7-44 VS マザー2
「頑張って壊したのにあっさり元通りね。私達みたいにどこかから武器を出す仕組みがあるみたい。でも、こっちも武器の替えは十分にあるのよね!」
「感嘆、実に興味深いですね。外の人間から情報収集は常に行っていますが、外にも異空間に武器を収納する技術がある事は知りませんでした。ですが、その程度は私にとっては驚くべき技術ではありません。そろそろ次の段階です」
「次の段階? まるで俺達に合わせて調整してるみたいな言い方だな」
「……いや、雷人。多分そういうことなんじゃないかしら」
「肯定、これは審議です。あなた方に私の求める力が、意志があるのかを確認する戦いです。……まだ私を殺す気にはなってはいないみたいですが、その余裕はいつまで続きますかね?」
「殺す気って、本当に本気を出したら寸止めとか器用な真似は出来ないぞ。本当にぶっ壊しちまう可能性もある。……マザーには守るべきものがたくさんあるだろ。なのにいいのかよ?」
「肯定、あなた達がどれほど強くてもこの戦いで私の存在を消す事は不可能です。故にそのような心配は無用です。言い訳など探さずに全力で来なさい。……それとも、我が子を守る時もそんな戯言を吐くつもりなのですか? であれば私は認めることは出来ません。いっそこの場で……」
可愛らしい顔をしているのに目が怖い。殺気、これは殺気か?
どうやら四の五の言っている余裕はなさそうだな。随分と自信があるみたいだし、もう初めてというわけでもない。
俺にとって大事なものは既に決まっている。だから、覚悟を決めろ!
「……分かった。そこまで言うのなら……殺す気で行くぞ」
「うん、そうね。好きに動いて、合わせるわ」
「ふふ、それでいいのです。では」
俺が全力で地面を蹴るのとマザーが突進してくるのは同時だった。
いつの間にかブースターらしきものが体から生えていて、動きが急加速する。
だが、やっていることは俺と同じだ。雷輪で動きの速度を上げる。
イメージ、イメージだ。カナムを流せ、薄く、薄くだ。膜を張るように流動させろ。属性刀はウルガスさんの傑作だ。ちゃんと使えれば負ける道理はない!
「おおおおおおおおおぉ!」
まるでナイフでも振るうかのように巨大包丁を振り回すマザーと切り結ぶ。
いいぞ、集中出来てる。カナムを薄く流動させる事で切れ味は増し、耐久性も上がる。そしてノインさん仕込みの制御、角度、ここだ!
「はあっ!」
「っ!? これも切りますか!」
片方の巨大包丁の刀身を両断、マザーの顔に驚愕が浮かぶ。
隙間を埋めるように機動侍衛がビームを放つが間に氷塊が現れその光を散らした。
「プリズムジャム。そして、もらったわ! アクセル・ブースト! バーン・インフェルノ!」
フィアが足裏から炎を噴出し、その勢いでマザーに急速接近する。
そして、至近距離からの属性刀で増幅したバーン・インフェルノが放たれた。
エページュ様の話を聞いてフィアも使い始めたのか。今まで使ってるの見た事ないし、やっぱりフィアも知らなかったんだな。ウルガスさんめ、仕様はしっかりと教えておいて欲しいものだ。
しかし、強化された炎は威力も範囲もいつもの比じゃないな。
これは巨大包丁では防げない、間違いなく機動侍衛で防ぐはずだ。
なら、ここは俺が決めるところだろ!
「ここだ、紫電一閃!」
案の定マザーは機動侍衛を全て使ったビーム盾で吹き荒れる炎を防いだ。
巨大包丁では紫電一閃は防げない、決まる。そう確信した瞬間、マザーが笑った。
……? 何だ?
まさか、何かを見落とし……っ!?
「かはっ!」
マザー目掛けて放った横一閃、マザーはそれに対して身を低くしながら下から叩き上げて軌道をずらし、刀の勢いに引っ張られて体勢が崩れた俺の腹へ目掛けて拳を叩き込んだ。
カウンターとなったその一撃は非常に重く、内臓が破裂するかと思うほどの激痛に意識が飛びかける。そして、耳元で声が聞こえた。
「勧告、このまま吹っ飛ばします。受け身をとらなければ死にますよ?」
「ぐあっ!? あ、がっあ!?」
再び腹に衝撃、恐らく吹っ飛ばされたために全身に強風が感じられた。
少しでも抗おうと翼を展開して減速するが、間もなく背中に強烈な衝撃が走った。
「……っあ、つぁ、はぁ、はぁ、くそ……」
視界がぼやける……油断していた。
紫電一閃の速さには自信があったんだけどな。ここまで的確に対応出来るのか。……そういえばガントレットを着けていたものな。肉弾戦も選択肢のうちか。
それに、さっき吹っ飛ばされた時に腹に走った衝撃。あれは間違いなく殴られたのとは別のものだろう。
多分、ガントレットに空いていたあの穴。あそこから空気か何かを射出したのだと思う。弾丸だったら腹に穴でも空いているだろうしな。
壁に叩きつけられていたらしく、壁にもたれて座っているような体勢だった。
さっさと起き上がらないとと思うが、足が上手く動いてくれない。
どうしたものかと思っているとフィアから通信が入った。
「雷人! 無事!?」
「何とかな……でも……すぐには動けそうにない」
「そう、分かったわ。生きててよかった。とりあえず私がマザーの相手をするから、しばらく休んでて」
「マザーは……速いぞ。大丈夫か?」
「……そうね。だからあれを使うわ」
あれって、まず間違いなく黒き力のことだよな?
確かに仮想訓練では少量であれば制御できるようになっていたが……。
「……実際に使うのは初めてだろ。大丈夫なのか」
「この状況で四の五の言ってられないでしょ。使えるものは何でも使わなきゃ」
少し不安が混じったように震える吐息、その緊張感が伝わって来る。
確かに、マザーは俺の速さにも対応出来るしまだまだ余裕がありそうだった。
多少の無茶でも通さなきゃマザーに認めさせることなんて出来ないか。
「……そうだな。もし暴走したらまた俺が止めてやるから安心してやってくれ。しばらく任せた」
「ふふ、頼もしいわね。それじゃあ、大船に乗ったつもりでゆっくり休んでなさい」
「確認、相談は終わりましたか?」
マザーはもう巨大な武器も持っていないのに、その小さな体に似合わない威圧感を放っていた。
身に着けた武器はガントレットのみ。そして、周囲を飛びまわる六機の機動侍衛。余裕に満ちたその佇まいに、しかし隙は微塵も見当たらない。
そんな強者の風格を前に、フィアは不安を吹き飛ばすように笑みを浮かべながら一歩を踏み出した。
「えぇ、もう大丈夫よ。ここからは私の本気を見せてあげるわ」
一瞬の油断が決定的なミスとなる。
そして、遂にネグロマイトを使っての初めての実戦です。
何だかんだでフィアはやられ役な事が多かったですからねぇ。
ようやくフィアも本格始動です!
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!
作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!




