2-1 寮長の審判
「これは一体どういうことですか?」
ジェルド―との戦いから約二週間が経った。
この二週間はまさに特訓の日々だった。
しかし、それについては後で話す事としよう。
そんなことよりも、俺は目下最大の問題に直面していた。
「……もう一度聞きます。これは、一体、どういう、ことですか!?」
「えー、これはですね……」
「やんごとなき事情があったというか、何というか……あはは」
ここは、我らが椚ヶ丘高校の男子寮。その中の一室である。
現在、雷人と空、そしてフィアの三人は床の上に正座をさせられていた。
目の前で一見にこやかだが恐ろしい笑みを浮かべている女性は男子寮のオアシス。寮長その人である。
恐らく何が起きているのかは察しが付くだろう。
そう、簡潔に言ってしまえば、寮長にフィアが見つかったのである。
どうやら隣の部屋の奴等が薄々感付いていたらしく、遂にそれが寮長の耳にまで入ってしまったのだ。
寮長は普段は明るく温和な笑みが特徴的な美人さんなのだが、同時に非常に恐ろしい一面も持っている。
ダメなものはダメ、規則で決まっている事を見て見ぬふりはしてくれないし、全くと言っていい程に容赦がないのだ。融通が利かない石頭とも言う。
「ここは女子寮じゃありませんよ? 男子、寮です。分かっていますか? ん?」
「ひっ、はい。勿論分かってます」
「勿論、勿論ですよ。うんうん」
「では? どうして女性があなた達の部屋で寝泊まりしているのですか? 遊びに来た、ではなく寝泊まりですよ?」
分かっている。一日二日ならまだしも、一月以上もとなれば言い訳が意味を為さない事くらい分かっているのだ。
しかし、それでも引くわけにはいかない。
引くわけには……いかないんだ!
「や、彼女は俺の親戚でして、将来うちの学校に入るのを見越してこの辺りでの生活の予習をしていたんです。良くないとは思ったのですが、可愛い親戚の頼みを無下にも出来ず。この部屋に泊めさせて頂いている次第でして」
「そうそう、そうなんですよ。僕もどうかなーとは思ったんですけどね? 雷人は親友ですし、その親戚の子の頼みなら仕方ないなぁと思った次第なんですよ。うんうん」
二人とも必死に寮長の説得を試みる。
寮長は本当に容赦が無いし、俺達への仕送りの額も多くはない。
ここを追い出されてしまったら家賃を払えなくなってしまう。生活がかかっているのだ。全力を尽くせ!
ちなみにフィアは何も言わずに隣でニコニコとしているが、彼女が話すと面倒な事になりかねないので黙ってもらっているのだ。
大丈夫、フィアは頭の良い子だから状況を察して話を合わせてくれるはずだ。
「んー、二人はこう言っていますが、事実ですか?」
寮長がおでこの辺りに暗いエフェクトが入りそうな笑顔でフィアに尋ねる。
頼む! 合わせてくれ!
空と雷人は必死にフィアに下手くそなアイコンタクトを送った。しかして、フィアの答えはというと。
「いえ、ちょっと間違いがあります。年齢こそ彼らと変わりませんが、私は立派な社会人です。それに、彼の親戚ではありません」
フィアさーーん!?
何を言っているのかなーー!?
空と雷人は心の中で叫んだ。
これに対する寮長の答えは予想通りだった。
「うふふ、年齢だとか社会人だとか、親戚じゃないとかは正直どうでもいいんですけどね? 私だって彼氏もいないのに男女でイチャコラするのは認めませんよ? 三人とも、明日までに荷物を纏めて出ていきなさい」
寮長は笑顔を崩すことなく無慈悲に審判を下したのだった。




