7-49 行き過ぎた思いの果てに
「勝負、準備はいいですか?」
「あぁ、勿論だ。砲塔照準」
「ふぅ、黒化。アブソリュート・ノヴァ」
マザーの機動要塞、その巨大砲塔へと向けて雷輪の砲塔が伸びる。
そして、黒化したフィアの蒼氷が一帯を埋め尽くし、圧縮粒子砲と巨大砲塔の照準を固定した。
「っ! ふふふ、そうですか。逃げも隠れもしないという事ですね。良い覚悟です。それでは参りましょう」
「勝負です! マザー! 圧縮粒子砲!!」
「雷輪起動! 超加速砲!!」
「トレッタ解放、超高出力砲、フォーコ!」
双方から放たれたエネルギーの奔流が衝突し、せめぎ合う。
雷輪による加速のおかげか、拮抗している位置はマザー側寄りだ。しかし、押しつ押されつ一方的には決まらない。
「雷人! これ以上の出力は出ない! 押し込まれるぞ!」
「いや、まだ、まだだ! 回転速度を上げる! 負けるわけにはいかないんだよ!」
「これがあなた達の努力、この一幕に掛けた覚悟ですか。これほどの一撃、賞賛します! しかし、ここまでです!」
「「「はあああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」」」
ぐ、くそ! 全力を振り絞っているのに撃ち勝てない!
限界が近いのか鼻血が垂れてきた。力んだ拳に爪が刺さって血が流れる。食いしばった歯が軋む。それでも、ここで負ければ俺だけでなくフィアも巻き添えだ。何が何でも、負けるわけにはいかない!
「ぐ、うぐ、ああああああああああああああぁ!!!」
その時、フィアが俺の肩に手を置いた。そして、黒い霧が噴出するのが見えた。視線を動かすと視界の端に赤く光る目が映った。
「なかなか手強いわね。でも大丈夫、後は任せて」
確かフィアが扱える黒き力は十パーセント程度という話だった。だが、今出ている霧の量は訓練時のそれと比べて明らかに多い。
「おい、それ、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。だって、あなたがいるでしょ? だから、ここは私に任せて、この後の事は任せるから」
そう言ってフィアは苦しそうにしながらも笑った。
俺もカミンさんも限界が近い、迷っている時間はない。それに、これだけ信頼されて応えないなんて嘘だろう?
「……分かった。頼む!」
「うん……ふぅ、黒化解放二十パーセント! ぐっ、あぁ、うあああ! アズール! イラプション!!」
フィアによって放たれた青炎はせめぎ合うエネルギーの奔流を包むように展開され、周囲に吹き荒れる突風をものともせずに突き進むとマザーの放つビームをぐんぐんと押し返した。
これは予想外だったのかマザーの表情が驚愕に染まった。
「驚愕、私が、押し負けている? 出力増大……不能? これ以上は……いや、まだ、まだです! 全砲門展開、斉射!」
「あぐっ! ぅう、そんな豆鉄砲、意味ないわ。フロストウォール!」
マザーの放った最後の悪足掻きは地面からせり上がった蒼氷の壁によってあっさりと防がれた。ここに来て遂に決壊したかのようにマザーの表情が崩れた。
「防がれた……? 全て? そんな、私が負けるのですか? 駄目,駄目です! 子供たちの未来は! 私が守らなければなりません!」
「マザー、私達は機人族だ。ただプログラムに沿って動くロボットではない、自ら思考出来るのが機人族だ。あなたがそのように作ったのです。……マザーに心からの感謝を、私は、私達は、自らの進む道を選ぶことが出来る!」
カミンさんが叫ぶとマザーは一瞬放心していたが、ふいに柔らかな笑みを浮かべた。
「……そう、そうですか。覚悟が足りていなかったのは私の方だったという事ですね。祝辞、試練は合格です。カミン、あなたの進む道に祝福のあらんことを祈っています」
そして、マザーは笑顔を浮かべたまま光の中へと消えたのだった。
VS マザー戦 これにて決着です!
マザーはどこまでも親だったのですね。しかし、そんなマザーも元々は……。




