ジェルド―との戦いの後、まともに動く事が出来たのは空だけだった。
空は倒れていた唯、雷人、フィアをそれぞれ回収し、ホーリークレイドルへと帰還した。
気を失っていたため、全員すぐに治療室へと放り込まれたが、幸い全員が命の別状もなく事なきを得た。
俺は無理な動きをしていた所為で筋肉や関節の損傷が激しく、フィアは打撲や骨折が何か所もあったそうだが、ホーリークレイドルの手に掛かればそれも完全に治ってしまったらしい。
別に空が治してくれても良かったのだが、空の力で治すよりも治療して直した方が体を強くする面で良いという話だ。
確かに再生するだけの空の力では元に戻すだけなので筋力は付かないだろうが、自分が疲れるからという面もあったんじゃないのか? と少々思ってしまうのは俺の性格が悪いからなのか?
三時間程して怪我もすっかり回復した俺はフィアの勧めで技術開発研究所を訪れていた。
「言われるがままに来たけどさ、一体何の用事なんだ?」
傷は治ったものの正直疲れていてまだ眠いので、今日ぐらいは家に帰ってダラダラしたかったのだが。
しかし、フィアは何を言ってるんだ? とでも言いたそうな表情だった。
「何を言ってるのよ」
いや、実際に言われてしまった。
あれ? 何か約束でもしていただろうか?
そう考えているとフィアが呆れたように言った。
「あんたのあれ! あの翼のことよ! あんなの電気を使えるってだけじゃ説明つかないでしょ?」
「あぁ、そのことか。いや、でも翼を作って飛んだんだからなにもおかしくはないだろ?」
不思議そうな顔をする雷人にフィアは頭を押さえて下を向き、ため息を吐いた。
「はぁ、いやいやいや、ただ翼を作っただけであんな速さで飛べるわけがないでしょ」
「は? じゃあどうやって飛んでたって言うんだよ」
「そんなの知らないわよ。それを考えるために専門家を尋ねに来たんでしょ?」
「あぁ、なるほど。そういうことか」
とりあえず訪問理由に納得したところで相変わらずボサボサ頭の白衣のおっちゃん、ウルガスさんがやって来た。
「すまん、すまん。待たせたな。またレジーナの奴がやらかしやがってな。さて、ここじゃなんだし奥のテーブルで話そうや」
「はい、分かりました」
二人はウルガスさんの後に続いて歩いて行き、勧められるままに席に着く。
すると、ウルガスさんはすぐに話を切り出した。
「こっちも忙しいからな。すまんが少し巻かせてもらうぞ。えーっと、確か雷人だったか? お前さんの能力は電気の操作って話だったな」
「はい、結構細かい操作が出来るので物体の形を作る事が出来ます」
「俺としちゃあその時点で色々とおかしいって感じちまうが、まあ能力ってのは物理法則に寄らない事が多々ある。そこだけなら不思議でもないな。で今回起きた問題が……」
「翼を作って飛んだにしては速過ぎる速度で飛んだってことね。ここまで来ちゃうとちょっと疑問よね」
この言葉に俺は首を傾げる。
さっきもそんな事を言っていたが、能力なんだぞ?
「物理法則に寄らないことが多々あるなら、別に何があっても不思議じゃないだろ?」
「……雷人、能力が思いの強さから影響を受けるって話は聞いたことあるか?」
「まぁ、はい。イメージの強さが~ってやつですよね? フィアから聞きましたけど」
「それなら話が早い。その話に即して考えると、今回の件には一つ疑問がある。お前さん電気で翼を作ったとして、それで飛べるなんて本気で思うか? もちろん実際に飛ぶ前に考えたとしてだ」
「いや、それは……思いませんけど、でもあの時は飛べるっていう確信に近いものがあったんです。なぜそう思えたかと言われると……答えられませんが」
実際に飛べると思っていれば、飛べない事を嘆くより早く飛ぼうとしていた。
当然、俺はそんな事は考えていない。
あの時は自分の翼を見て、なんとなく飛べると感じただけだ。
「そこだよ。飛べるって思い込みの強さは確かに能力の強さに影響する。だが、それと実際に飛べる事は話が別だ。それで出来るなら能力を使える奴は皆空を飛んでる」
「思っただけで飛べるわけはないってことですか? まぁ、それは確かにそうですよね」
「あぁ、そうだ。だがな。実際に飛ぶ力がある奴が速く飛びたいだとか、自由自在に飛びたいって考えるなら話は別だ」
「……えーっと、それってつまり?」
頭が話を上手く処理し切れずパンクしそうになる。
つまり何が言いたいのだろうか?
飛べない奴が速く飛ぶことと、ゆっくり飛べるだけの奴が速く飛ぶことでは全く話が違うって事?
能力の性能は向上しても、全く別物の能力が使えるようにはならないと。
それはつまり……。
「あぁ、つまり。お前の能力には元から飛ぶに足る力があったって推測だ」
「え? でも今まで飛べた事なんて一度もないですけど」
「飛べる事と、飛ぼうとするかどうかは別もんって話だよ。誰だってそうだが、自分の能力について全て知ってる奴なんて案外いないもんだ。そうだろ?」
「な……なるほど」
確かにそうだ。
能力は基本的にやろうとして実際に出来たからそれが出来ると分かるのだ。
元から何が出来るか分かっているなんて事はない。
あったとしても、それはただの思い込みだ。
やろうと思って初めて出来るのだから、未知の部分があっても気付けない。
「お前さんの能力の話は前もってフィアから聞いてるが、電気じゃないって方が説明が付く事も多いんじゃないのか?」
「そう言われると……」
確かにそうだ。
自分でも少しおかしいとは思っていた。
他の電気能力者が出来る事が自分には出来なかった。
例えば、電気製品の稼働、充電、他人の操作する電気への干渉、逆に干渉される事も無かった。
固定化なんてことが出来るのも俺だけだ。それに身体強化だって……。
今まさに俺は目から鱗の落ちる思いだった。
「まぁそこで本題なんだが、今日来てもらったのは俺がそれを調べてやろうってことでな。だからお前さんのそれを貸して欲しいわけだ」
「それはありがたいですが、貸すって一体どういう事ですか……?」
「決まってるだろ。そんな物質、お前さんの星には無いだろう? 詰まる所、それはお前さんが能力で創り出してる物質のはずだ。だったらいつも通り出してくれればいいのさ、それを俺が保管する。久々に面白い研究が出来そうだな」
そう言うと、ウルガスさんは満面の笑みで巨大な瓶を取り出し、俺はその中を満たすのに残った体力を使い切る羽目になるのだった。




