7-47 母を討つ覚悟1
「無理無理無理無理無理!!」
俺はフィアを担いで背後で起きる無数の爆発から逃げるべく全力で走っていた。
マザーが召喚したあの機動要塞とかいう機体? 兵装? よく分からないがあれの火力はマジでヤバい。
さっきからひっきりなしにミサイルを飛ばしてくるし、肩部分に着けられた二門の砲塔から極太レーザービームを撃ってそのまま薙ぎ払いまでしてくるのだ。
しかもどういう技術なのかレーザービームはドームの壁に当たると反射して跳ね返って来るし、自滅でもさせてやろうかと思って調整してみれば、奴自身に当たっても反射してしまう始末だ。
まぁ、自分に脅威になるようなものを反射なんてさせないか。そりゃそうだよね。
何にしても攻撃範囲が広くて逃げ回るには非常に厄介な相手なのだ。
その癖動きは巨体のわりに速いし、近付こうとすると高速でグルグルと回転して危ないのでどうにも攻撃が出来ない。機人族だからどんだけ回ろうとも酔ったりしないしな。
やはりここはいつもの様に大技でどうにかならないか試してみるべきか?
とはいえ、失敗でもしたら体力を大きく失ってより不利になるだけだし、フィアも万全じゃない以上打つ手が無くなるんだよなぁ。
「挑発、逃げてばかりで掛かって来ないのですか? 相手が巨大となると途端に弱腰ですか。何とも頼りない護衛ですね」
「……挑発って馬鹿正直に言っちゃったよ。何でそれで効果があると思うかね?」
「とはいえ逃げ回ってるだけなのは確かなのよね……。アイスネット!」
フィアが腕を振るうと氷を帯びた鎖が展開され、こちらに向かっていた無数のミサイルを受け止めると誘爆を起こす。それなりに離れた位置で爆発してるのに爆風が凄い。
うーん、どう見ても邦桜で相手にしてたロボット連中とは比べるべくもない火力なんだよな。あれが直撃したら本当にヤバそうだ。
そんなミサイルが幾つもって、やっぱりマザー殺る気満々じゃん。
ここから穏便にとはなりそうもないし、このまま逃げてても疲弊して詰むだけだ。
機人族が疲弊するとも思えないし、時間は明らかにマザーの味方。うーん、やっぱりこうなったら一か八かやるしかないか?
そんな事を考えていると不意に地面が崩れ、俺とフィアはそこに落ちた。
「きゃあっ!?」
「うわっとぉ! 危ないな……って地下に空間?」
「びっくりして変な声出ちゃった。……さらに下があったのね。隠し部屋って感じかしら?」
周囲を見渡すと何やら頑丈そうなショーケースが並んでいた。
中には色んな物が並べられていたが、おもちゃのような物から武装のような物、アクセサリーの類まで一貫性はなさそうだ。
しかし、ただの物置のようなものだったのだろう。
そこはあまり広くなく、せいぜい十メートル四方といった所か。
こんなところにいてミサイルを撃ち込まれたら爆風の逃げ場も少ないしひとたまりも無いな。まずい、早く出ないと。そう思ったのだが、フィアがふと呟いた。
「止まったわね」
「止まった? ……そういえば、あれだけひっきりなしに鳴ってた爆発音が消えたな」
マザーが攻撃を止めた? 弾切れってこともないだろうし。
だとすればこの部屋が原因とみて間違いないよな。
「詰まるところ、この部屋にあるものはマザーが傷つけたくない大切な物ってところか」
「多分そうでしょうね。このままってわけにはいかないけど、少し息を整えるくらいは出来るかも」
フィアがそう言ったので落ちてきた穴を警戒しつつも少し休んでいると通信が入った。この声は……カミンさんだ。
「二人とも、聞こえるか? マザーの攻撃が止んでいる内に少し話がしたい」
「良好よ。このタイミングって事は、何か手があると思っていいのかしら?」
「話が早くて助かる。私の事情なのに何もしないというのも良くないからな。準備をしていたんだ」
「準備って何だ? いつマザーが動き出すか分からないからな。手短に頼む」
「あぁ、マザーに反対される事は予想がついていたからな。こちらも対抗手段を用意していたんだ。ちょうど今それの整備点検が終わってな」
「対抗手段? どんなのだ?」
「圧縮粒子砲だ。使用する弾は特製でな。適当な物を中に入れれば分解して圧縮出来るようになっている。二人が戦っている間に十分な量を入れることが出来たから超高エネルギーの弾が一つ用意できた。仕様上撃てる弾は一発しかないが、恐らく今のマザーにも通用するだろう」
「……よく分からないけど、とんでもないものってことは分かるぞ。本当にそれ使っても大丈夫なやつか?」
「設計上エネルギーの放出は指向性だ。周囲への被害が無いとは言わないが、極力小さくなるようにしている」
「……それってマザーへの対抗手段として開発したのよね? それを食らったらマザーはどうなるの?」
「消滅する……だろうな。あくまで直撃すればの話だが、そうなるように作った」
「……いいのか?」
「残酷な事を聞くんだな。……マザーは殺すつもりで来いと言っただろう。実際、そうでもなければマザーに適うとは到底思えない。これは、覚悟の問題なんだ」
カミンさんの声はひどく重たいように聞こえた。マザーは機人族全員の母、カミンさんとて親殺しなどしたいはずはないだろう。
だが、そうでもしないと認めてはくれない頑固者、か。
……俺の思う通りならマザーが試しているのはマザーを振り払うほどの力と覚悟だ。故に当てる必要はないと思うが、力は示さなければならないはずだ。ならば……。
「分かった。カミンさん、一つ提案がある。聞いてくれるか?」
そして、俺が提案の内容を話すとカミンさんはしばらく沈黙した。
「……分かった。その提案に賛同しよう。しかし、そのためにはマザーの足止めは必須だ。今のマザーは力も速さも規格外だ。出来るのか?」
「それは……」
俺が近くにいるフィアに視線を向けると、フィアは胸を叩いて見せた。
「いいわ。私がどうにかして足を止めてあげる。ただ、もうほとんど力はないから止められるとしても一瞬だと思う。だから、タイミングを合わせて」
「悪いな。負担を掛けて」
「謝らないで。やるからには完璧に勝利する。そうでしょ? それに、こういう時は違う言葉を掛けるものじゃないかしら」
「あぁ、そうだな。任せる。頼んだぞ」
「ふふ、それでいいのよ。それじゃ、いくわよ!」
そう言ってフィアは笑って見せた。
さて、やる事は決まった。なら後は実行するだけだ。
超火力の巨大ロボ、普通に倒すのは難しそうですね。
生物故の弱点が無いって言うのが機人族の一番の強みなんですよねー。




