7-38 つかの間のお茶会1
なるほど、今の姿も声も話し方もそれは間違いなくカミンさんと同じだった。
子供達の完璧な模倣が可能……か。いや、待てよ?
「あんたがマザーだっていうのは信じるよ。それで……俺達にずっと付いて来ていたのなら目的は分かっているんだよな? それに、思考パターンも模倣可能って、それならカミンさんの考えも自分の事のように分かるんじゃないのか?」
「……否定。カミンは例の人族と接触後ネットワークと同期していません。私の取得出来る情報では判断出来ません。補足、子供の思考パターンと私の判断は同一ではありません。決定は総合的に行います」
「なるほど、つまり私の考えが理解出来たとしても下す判断はマザーの思考による、私の意志を理解する事とマザーがどう判断するかは別物という事ですね。であれば、まずは考えの共有をさせて頂きたい。いかがでしょうか?」
「了承、話し合いですね。望むところです」
どうやらマザーは問答無用で俺達を鎮圧するという気はなさそうだな。
まぁ、それはそうか。イルミがマザーだったなら俺達を捕まえるタイミングなんて幾らでもあったはずだからな。
マザーの目的は分からないが、交渉に乗り気なのだから穏便に解決したいと考えているのだろう。これなら可能性はあるはずだ。
「立ったままというのも何ですから、まずは座りましょう」
マザーがそう言うとドームの中央に円形のテーブルが出現した。マザーに案内されて椅子に座ると漫画でしか見た事のないようなアルカディア式アフタヌーンティーセットのようなものが出て来た。
機人族の星でなぜこのような物がと思ったが、そういえば気にしてなかったが昨日の宴では機人族達も食事をしていたような気がする。
「完備、人族はこういうものがあるとリラックス出来るのでしょう? 観光客や来賓の人族に振る舞うためにもこういったものは取り揃えています」
「お気遣いに感謝するわ。それじゃあ頂こうかしら」
「そうだな。ありがたく貰おう。マザーも食べられるんだよな?」
「肯定、機人族は人族と違い食事をする必要はありません。ですが、人族の五感と同等の機能は備わっています。この紅茶、とてもよい香りのする茶葉を使用しているのですよ。温度管理も完璧です」
「わっ、本当だ。おいしいわねこれ」
「喜悦、そうでしょう。ここぞという時のためのとっておきですから」
……何で楽しくお茶会してるみたいになってるんだろう? 俺には紅茶の良さはあまり分からないが、確かに良い香りのするお茶でリッチな感じがする。
これがただのお茶会であったなら何も考えずに楽しみたいところではあるが、今はマザーの説得に来てるんだよなぁ。外ではフォレオやシルフェが戦っているはずだし、あまりのんびりしているわけにも……。
いや、でもマザーも楽しそうにしているし良い印象を持ってもらえれば説得もしやすくなるのだろうか? うーん。
そんな事を考えていると同様に考えていたのか、カミンさんが切り出した。
「マザー、そろそろ本題に入っても宜しいでしょうか?」
「了承、構いませんよ」
「ありがとうございます。それでは早速ですが、ご存じの通り私は人族の女性、フレイルを妻として共に生きていきたいと考えています。しかし、ここマキナウォルンは人族が生きていくには厳しい環境です。現にフレイルは病にかかり、私にはフレイルを助ける手立てがありません。フレイルを助けるためにはすぐにでも外の人族の手を借りる必要があります」
そこまで言うとカミンさんは席を立ち、跪くとマザーに頭を下げた。
「この星を出たらもう戻らない覚悟です。マザーのネットワークにも同期しないことを誓います。故に、マザーが懸念しているであろう、私を介して人族の影響を受ける事はございません。ですからどうか、出星の許可を頂けないでしょうか?」
……カミンさんは提案と共に自身の要望を伝えた。だが、マザーはイルミだったのだからこの話はもう知っていたはずだ。すんなり了承するつもりならわざわざここまで招き入れたりしないだろう。
……マザー、一体何を考えているんだ?
そして、マザーは特に表情を変える事もなく答えた。
「却下、そのような事は認められません」
そうなって欲しくはなかったが、俺の予想通りマザーは無情にもカミンさんの提案を拒絶したのであった。
当然ですがすんなりいくという事はありません!
エンタメ上あり得ないというのもまぁありますが、大切なものは手元にないと安心できないですよねぇ。




