表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
マキナウォルンデイズ 第七章~マキリスエスケープ~
428/445

7-40 イルミの過去

「確認……私の近衛(このえ)と言われている八重桜(やえざくら)の事は知っていますね?」


「あぁ、外で守ってた和服の剣士の子とかだろ?」


「和服……恐らくそうです。彼女達八重桜(やえざくら)はかつて私の制止(せいし)を振り切り外へと出て行った者達です。借問(しゃもん)、この意味が分かりますか?」


「えっと? えー、あー、えーと?」


 咄嗟(とっさ)に回答が出せずにしどろもどろしているとカミンさんが代わりに答えた。


「恐らく、外に出て行ったものは全員帰って来ていると言いたいのだろう。そうでしょう?」


「あ、あぁ、なるほど。なるほどね」


「……肯定、彼女達はその全てが外へと出て行き、人族に裏切られ、心に傷を()って帰って来た者達です。例示(れいじ)、先程まで私が模倣(もほう)していたイルミもその一人です。今では過去を()て、八重桜(やえざくら)のククリとして私を手伝ってくれています」


「イルミが八重桜(やえざくら)? という事はまさか……外で寝てたのって」


 このドームに入る前、板のようなものの上に伏せていた少女の姿が思い浮かんだ。

 あれ、姉妹機(しまいき)とかじゃなくて本人だったのか。


「あ、そういえばイルミとよく似た特徴の機人族(マキリス)が倒れてたわね」


「あれがイルミ本人だと? 随分(ずいぶん)と印象が違いますが」


「肯定、ククリにはボタンと一緒に外の警備をお願いしていました。……元々は快活(かいかつ)で周囲に元気を振りまくマキリスアイドルだったのです。ですがある日、『イルミの(きら)めきをマキナウォルンで終わらせるのは()しいでしょ』などと言ってここから出て行きました。害悪、マキナウォルンにやって来た星間商人に(そそのか)されたのです」


 話しているマザーの表情は特に変わっていないはずなのに段々と険悪(けんあく)な雰囲気が()れ出て来ているように感じる……。


 あー、怒ってるんだろうなー。怒ってるんだろうなー。


「イルミは当時アイドル全盛だった星で機人族(マキリス)のアイドルとして売り出されました。希少、基本的に私が許可をしていませんので、外では機人族(マキリス)は非常に珍しい存在です。その星間商人はその希少性(きしょうせい)から(かせ)げると思い()んでいたらしく、盛大に宣伝(せんでん)を行いイルミはそれに(こた)えられるように頑張りました。頑張ったのです」


 何か段々(だんだん)とマザーの(ひとみ)に涙が溜まって来た。声も少し涙ぐんできている。まるで自分の事の様に……いや、そうか。ネットワーク経由で情報を知っているマザーには実際に自分の事のように感じられるのか。


 それ(ゆえ)にその努力のほども苦しさも、分かってしまうのだろう。

 だからこそ……。


機人族(マキリス)希少(きしょう)でしたが希少(きしょう)過ぎたのです。外観は精巧(せいこう)で、触れた感触も実物と遜色(そんしょく)ありません。イルミの外見では猫人族(ケットシー)の少女と見分けがつきませんでした」


 何となく展望は分かって来た。

 話が進むほどにマザーの手に力が(こも)っていくのを感じる。


「悲劇、すぐに見物客たちは詐欺(さぎ)だと言ってイルミを(たた)きました。機人族(マキリス)だと信じた者の中にも機械が人真似をしているなど気持ち悪いと言う者もいましたし、イルミの周りは敵だらけでした。それでも、イルミは(いだ)いた夢のために頑張り続けていました」


「ですが、アイドル全盛の時代、名前に傷のついたアイドルにファンなどつかず、唯一信じていた星間商人は借金をしていたらしく全てを捨てて逃げました。アイドルとして前面に出ていたイルミは顔が割れていましたから、逃げた商人の代わりに借金取りに追われました。味方のいない外の星で、安心出来る場所もなく。逃げて逃げて逃げて、ようやくマキナウォルンに帰って来た時にはイルミの心は擦り切れていたのです」


 その時の事を思い出しているのか、マザーの(ひとみ)から涙が流れた。

 なるほど、確かにそれは辛い経験だ。それを実際に自分の事かの様に感じられるのだから、その想いも相当なものだろう。


 恐らく、他の八重桜(やえざくら)も似たような経験をしたのだろう。

 なるほど、これがマザーが人族を嫌っている理由か。根深いな。


「今でこそイルミはククリに名前を変えて八重桜(やえざくら)として活動していますが、それでもかつてのような明るさは取り戻せていないのです。今のククリは活力を完全に失ってしまい。(すき)あれば寝ているような子になってしまいました。私としてはそれでもいいのですが、そんなククリを見ていると、私はひどく悲しくなるのです」


「マザー、話は分かった。確かに世に機人族(マキリス)が出る事は危険な事なんだと思うよ」


安堵(あんど)、分かって頂けましたか」


「……いや、それでも肝心(かんじん)なのはやっぱり裏切(うらぎ)られる事じゃなくて、あくまで味方になってあげられる存在がいなかったことだと俺は思う。さっきの話でも商人に裏切られても誰か助けられる存在がいれば、借金取りに追われてもそこまでひどいことにはならなかったはずだ」


「……呆然(ぼうぜん)、話を聞いていなかったのですか? 絶対に味方になるような存在などいるはずがないと言っているのです。例えどんなに信頼のおける相手でも、いつ裏切るか分からない。そう言っているのですよ」


 ……なぜここまで信じられないと(かたく)ななのだろうか? 何か違和感があるんだよな。ただ子供が心配だから、それだけでは言い表せないような……。


「……もしかして、そんなに(かたく)ななのは絶対的に信頼していた相手に裏切られた経験があるとか、そういう事なの……か? うえっ!?」


 俺がそう言った瞬間、マザーの表情が消えた。無表情のまま涙を流し続けているその(さま)は正直(こわ)いとしか言いようがなかったが、何か核心(かくしん)に触れた。そんな確信を俺に与えた。


「ちょ、ちょっと雷人! 流石に踏み込み過ぎよ! 誰だって言いたくないことはあるんだから!」


「そうだな。確かにそうなんだが、多分ここが重要な所だと思う。だから、()けては通れないだろ」


「あぁ、そうだな。マザー、(つら)いことを思い出させることになり、申し訳ございません。ですが、どうか聞かせては頂けませんか? あなたが人族を嫌っている根底(こんてい)の理由を」


 俺の言葉では拒絶(きょぜつ)の雰囲気を強めていたマザーもカミンさんが改めて尋ねると涙を(ぬぐ)い、口を引き結んで答えた。


了承(りょうしょう)仕方(しかた)がありません。聞かなければ納得が出来ないというのであれば話してあげましょう。子供達ではなく、私自身の過去を」

心の闇は深く、全ては過去に囚われたまま。

未来を見る事は叶わず、真っ暗な道に一歩を踏み出すのは勇気のいる事です。

その選択が、決断が正しいのかどうかなんて誰にも分かりませんから、

現状維持が一番楽ではあるんですよねぇ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ