7-57 決死の救出劇の報酬は2
「えっ、まさかうちらの分もあるのです? 特に約束はしていないですが」
「何を言っとる。全員が手を貸してくれたってのに、二人にだけってのは流石に不公平だろ。とはいえ、ロナルドの野郎から聞いた話で作ったからな。気に入らない部分があれば調整してやるから後で言えよ。ほら、フォレオにはこいつだ」
そう言って投げられたのは深海の様に深い青色をした薙刀だった。
フォレオはそれを受け取るとブンブンと振り回して調子を確かめた。そして、不意に異空間から金属の塊を取り出すとあっさりと細切れにした。
はぁ、何の金属かは知らないが細切れに出来るって、とんでもない切れ味だな。
どうやらフォレオも気に入ったみたいで、うっとりと薙刀を見つめると頬擦りを始めた。。
「はぁ~流石は刀神ですね……薙刀でも非常に高い仕上がりです。ここまで素晴らしい物は師匠のしか見た事ありませんよ」
「あぁ、刀神なんて呼ばれちゃいるが、元々俺は鍛冶全般問題なく出来るからな。銃は流石に管轄外だったんで止めといたが、これでも十分だろう。水の能力に合わせて作ったから上手く使ってくれや」
「はい、ありがたく使わせてもらいます。ふふ、これでまた一歩強くなりました」
「喜んでもらえたようで何よりだ。んで、そっちの天使の嬢ちゃんだが……」
「あっ、やっぱり私の分もあるんだ。うーん、でも私は天塊があるから武器を貰っても使わないかもだよ?」
「あぁ、ロナルドから聞いた話と天使族の噂話とかから察するに武器を渡しても意味ねぇとは思ったぜ。だから、お前にはこいつを用意した。受け取れ」
そう言ってエページュ様が投げたのは何やら腕輪のような物だった。
「えーと、これは?」
「そいつは鎧だ。腕に嵌めて念じてみろ。そうすれば分かるだろうよ」
「え、腕輪なのに鎧なの? うーん、よく分からないけど、とりあえず分かった。それじゃあ……むん!」
シルフェが腕輪を嵌めて力むと腕輪は瞬時に姿を変え、シルフェの要所を覆う防具へと変化していた。おお、なかなかカッコいい見た目だな。
「軽くて頑丈な鎧だ。こういうのは専門とは言えないからな。拙い部分もあるかもしれないが、それでも自信作だ。お前自身で作る物よりは頑丈さや衝撃吸収力は勝っていると思う。もし気に入れば使ってくれ」
「うん、ありがとう! 凄くカッコいいし、重くないし。使わせてもらうね!」
「あぁ、もちろん不備や修理が必要になれば声を掛けてくれれば請け負ってやるぜ。お前達はそれだけのことをしてくれたんだ、遠慮なく言ってくれ。さて、これで俺からの報酬は十分だったか?」
「えぇ、十分過ぎるくらいよ」
「俺達の分だけだと思ってたので、むしろ多いくらいです」
「そうか。じゃあとりあえずこの話は終わりだな。カミン、これからはある程度自由に動けるようになるんだろ? 定期的に酒でも飲んで話そうぜ」
「酒か、嗜む習慣はないがそれも悪くないな。もしかしたらマザーが付いてくることもあるかもしれないが……」
「うげ、機人族の親玉がセットなのか? そいつはちょっと落ち着かないな」
「ははは、可能な限り付いて来させないようにしよう。それではまた」
「あぁ、またな」
そして、俺達はカミンさんとフレイルさんを連れてホーリークレイドルへと帰還したのだった。
*****
「うん……あぁ、もう夜か」
「あっ、お兄ちゃん起きたのね。おはよう」
ベッドの上で身を起こすとぬいぐるみの手入れをしていたらしきゴスロリの少女が気付いて近付いてきた。
「あぁ、トゥーナか。戻っていたんだね、おはよう。潜入は上手く行ってるのかな?」
「えぇ、潜入先の人達が面白くて凄くいい人達でね。楽しくやれているの。……ずっとこうだったらいいのにって思っちゃうわ」
トゥーナはまだまだ子供っぽいところがあるから少し心配だったんだけど、仄かに笑みを浮かべたその表情を見るに言葉の通り上手くやれているみたいだね。とりあえずは一安心かな。
「そっか、楽しくやれているんだね。それなら僕も安心だ。それでナクスィアはどうしてるの?」
「……確か命令で耳長族の星を襲撃しに行っているはずよ。知っているでしょ?」
「あぁ、そうか。そうだったね」
「……お兄ちゃん、考えても仕方のない事は考えないで。辛くなるだけだから。それよりも私と遊びましょう? 新しいボードゲームを手に入れたの。こんな時こそ楽しい事をしないとね」
どうやら考えていることが表情に出てしまっていたみたいだ。
これ以上トゥーナに気を遣わせないように気を付けないとね。
「そうだね。そうしようか」
そうして、僕はトゥーナの用意したボードゲームに向き直りルール説明を聞いたのだった。
*****
月明かりのさす夜、電気の消えた薄暗い部屋でコールの音が鳴り響く。
窓から外を眺めていた少女が徐に端末を操作すると、落ち着いた声が少女の耳に届いた。
「夜分遅くに失礼します。例の試作品が完成したそうで、先ほど指令が下りました。我等が使命を果たすため、迅速に事を進めよとのことです。詳細は別途通達させて頂きますが、試作品が届き次第事に移る必要があるかと思います」
「……そうですか、分かりました。連絡ありがとう。こちらでも準備を進めておきます」
「はい、お願いします。……迅速に、とのことではありましたが、失敗しては意味がありません。準備に時間が必要でしたら遠慮なく仰ってください。無理をしないようにお願いします」
「いえ、問題ありません。これは私が越えなければならない試練ですから、使命を果たすためにも必ず遂行します。……あなたもそろそろ休みなさい。あまり遅くまで起きていてはいけませんよ」
「承知しました。それでは」
通信が切れると少女は空に浮かんだ月を見上げて目を細め、カーテンを閉めた。
そして、まるで自身に言い聞かせるように小さな声で呟くのだった。
「使命を果たすため、私は止まってはいけないのです」
どうも、Prasisです。
SSC ホーリークレイドル 第七章~マキリスエスケープ~
これにて終了です!
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作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!
第七章はいかがだったでしょうか?
本章は機人族とマザーを中心に話が進みましたが、重要なキーワードも出て来る回となりました。
実は初期に考えていた流れではマキナウォルンどころか機人族も存在していなかったので、
ホーリークレイドルの生産力を上げる程度の回になるはずだったのですが、あれこれと考えている内にかなり重要な回になっていました。
いやぁ、作者自身びっくりしてますが、なかなか良い出来になったように思うのでちょっと満足です。
この先も予定通りに進むか分かりませんが、その変化も一つの味だと思って作者も楽しんでいきたいと思います。
さて、それではこれで筆を置かせて頂きます。
今回も長々と失礼しました。
申し訳ないのですが、現在ストックがゼロのため次章までは結構空くと思います。
書くのも読むのも遅いので、気付くと時間が過ぎてるの何とかならないかなぁ……。
さて、次の第八章ですが、サブタイトルは「アルカディアプリンセス」の予定です。
最後に出て来た少女は一体……怪しいですねぇ。というわけで、次章もお楽しみに!
それでは、これからも
【 SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜 】
をどうぞよろしくお願いします!




