7-46 VS マザー4
雷人は二人の戦いを離れた所から観察していた。
体が上手く動かない内は割って入っても邪魔になるだけだし、正直雷人にとってもフィアの黒化がどうなるか未知数だったからだ。
結果として、どうやらフィアは問題なく黒化を扱えているみたいだった。
少し不安定なようにも見えるが、今のところ暴走している様子はない。
しかし、マザーの方もさらに強力になっていた。
俺の時と比べて三倍以上の機動侍衛を操作しているし、その操作精度が非常に高いのは見ていれば分かった。
流石は機人族と言うべきか、こういった演算とかは得意分野なのだろう。
フィアはみるみるうちに追い詰められ、動きが止まった一瞬を狙って巨大な金属板に囲まれてしまった。
「流石に助けに入るべきか? いや、でもあの金属板を吹き飛ばすとなると……授雷砲や超加速砲だとフィアまで吹き飛ばしかねないしな」
高威力の技はやはり扱いが難しい。何も考えずに吹き飛ばしていいなら気楽に使えるが、それによって発生する影響を考えると易々と使えないんだよな。
そんな事を考えて手をこまねいているとくるくると回って砲身のようになっていた機動侍衛が強烈な光を発し始めた。
あれはまさか、授雷砲や聖なる光線みたいなやつじゃないのか!?
「おいおいおい! マザーの奴、殺す気はないとか言っておいて、やる気満々じゃないか!」
どうするべきかは分からなかったが、いてもたってもいられずに俺は走り出した。
しかし、次の瞬間。ドーム全体を強烈な光が埋め尽くし、視界が完全に塞がれた。
「うわっ! つ――っ! くそ、どうなった?」
少し目がちかちかするが、何とか手で覆うのが間に合ったので視界は問題ない。
そして、手を除けた俺はそれを見た。
「お、おぉ、これって……フィアがやったんだよな?」
目の前には一面氷の銀世界……いや、蒼世界というべきか? 蒼氷で覆われた光景が広がっていた。
マザーによって放たれた光線は捻じ曲げられたのか一部溶けたような氷の跡と、壁に空いた大きな穴。金属の壁はどうも溶けているようでその熱量が凄まじいものであったことが窺える。
二十機の機動侍衛は蒼氷の中で完全に動きを停止しており、空中に浮かんでいたマザーも頭から下が完全に蒼氷に覆われていた。
仮想空間で黒化したフィアと訓練はしていたが、基本的な技の練習くらいしかしていなかったから大技を見るのは初めてだ。まさかここまで強力になっていたとは。
うーんこの冷たさ、いつものクリスタル・プリズンの比じゃないな……。
部屋全体がとんでもなく冷えている。まるで南極にでも来たみたいだ。
行ったことないけど。
……そうだ、こんなことをしている場合じゃない。フィアは無事なのか?
俺は氷漬けになっている巨大な金属板に向かって走り出した。
「フィア! おい、フィア! 無事なのか!?」
叫びながら近付いていくと氷の坂を上って来たらしく、四方を囲んでいた金属板の上部からフィアが顔を出した。
「ぶ、無事よ。でも、め、滅茶苦茶寒いわ」
ガタガタと震えるフィアの目は元の色に戻っていて黒い霧も出ていない。
どうやら問題なく黒化状態も解除出来たみたいだな。とりあえず一安心だ。
それにしても、本当に寒いな。息もすっかり白くなってるし、まぁ周りが広く凍り付いてるんだから当たり前ではあるんだけど。
「そうだな。普段フィアが出してる氷と比べると各段に冷気が強い気がする。黒化すると炎も赤から青色になってたけど、氷も青さが増してる気がするよな。それが理由か?」
俺が質問するとフィアは赤色の炎を出して自身を温めながら思案した。
「うーん、どうかしらね。私は青くなったから効果が増したって言われるよりは、効果が増したから色が変わったって言われた方がしっくりくるけど」
「なるほど、そう言われるとそんな感じがするな」
「そんなことより、雷人の言う通り黒化中の冷気は一段と強くなってるわ。表面だけ凍らせてた今までと違って、中までしっかり凍るくらいにね。これで流石にマザーも認めざるを得ないはずよ!」
そう言ってフィアは凍り付いているマザーの方を振り向いた。
俺も釣られてマザーに視線を向けると顔だけが出ている状態のマザーが口を開いた。
「驚嘆、お見事です。私の体は完全に凍り付きました。これだけの出力があれば大抵の相手は無力化出来るでしょう」
「そうでしょう? これであなたの試練も合格よね。それじゃあ、大人しくカミン達の出星を許可して貰おうかしら」
機人族故なのだろうか? マザーはこんな状況になってもほとんど表情を変えず、まるで余裕のあるような表情を……。
いや待て、マザーは話をしていた時は人と変わらないと思う程度には感情を表に出していたじゃないか。だとすれば、この余裕は本当に……。
「落胆、しかし残念です。人というのは相手を倒したと思った瞬間に最も大きな隙が出来ます。完全に安全が確保出来るまでは油断してはいけないのです」
「ん? あなた何を言って……」
「しまった! フィア!」
「え? きゃあ!?」
次の瞬間、蒼氷の氷塊に大きな亀裂が走った。
足元が崩れ、足を踏み外しそうになるフィアを引っ張り上げて退避すると、氷を押し退けるようにしてそれは現れた。
「マジか……何だよそれは」
「教示、手負いの獣、切り札はここぞという時に切るもの。言い回しは何でもいいですが……要するに追い詰めたと思ったその時が最も危ないのです。我が子を守れると豪語するのなら、全てに備え、万難を排する気概で挑みなさい」
「なるほどね。まだ切り札を残してたってわけ。……雷人、どうしよう。私さっきの黒化でほとんど力を使い果たしちゃったんだけど」
「だよなぁ。とりあえず……逃げるか」
「外部兵装接続、機動要塞、起動します」
体高三十メートルくらいはありそうな巨大な機体。多数の砲門を備え、二本の巨大なアームと無数のサブアームなどなど。
そんな要塞と言っても過言ではないそれは、中心にマザーを据えて動き出したのだった。
やはりロボットの親玉なら、巨大なロボットを切り札にして欲しいですよね!
まだ終わらない、まだ終われない。最後はやっぱりあれですよね!




