7-51 フィーフィリア・アフェット
ボタン達の後方、観客席の最上段付近から何かが跳び上がり、俺達の目の前に降り立った。
「は!? え、マザー!? あの状況で無事だったのか!」
「肯定、問題ありません。余裕です余裕。私には子供達を見守るという責務がありますので、死んでなどいられません」
「……マザー、あなたの想い、確かに私に届きました。しかし、それでも私は……」
「……カミン。私はあなたを外に出す気などありませんでした。これまで外に出て幸せになった子供など一人もいなかったからです。今回もあなたを連れ出そうとするSSCの四人を倒し、諦めさせるつもりでした。……ですが、あなたは彼等に全てを任せるのではなく自身の力で私に立ち向かいました。更には私の試練を乗り越え、その覚悟と力を示しました。だというのに、どうしてこれを止められるでしょうか。これは誰も為した事のない凄い事なのですよ。胸を張りなさい」
「……マザー、ありがとうございます。私はあなたに後悔などさせないことを誓います。安心して送り出して頂ければと思います」
「壮行、フレイルと共に幸せに生きなさい。さぁ、彼女の容体が心配です。すぐに連れて行くといいでしょう。ウコン、イコウ彼女をこちらへ」
「おー、こっちこっち、ゆっくりなー。コピー?」
「あ、はい~。ありがとうございます~。えっと~? あ、アイコピ~?」
「そうそう、もっと元気に! アイコピ―!」
「あ、アイコピ~!」
さっきの二人組の機人族に背負われてきたフレイルさんがカミンさんに引き渡された。
彼女は今回の作戦に同行させるわけにはいかなかったからな。「ガッティーノ」達に預けていたのだ。それをこの二人が連れて来たという事は、まぁやはりそうなのだろう。
「フレイル、体は大丈夫か? あまり無理をするな」
「はい~、頂いた薬と食べ物のおかげか少しは良くなりましたから~。カミン~、私のために頑張ってくれて~、ありがとうございます~」
「あぁ、よかった。許可が出たからな。これから彼らの拠点に向かう事になる。あと少しの辛抱だからな。もう少しだけ頑張ってくれ」
「とりあえずこれで一件落着か。でも、ここって確か宇宙船の発着場からかなり離れてたよな? まだまだ大変そうだな」
「否定、病人の扱いは繊細でしょう。さんざん引き留めておいてなんですが、すぐに帰る事を勧めます」
「いや、別に好きでここに残ろうってわけじゃないんだが……何か方法でもあるのか?」
「肯定、簡単な事です。ハカス、お願いします」
「ふふふ、ここで我々「ガッティーノ」の出番でゲス!」
「そ、その声、やっぱり反抗者も偽物だったのか。いや、そうだろうとは思ってたんだが」
「うふふ、今回は騙しちゃって悪かったわね。でも、あながち嘘ってわけでもないのよー? 実際にイルミちゃんが外に出る時は一緒に反抗者をやったんだから」
「うん、オデも、懐かしかっタ」
「やー、恥ずかしいなー。もう昔の話だよー」
「あら、イルミちゃんは今でも私達のアイドルのままよ? いつアイドルに戻ってもいいようにグッズも作ってるし、メイクの腕もばっちりよー!」
「やー、もうイルミじゃなくてククリだからねー。でもありがとー。そう言ってくれて嬉しいよー」
「ゲイン! 懐かしむ気持ちも分かるでゲスが、今は仕事が優先でゲース! セキュリティのためのジャミングはそのままに、ホーリークレイドルの通信を復旧させるのでゲス!」
「えっ? それってつまり、転移が使えるようになるって事か! そんなこと出来るのかよ!」
「ふっふっふ、そういう事でゲース! 我々「ガッティーノ」は天才ハッカー集団、このくらいは朝飯前なのでゲース!」
「うふ、そうね。それじゃあ、やっちゃうわよー!」
「う、オデも、頑張る」
「委託、それでは頼みます。さて、少し時間が掛かるでしょうから今のうちに帰り支度を済ませるといいでしょう」
「あぁ、そうだな。ん? あ、起きたのか」
「んぅ、あれ、布団で寝てる? どうなったの?」
「何とか上手くいったぞ。マザーも生きてるし、許可も出た。今は「ガッティーノ」達がホーリークレイドルと通信出来るように手配してくれてる所だから、もう少し休んでていいぞ」
「そう、上手くいったのね。良かった。……そういえばマザー、ちょっといいかしら?」
「はい? 肯定、何でしょうか?」
「一つだけ、ちょっと気になった事を確認したくて。確かあなた、マスターに捨てられたって言っていたわよね」
「……またその話ですか? 何度言われた所でもう過去の事なのです。マスターが私をどう思っていたのかなど、今となっては分かりようがない事を考えても意味がないでしょう」
「えっと、辛い事を思い出させてごめんなさい。でも、一つ確認したくて。マザー、あなたにマスターが付けた名前がフィーフィリア・アフェットなのよね?」
「肯定、それが何だと?」
「その名前の意味、考えたことあるかしら?」
「名前の意味? ……まさか」
「大切なものほど人は名前に意味を込めるわ。今と昔じゃ言葉が変化してることもあるし、私の知ってる言語の言葉じゃないかもしれないけど、似た言葉からどんな意味なのか類推することは出来るわ。きっと、「愛娘」。そういう意味だと思うんだけど、どうかしら?」
「……そう、そうですか。少なくともマスターは私の事を娘だと思ってくれていたのですね」
「あっ! やっと繋がりました! 皆さん無事ですか! 無事ですね!? 心配したんですからー!」
「あ、シンシアさん。いきなりで申し訳ないんですが、ちょっと体調を崩してる人がいまして。ミューカスさんに治療をお願いしたいので、すぐに転送してもらえませんか?」
「えっ! 体調不良ですか!? わ、分かりました! すぐに転送します! えっと、少し人が多いみたいですね? 雷人さんを中心に直径五メートル以内の人を転送しますから、転送する人を集めて下さい!」
「分かりました。カミンさん、こっちに集まってくれフォレオとシルフェは……大丈夫だな。よし、それじゃあ機人族の皆、色々と迷惑を掛けたな。これでお別れだ」
「えぇ、そうですね。突然やって来て引っ搔き回して、とても迷惑を掛けられました。しかし、私、マザーはあなた方を認めます。カミンの事もありますし、これからは友好的な関係を築きたいものですね」
「やー、マザーがそこまで言うなんてねー。マザーの一声はマキナウォルンの一声と同じだよー。良かったねー」
「そういうことだ。これからも何か関わる事があるかもしれないな。その時はよろしく頼む」
「おー、よろしくだぞー、コピー?」
「うんうん、よろしく! アイコピ―!」
「あぁ、よろしくな」
「よろしく。イルミとも是非仲良くしたいわ。また、元気に踊っている所とか見せてね」
「やー、だから皆と交流してたのはククリじゃないんだけどなぁ。分かったよー、とりあえず記録は確認しておくねぇ」
「我々はイルミが復活するのなら大歓迎でゲスよー」
「やー、困っちゃうなぁ」
「別離、それでは暫しの別れです。また近いうちに」
そう言ったマザーはこれまでに見せなかった晴れやかな表情で笑っていた。
色々あったが、どうやら最後はハッピーエンドを迎えられたかな。
「皆さん、準備が出来ました! いきますよー、転送!」
こうして、俺達の救出作戦は幕を閉じたのだった。
さて、マキナウォルン編、これにて大円団です!
名前の意味、気付いた方はいましたかね?
マザーなのに名前は娘だったんです、誰しも母である前に娘でもありますからね。
ちなみに、実は初期の頃に名前を決めたキャラは語感重視で決めていたのであまり意味が無かったりします……。
それ以外のキャラは一応それぞれの特徴に合わせた名前になっている(もじっているだけなので少し違いますが)ので、考えてみてもおもしろいかもしれませんね。
さて、大円団とは言いましたが細かな話が残っていますので、もう少しお付き合い下さいませ!
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