7-55 モノリスイヤリング
カミンさんとフレイルさんを連れて再びヴェルクオンにやって来た俺達は二人をエページュ様の元へと連れていき、久々の再開を邪魔しないように席を外そうとしたところでアルチザン様に呼び出された。
「アルチザン様ですか。話には聞いていましたが、うちは会うのは初めてですね。どんな方なのですか?」
「身長が高くて、黒いマントを羽織っていて顔が見えないっていうのが外見の印象ね。小柄な人ばかりのヴェルクオンだとすごく目立つわ」
「そーなんだ! 顔が見えないってなると中の人が変わってても分からないかもね!」
「それだけ目立つなら人違いって事はないと思いますが、小さくなるのはともかく大きく見せるのは不可能ではないですし、王という立場を考えれば影武者の一人や二人はいてもおかしくありませんね」
「確かにそうかもだけど、例え影武者だったとしてもそう怖い方ではないから大丈夫よ。あまり神経質になる必要はないわね」
「いや、どう言われても王様に会うとなれば緊張はするでしょう」
「そうなの? 私は大丈夫だけど。それだったら空のご両親に会うってなった方が緊張しちゃうよ」
「ははは、シルフェは変わらないな。さて、ここみたいだな。中に入るか」
「ちょっと待って、こういう時は中に入る前にちゃんと許可を取らないと」
「あっ、そうだよな。悪い悪い。俺も緊張してるみたいだ」
「もう、しっかりしてね」
そう言うとフィアはドアをノックし、入れという言葉を待って中に入った。
そのまま歩いて行くと、周囲にいた匠人族達が外に出て行った。あらかじめ話を通していたのだろう。俺達が少し離れた位置で立ち止まるとアルチザン様が腕を一振りした。
「さて、二人とそちらの二人も弟の友人の救出に尽力してくれたそうだな。弟の依頼を引き受けてくれたこと、改めて儂からも礼を言わせてもらおう。マキナウォルンを相手取っての救出、見事だった」
「アルチザン様からの賛辞、光栄に思います。それで……わざわざ私達を呼ばれたという事はもしかして……」
「あぁ、そうだ。イヤリングが完成してな。これだ、受け取るがいい」
そう言ってアルチザン様がイヤリングを取り出すと、イヤリングはふわふわと浮いてフィアの手に納まった。
「あぁ、そういえばフィアの新しく発現したとかいう力を抑えるのにイヤリングが必要だと言っていましたね。それがこれなのです?」
「わぁ、綺麗な緑色だねぇ」
フィアの手に納まったそれは綺麗なエメラルドグリーンの色をしていた。先日フロラシオンの中心とやらで見た黒い物質が放っていた光に似ているな。回収したモノリスの欠片は赤色だったし、元々のイヤリングの色も赤色だったはずだが、何でこの色になっているんだ?
そう思っているとアルチザン様が説明をしてくれた。
「そのイヤリングには注文通りオンオフの機能を付けておいた。エメラルド色の時はオフの状態で、この時は溜め込んだ例の黒い霧を放出するようになる。だが、二回叩けば機能がオンとなり吸収する状態になる。この時の色が赤色だ」
「二回叩く……あ、色が変わったわ」
「本当ですね。なんだか不思議です」
「おぉ! こっちもきれーだね!」
色が変わったのを確認するとフィアはそのイヤリングを耳に付け、何回か叩いて確認をしているようだった。
「……確かに漏れ出た黒いのが吸収されてる感じがするわね。オフにすると……あっ、本当に漏れ出てるわ! ちゃんと使える。うん、完璧ね! アルチザン様、ありがとうございます」
頭を下げるフィアに合わせて俺も頭を下げる。
顔は見えないが、それを見てアルチザン様も笑っているように感じた。
「あぁ、儂も久々に良い仕事が出来て良かった。さて、これで儂からの用件は終わりだ。エページュからも用があるようだったからな。これから改めて向かうといい」
「エページュ様がですか?」
「あぁ、報酬として武器の製作を頼んでいたのだろう?」
「あぁ、そういえば。分かりました、これから向かいたいと思います。ありがとうございました」
俺達は改めて頭を下げると部屋を後にしたのだった。
これまで力をただ抑え込んでいたイヤリングが力を溜め込む貯蔵装置になりました!
黒化が使えるようになったフィアにとっては黒化の持続時間を延ばす重要アイテムになりますね!




