7-56 決死の救出劇の報酬は1
エページュ様の部屋に辿り着き扉をノックすると一瞬間をおいて扉が開いた。
中ではエページュ様とカミンさん、フレイルさんが椅子に座って談笑をしている所だったようだ。
扉が開いた事でこちらに気付いたらしく、エページュ様が立ち上がりながら手を挙げた。
「おぉ、兄貴への挨拶はもう済んだのか?」
「えぇ、お陰様で頼んでいたイヤリングを受け取ることが出来ました。もしかして久しぶりの対面を邪魔しちゃいましたか?」
「いや、そんな事は気にしなくてもいい。それより礼を言わんとな。カミンを助けてくれてありがとう。俺は友に助けを求められても動くことが出来なかった。お前達がいなければ二人はここにいなかったはずだ。感謝する」
「気にしないで下さい。エページュ様の立場は分かっているつもりですから。それに結果論だけど、全部上手く行ったから何も問題はないわ」
「全くだな。結果だけ見ればカミンさんとフレイルさんだけじゃなくてあのマザーまで俺達に力を貸してくれることになったんですよ。寧ろそんな機会をくれてありがとうと言ってもいいかもしれないです」
「わはははは! 言うじゃないか、あのマザーを落とすとは俺も思わんかったがな。それもわが友の助力あってこそだろう」
「いや、私はただ助けられただけだ。マザーがこれほどまでに私達の事を想っているなど、私も知らなかったからな。彼らは命懸けになっても私とフレイルを見捨てなかった。エページュにも、皆にも感謝しかない」
「はい~。それに~、私がこういう事を言うのは良くないかもしれないですが~、今回の一件でカミンがどれだけ私の事を想ってくれているかが分かったので~、私としては病気になって良かったかもしれないな~と~、思うわけなんですよ~」
「わっははは、まさに怪我の功名って奴だな! おいカミン! ラブラブで羨ましい限りじゃあねぇか! しっかり大事にするんだぞ!」
「ははは、参ったな。言われずともそうするさ。だが、その前にこの多大な恩を返さなければならないからな。これからしっかり頑張るとしよう。エページュも何かあったら遠慮なく言ってくれ、微力ながら力になろう」
「おう、もちろんその時は頼らせて貰うが、今回のは貸しじゃねぇぞ。借りを返したんだ。以前は俺が助けて貰ったんだからな」
「……そういえば、エページュ様とカミンさんはどうして友人に? マザーのあの感じからしてあまり人族との交流をよく思ってはいなさそうでしたけど」
「あ? あー、それはあれだ。マキナウォルンは物珍しかったからな。ちょーっと、付けられたマーカーを誤魔化して制限区域を調査しようとしたことがあってな。警備に見つかってヤバいって時にカミンに助けられたんだ」
「あぁ、懐かしいな。それで話をするうちに職人として意気投合してな。専門は違ったがなかなかに有意義な討論が出来たものだよ」
「あの時はまさかカミンにこんな美人の嫁さんが出来るなんて思っちゃいなかったが、こんな堅物にも運が向いて来るものなんだな」
「馬鹿を言え。どう考えても私よりもエページュの方が堅物だろう」
そんな風に軽口を叩き合っている様子を見ると本当に仲がいいんだって事が分かるな。
しかし、本当にマザーが子供に甘い親バカで助かった。心配性な親バカだったから苦労したとも言えるが……。
そんな事を考えていると、エページュ様がふと思い出したように手を打った。
「おっと、そうだ。忘れるところだったな。お前達、報酬の武器を取りに来たんだろ?」
「あぁ、そういえばそうでした。もう出来ているんですか?」
「俺を誰だと思ってる。当然出来とるわ。ほら、小僧にはこれだ」
「おっと、うわっ!?」
エページュ様が異空間から取り出した刀を放り投げたのでそれを空中でキャッチした。
おぉ、随分と重いな。属性刀の二倍くらい重い。刃渡りは大差無さそうだが、これだけ重いなら強度にも期待できそうだな。
「ちょっと重かったか? だが、小僧ならそのくらい問題なく振れるだろう。重さは力でもある。頑丈さはウルガスの小僧が作った刀と比べりゃ雲泥の差だし、切れ味も絶品だ。ほら、鞘を外してみろ」
「はい。……おぉ、綺麗だな」
鞘から刀身を出してみると、うっすらと青く透き通ったような見た目の綺麗な刀身が現れた。まるで氷やガラスのようなうっかり砕けてしまいそうな印象を受けるが、エページュ様が作った以上そんな代物ではないはずだ。
しかしこの刀から受ける印象、どこかで似たようなものを見た事があるような……。
あっ、そうだ。マリエルさんの持ってた雪の様に真っ白な刀。あれに似てるんだ。
もしかしたら、あの刀もエページュ様の作品だったのかもしれないな。
「ふん、俺の刀は飾りじゃねぇ。綺麗なだけじゃないぞ。おい、小僧のカナムとやらを流してみろ」
「あ、はい。了解です」
言われるがままに刀身を覆うように流してみると……ん! 刀身がより綺麗に輝いた。それにカナムが滅茶苦茶すらすらと流れる! 抵抗感がまるでないし、より強力になっている!?
「これって……力の増幅ですか?」
「あぁ、ウルガスの刀にあった機能を強化したんだ。あいつのも中々だったが、俺から言わせりゃまだまだだな。こいつはお前の能力に合わせて調整してあるし、使えば使うほど順応して機能が向上する代物だ。ずっと使っていればさらにその何倍もの増幅が可能になるはずだぜ」
え? それってつまり、使用者と共に成長する刀って事か?
お、うおー! それって誰もが憧れる自分だけの剣ってやつじゃないか!
まさか俺がそんな物を持つ日が来るなんてな。
「ありがとうございます。成長する刀なんて、夢みたいです!」
「雷人、後はお前がどれだけこいつを使いこなせるかが重要だ。刀に認められるいい使い手になれよ。せっかく俺が丹精込めて打ってやったんだからな。しっかり自分のものにしろ」
「はい、分かりました!」
「それと、こっちがフィアのだ」
エページュ様が投げるとフィアは軽々とキャッチした。
事前に俺のを見ていたってのもあるとは思うが、冷静に受け取ってて俺よりカッコいいのが何か少し妬けるな……。
「ありがとうございます。これも同じような性能と思っていいのかしら?」
「あぁ、雷人にやったやつと基本的には同じだが、こっちはお前の炎と氷の力に順応するように作ってある。だから見た目も変えてあるぜ」
「そうなんですか? わっ、真っ白。マリエル姉さんの雪花幻月を思い出すわね」
「あぁ、あの刀か。まぁ、あれも俺が打ってやった刀だからな。確かに白いからそう見えるかもしれないが、そいつはあれとは違うぜ。その刀は色が変わるからな」
「え? 変わっちゃうの?」
「あぁ、能力を込めてみろ。フィアは異なる性質の二つの能力を使う珍しいタイプだからな。それぞれに適した特性を持つように作ってある」
「それじゃあ……」
エページュ様に言われるままにフィアが炎を宿すと燃え盛る炎ような赤色に、氷を宿すと薄っすらと青みがかった白銀の色に変わった。
「わぁ、凄く綺麗! 炎のような赤色は情熱的でカッコいいし、白銀の氷はなんだか神秘的で気に入ったわ!」
「はっ、そうだろう。ただの性能だけじゃなくこういうユーモアもねぇとな。さて、あとはそっちの二人だな」
これまで量産武器で戦ってきましたが、遂に武器強化の時がやってきました。
作中でもトップクラスの品質の武器、今の雷人達には宝の持ち腐れかもしれませんが、
丈夫な武器じゃないと安心して振れませんし、例え十全に性能を発揮できなくてもいい物を使うに越したことはないない!
こんな考えだから形から入っちゃいがちなんですかねぇ……。




