7-35 八重桜
その女性は和服剣士といった出で立ちで、腰に二本の刀を差していた。下はミニスカートを穿いているらしく生足がすらっと出ていて非常に軽装に見えるが、要所要所には金属の鎧のようなものが体に沿うように浮いていて防御面でもそれなりにしっかりとしていそうだ。
鎧以外にも周囲に三丁の銃が浮かんでいる。見た目からして二つはアサルトライフル、一つは拳銃みたいだな。二丁のアサルトライフルのうち、片方は実弾、片方は光学弾でも出そうな見た目に見えるが……決めつけは良くないか。
何にしても、銃による中距離と刀による近距離のどちらも対応出来る戦闘スタイルと見て間違いないよな。今はこっちを見ているだけで動く気配がないけど、恐らく近付けば攻撃してくるはずだ。
しかし、他には誰の姿も見えないな。本当にここにマザーがいるのだろうか?
あ、外を守っているのが一人なだけでドームの中にはうじゃうじゃいるのかもしれないな。いや、きっとそうだろう……ん? あれ、よく見たらあの機人族の少し横、誰か倒れてる?
板みたいなものの上に誰かが突っ伏しているな。服装は門番の機人族と一緒で和服にミニスカート、軽装鎧っぽいのが浮いてるように見えるからあれも八重桜の一人なのだろうか? 何で倒れてるんだ? 寝てるのか?
ほとんど頭くらいしか見えないが、ぱっと見イルミと同じような特徴みたいだな。
猫耳みたいなのと尻尾が見えるし、カラーリングも黄色系統にピンクが差し色って感じだ。
これまで見た機人族には色んなタイプがいたけど、やっぱり同型機とかいるんだろうか? 姉妹機とかいてもおかしくなさそうだよな。
「イルミ、仁王立ちの一人以外にイルミに似た特徴の機人族がいるみたいだけど、姉妹だったりするか?」
「やー、そりゃ姉妹だよぉ。機人族は皆マザーの子供なんだから、仁王立ちの方だって姉妹だもんね!」
「いや、そういう事じゃなくて。このまま進んだら戦う事になりそうだけど大丈夫かって事だ」
「問題ないない。イルミちゃんの邪魔をするなら容赦はしないよー! 眠ってもらうだけだからねー!」
「すでに眠っているように見えますが……まぁいいでしょう。時間を掛けると外の連中が追い付いてくるかもしれません。ここはジャミングが掛かってるみたいですから、ハカス達のサポートは期待出来ないでしょうし、迅速に進めましょうか」
「うわっ、本当ね。通信機器は使えないみたい。えっと、外には二人しかいないみたいだけど、中にはマザーとそれを守る他の八重桜とかがたくさんいるかもしれないのよね?」
「どうだろうな。八重桜は名前の通り八人だけだ。服装の特徴からして恐らくあの二人は八重桜だろうが、他の塔にダミーとして送っていると考えるといても一人か二人だろう」
「やー! 目標は目の前なんだから、面倒な事は置いといてさっさと行こーう! マザーに会えればいいんだから、一気に突破しかないよねー!」
「そうですね。それがいいでしょう。シルフェ、ここはうちとあなたで押さえますよ。残りのメンバーで中に侵入して下さい」
「うん分かった! やるよー!」
「……やる気を出してくれている所に悪いが、一対一で本当に大丈夫か? 八重桜は戦闘モデルだ。私やイルミとはわけが違うぞ」
「カミン。この作戦を始めた以上成功させる以外の道はありません。失敗すれば協力してくれた反抗者もどうなるか分かりませんし、危険だと思うのならカミン、あなたがさっさとマザーを説得して下さい。それまではもたせてみせますよ」
「ほう、それは随分と自信があるようだな」
「……っ!?」
声と共にいつの間にか俺達の中心に刀使いの機人族が現れた。
くそっ、ドームから離れないわけじゃなかったか。
腰を落とした機人族の一振りをフォレオはギリギリのところで薙刀で弾いた。
「走って下さい!」
フォレオが叫びながら拳銃を連射。それをスイスイと避けて距離をとりながら機人族はアサルトライフルを連射した。
「クリスタルプリズン!」
「ちっ! 行かせるか!」
フィアが生み出した氷塊が銃弾を防ぎながら機人族を飲み込もうとするが、それをバックステップを繰り返して躱すと俺達に向かって突っ込んで来た。
「走って!」
フィアの掛け声で俺達は全力で走りだした。戦闘モデルと言うだけあって動きが速い、このままでは俺達はともかくカミンさん達は追い付かれる。だが、俺達は振り返らずに走る。
「見もせずに躱せるつもりか? 嘗められたものだな」
サーチで後ろから襲い掛かって来るのが分かる。
さらにスピードが上がった。間違いなく追い付かれるな。だが……。
「いや、それ以前だ。躱す必要もないんだよ」
「戯言を、マザーを狙う反抗者。その首、貰い受ける!」
雷人の首目掛けて振り下ろされる一刀。しかし、その一振りは皮一枚も切れずに止まった。
「なっ、これは……糸か!? うぐっ!?」
そして、体勢を立て直す間もなく機人族は側面からの銃撃を受けて吹っ飛んだ。
その隙に俺達はドームに辿り着いた。
殿のつもりで最後尾を走っていたが、どうやら俺が付くまでの数秒でイルミが扉のロックを解除していたようだ。
マザーがいるっているのに案外セキュリティは薄いのか? それとも機人族だとこれくらいのハッキングスキルは普通なのだろうか?
何にしてもようやく辿り着いた。
ここからが正念場だな。
「やー! 皆、準備はいーい? それじゃあ、いっくよー!」
「おうっ!」
俺とフィア、カミンさんはイルミに続いてドームの中へと入って行ったのだった。
八重桜の襲撃を振り切ってドームへと侵入! 遂にマザーと対面ですね!
……ん? 色々と不自然でしたか?
確かに怪しいところが色々と……ではでは、ここからどんな展開になるのか予想してみましょうかぁ!
もし当たればあなたは作者と似た思考の持ち主ですねぇ! ナカーマ!




