7-54 指摘が遅い!
さて、マキナウォルンでの一件から一日あけて次の日、フレイルさんが回復したという連絡を受けたので俺はフィア、フォレオ、シルフェとともに医務室にやって来た。
……実は俺達、作戦中に飲まされた薬の所為で体調を崩して昨日も来てるんだよな。
マザーにはどっかで文句の一つでも言ってやりたいところだけど、とりあえずそれは置いておくか。
「失礼します。ミューカスさん、フレイルさんが回復したと聞いてきたんですけど……」
「あっ、カミンったら~。もう元気なんですから~、着替えくらい一人で出来ますよ~」
「いや、病み上がりなのだから無理はせずに私に任せてくれ。上はともかく、下を変える時に体勢でも崩したら転んでしまうかもしれないからな」
「うわっ!?」
どうやらタイミングが悪かったらしく、ベッドに座っているフレイルさんの着替えをカミンさんが手伝っている所だった。
カーテンがあるのになぜ閉めていないのかとか、ミューカスさんがいるのになぜカミンさんが手伝っているのかとか、疑問は色々と浮かんだが思うように言葉には出来ずに俺は固まってしまった。
「も~、心配性ですね~。座って変えれば大丈夫……あれ? きゃっ、か、カミン~、すみませんが着替える前にカーテンを閉めてもらえると~」
「む、なぜだ? ん? あぁ、来ていたのか。すまないが今はフレイルの着替え中でな。すぐに終わるから少し待っててくれ」
もはや下着姿となっていたフレイルさんは顔を真っ赤にしていたが、カミンさんは俺達の存在に気付いたうえで着替えを続行しようとした。
「いやいやいや! 何で冷静なんだよ! もっとちゃんと隠すとかしむぐっ!?」
「ら~い~と~? そう言うあなたはどうして見ているままなのかしらね? 手で眼を覆うくらいはしたらどうなの?」
「またですか? またなのですか? 雷人は本当にスケベですよね! 今はもうフィアという彼女がいるのですから、もっと自重したらどうなのです?」
思わず突っ込もうとしたところで後ろにいたフィアに目を覆うように頭を掴まれ、横からフォレオに小言をぶつけられた。
し、しまった。前にフォレオの件でやらかしてるからな。もう初犯だったからでは通じない。俺はどうしてこう誘惑に弱いんだ! 頭を掴む力が強いし、どうやら温厚なフィアも今回ばかりは怒っているみたいだ。
どうすればいい? 何かいい方法はないのか? 今回の原因はそもそもカミンさんが人目を憚らずに着替えを始めたことにある。それを止めなかったミューカスさんにも問題はあるはずだ。
とはいえ、俺が目を背けなかったのが悪いのは事実だし、人の所為にするのはやはり心証が良くないよな。……ダメだ。いい案がさっぱり思いつかない。こうなったら……素直に謝るしかない!
「す、すみませんでした!」
「……とりあえず謝っておけばいいと思ってないですか?」
「どうしろと!?」
フィアに目を覆われているので見えないが、恐らくフォレオが俺の頬を指でつついてくる。もしかして、俺を弄るのを楽しんでいないか? しかし、対抗策もないのでされるがままになるしかない。
そんな風に半ば諦めているとフィアがため息を吐いた。
「はぁ、仕方ないわね。雷人はどうもスケベみたいだし、あまり締め付けすぎるのも良くないって聞くし」
「フィアは甘いですね。そんな事を言ってるとこの男はつけあがりますよ」
さっきから散々な言われようだがぐぅの音もでない。せめてフィアにスケベだと思われているのはどうにかしたいが、今後の行動でどうにかするしかないだろうな。今はどうしようもないのでそれはさておき。
「さっきから俺への態度が冷たくない?」
「うちは被害者第一号ですよ? 忘れたとは言わせませんからね」
フォレオが俺の頬をぐりぐりと突き耳元で囁いてきた。
何か耳に息がかかる所為かぞわぞわっとして、俺は反射的に叫んだ。
「すみませんでした!」
そんなこんな騒いでいるとどうやらフレイルさんの着替えが終わったらしく、そのタイミングでフィアによる目隠しが外れた。許された……とは思わない方が良いだろうな。
「ふふ、雷人は着替えの音でも変な妄想をしかねませんからね。これで注意が逸れたんじゃないですか?」
「ちょっと、フォレオ。確かに雷人も悪いけど、あんまりいじめないであげてね。多少仕方がない事なのも分からないわけではないし」
「はぁ、やっぱりフィアは甘々なのですよ。まぁ、今回はこのくらいにしといてあげます」
確かに着替えの音とかは気にならなかったが、心臓に悪いので止めて欲しいものだ。
まぁでも、フォレオのおかげでどうやらフィアの怒りも収まったようだ。
やはり自分よりも口を出す奴がいると擁護したくなるものなのだろう。
フォレオから言われるよりもフィアから言われた方がダメージがデカいからな。その点には感謝しよう。
さて、二人が怒っていた所為かステルス機能を発揮していたシルフェがちょこちょこと前に出て来た。ほんと、空気を読む力が強くなったなぁ。
「フレイル元気になってよかったね。ずっと辛そうだったから心配だったんだ」
「はい~、ありがとうございます~。ほんとうに~、皆様にはお世話になりました~。もし来て頂けなかったらどうなっていたことか~」
「あぁ、私からも改めて礼を言わせてくれ。藁をも掴む思いで送った信号に応えてくれて助かった。色々と大変だったが、結果的にはマザーとも絶縁せずに外に出られたし、仕事と生活する環境まで提供してもらったからな。本当に感謝している」
「いいのよ。私達は仕事をしただけだから、お礼なら依頼を出したエページュ様に言うと良いわ。ちょうどこれから報告に行くところだから」
「そうか。では私とフレイルも付いていくとしよう。ミューカスさん、あなたにも本当に世話になった。フレイルを助けて頂き感謝の言葉もない」
「本当にありがとうございました~」
「ふふ、それこそ気にする必要はないわ。他の隊員達がしてくる怪我とかに比べれば可愛いものよ。ただ、まだしばらくは激しい運動はしないようにしてゆっくり休む事。いいわね?」
「はい~、分かりました~」
「あぁ、そのようにしよう」
「あぁ、それとカミン。女の子は人前で肌を晒すのは恥ずかしいと感じるものよ。これからは気をつけなさいね」
「な、そうだったのか。すまないフレイル」
「はい~、分かってもらえたなら大丈夫です~。次は気を付けて下さいね~」
……うん、ミューカスさん、俺達が入って来る前から着替えしてるのは見てたはずですよね? 指摘が遅くないですか!?
俺は心の中で全力で突っ込んだのだった。
異種族カップルには種族の違い故の認識の差がありますが、この二人ならそれも軽々と超えて行けそうです。
やはり寛容さと学ぶ力は共同生活において重要だと思います!
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