2-2 フィアの策略
あれから寮長に縋ってはみたものの、結局判決が覆ることは無かった。
寮から追い出される事が決まった雷人と空は、自分達の部屋で荷物をせっせと段ボール箱に詰めていた。元々家具はほとんど無いが、引っ越し業者を呼ぶお金などは無い。
引っ越しは自分達でやらなければならないが、そこらへんは能力者なのだ。運ぶくらいならどうとでもなる。
それこそ異空間収納を使えばいいのだから何の問題も無い。
そんな事よりも問題は引っ越し先だ。
今日告げて、その日のうちに出てけとか出来るわけがない。
あの寮長、頭おかし過ぎだろ!
一先ず、ある程度の梱包が終わったところで真ん中の共有スペースに集合する。
さっきから空はもう泣きそうになっている。母さんに怒られる、怒られるとさっきから小声で呟いている。
空の母親はそんなに怖かっただろうか?
記憶の中の女性はそんなではなかったはずだが……まぁ、外面だけが良い可能性もあるから何とも言えないな。何にしても世の女性達、怖過ぎない?
そんな中、自分が原因だというのにフィアは何食わぬ顔で座っている。
この事態が自分の所為だという自覚を少しは持って欲しい。
「フィア、お前が話を合わせてくれてればこうはならなかったかもしれないんだぞ? 引っ越し先はないし、例え引っ越しても家賃が払えないし、俺達はどうしたらいいんだよ? あ、そうだ。会社の方に泊めてもらえばいいんじゃないか?」
「それだ!」
空は俺の言葉に目を輝かせる。
それは正に地獄に仏。縋れるものには縋りたい。そんな心情を感じさせた。
しかし、フィアは無慈悲にも首を横に振る。
「ダメよ。それじゃ私が自由に出歩けないわ。この仕事を引き受けた意味が無くなっちゃうじゃない」
「……フィア、お前まさか、そのためにこの仕事を引き受けたのか?」
「そうよ」
フィアは当然だと言わんばかりの表情でそう言うが、空は机を涙で濡らしている。
あまり強くは言いたくなかったが、ここで言わないと今後の発言権が無くなる気がする。俺は尻に敷かれるのはごめんだぞ。
「あのなぁ。それなら尚の事協力してくれないとだろ? 子供じゃないんだからさ、あれも欲しいこれも欲しいじゃなくて、妥協もしてくれないと困るんだよ」
そう言ってはみるが、フィアは変わらず何くわぬ顔をしている。
いや、真面目にどうすればいいんだよこれ?
そんな事を考えて遠い目をしていると突然フィアが手を叩いた。
雷人と空の視線が自然とフィアに集まる。
「そんなに言うなら仕方がないから一肌脱いであげてもいいわよ? それに、いい機会よね! ここじゃあ出歩き難かったし、部屋も足りなかったもの。実は既に良い物件を確保してあるの。後はいつ移るかだけの問題だったのよね。そういうわけだから、さっさと新居に移りましょ?」
これを聞いて雷人は目を丸くする。
この言い方、対応の速さ。
まさか、確信犯じゃないだろうな?
「既にって、フィアは家を借りられないからここに来てたんじゃなかったのか?」
「それは大丈夫よ。名義人は雷人にしてあるから」
「はぁ!?」
雷人はそう言って見せつけられた土地の権利書などの重要書類に再び目を丸くする。
「ちょ、ちょっと待て。俺はそんな金、持ってないぞ……」
まままままさか、勝手に借金でもしたんじゃないだろうな?
と冷や汗をダラダラ流しながら尋ねるとフィアはまた何かを見せつけてきた。
「いやぁ、大変だったわ。これだけ換金するの」
見せられた物は通帳だった。0が一、二、三、……七!?
こんな大金見た事無いんだが!?
「フィア? お前、何かやばい事に手を出してるんじゃないだろうな!?」
フィアの肩を掴んで揺さぶるが、フィアは両手を前に出してそれを止める。
「もう、落ち着きなさいよ。これはちゃんと私が稼いだお金よ。忘れたの? 私は働いてるんだからね?」
「い、いや。だからってこんな大金……」
「嘘じゃないわ。SSCは危険な仕事の代わりに結構稼げるんだから」
「そんな馬鹿な……」
空と雷人は声を揃えて驚く。
フィアは驚く程の大金持ちだったらしい。
「邦桜のお金にするのにはちょっと手間が掛かったけどね。一軒家を買ったから気兼ねなく過ごせるわよ。あなた達の家でもあるけど、私が全部払ってあげるから感謝しなさい?」
フィアは胸を張ってそう言った。
そもそもフィアの所為だとか、ちゃんと相談しろよとか、色々言いたい事はあったが、何よりもこれって所謂ヒモなのでは? と落胆する雷人なのであった。




