7-31 移動だけで戦力の大半が駄目になったんだが……どうすんのこれ
飛んでいた車体の側面から何やら翼のようなものが出て来た。
一応飛ぶことが出来るようで一安心したのもつかの間、少しテンションが上がったらしいシルフェが不穏な事を口にした。
「おー! カッコいいねー! ねぇねぇ、この翼の後ろに付いてるそれは何なの?」
ん? 翼の後ろに付いてる? ……ちょっと待て? 待て待て待て!?
「あぁ、それは今から使うものだ。強い衝撃が来るから備えてくれ」
「やっはー! ロマン第二段! いっくよぉーー!!」
「衝撃? ロマン? な、何か嫌な予感がするのです」
「あ、あはは、奇遇ね。私もそんな予感がするわ」
「わくわく、わくわく」
「よし、それじゃいくぞ。起動!」
「ちょっ、待っ!? まあああああああああああああああ!?」
「わあああああああああああああああああぁ!?」
翼の後ろに付いていたジェットエンジンらしき物が炎を噴き出し、スピードが一気に上がった。ぐおおおおお、力が掛かるぅ! って待て待て待て! 正面に高層ビルが見えるんだが!?
「前! 前!」
「分かっている。私の操縦は完璧だ。ふっ」
「やー! いけいけー!」
「ぐぎぎ!」
車体……いや、機体と言った方が良いのか? それが姿勢を九十度変えて下からジェットを噴出したらしく一気に進路が変わる。
イルミとカミンさんは平気なようだが俺達はもはや叫ぶことも出来ずにただただ機体にしがみ付いていた。
「よし、そろそろ着陸に移行する。減速機構、展開!」
「やー! ロマン第三段! 来るよ来るよ来るよー!」
「ろ、ロマン……ロマン!?」
「いや、もう降ろしてぇ!」
「あは、あはははははは!」
「おい! 壊れるな! 気をしっかり持てっ……えええええええぇ!」
イルミのロマンという言葉に恐怖する女性陣。初対面の時を彷彿とさせるやばめな笑い方をするシルフェに声を掛けながら俺は魔法陣のような見た目の何かが前方に複数展開されたのを見た。
そして、機体がそれを通り抜けるたびに段階的に減速され、それに応じた負荷が襲い掛かって来た。翼が仕舞われ、車が地面を走り出した頃には俺達は全員ぐったりとしていた。
「も……もうだめぇ」
「こ、ここまでとは……聞いていないのですぅ」
「うへぇ、もうむりぃ」
「……おい、移動だけで戦力の大半が駄目になったんだが……どうすんのこれ」
「なんと、人族は高速で移動すると憔悴してしまうのだな。まいったな……人族への知見のなさがこうも響くとは、しかし休む暇はなさそうだ。今更止まれないぞ!」
カミンさんがそう言うと走っていた車体が大きく揺れ、近くで何やら爆発が起こった。
疲れ切った体に鞭を打って視線を上げると、何やらドローンの様に空を飛ぶロボットがミサイルを撃ちながら追いかけて来ていた。
「も、もう襲撃がバレたのか? 確かに派手だったとは思うが対応が早過ぎないか?」
「いや、あれはただの警備ロボだ。予定にない車が走っているから止めに来ただけで、通常対応の範囲内だよ」
「通常対応でミサイルブッパするの!? マキナウォルン物騒だな!?」
「やー、これは迎撃しないとヤバそうだねぇ。ほらほら皆、これ飲んで飲んでー、すぐに元気になるよぉー」
そう言ってイルミが何かの液体をぐったりしていた俺達に無理やり飲ませてきた。
な、何かラムネみたいな味の飲み物だな……って、ん? 本当に体が楽になってきた?
「あれ? 何か気持ち悪いのが治まってきたわね」
「何ですかこれ!? こんなすぐに体調がよくなるとか! 一体何を飲ませたんですか!?」
「うおー! 元気になった! 即効性抜群だねぇ。凄い!」
「え、マジで何を飲ませたの?」
「やー、星間商人からこっそり買ったものでねー。即効性の万能薬だって話だよ? 特に人体に悪いものじゃないらしいけど、次の日は二日酔い? みたいになるらしいから気を付けてね!」
「な、何ですかその明らかに危なそうな飲み物……」
「気を付けろって、何に気を付けるんだよ。飲ませられた時点でもう遅いだろっ!?」
イルミに文句を言っていたらまた近くで爆発が起きて熱波に襲われる。
そうだ、今は追われている真っ最中だったな。
「わわわ、言い争いをしてる場合じゃなさそうだよ!」
「……そうね。とりあえず今日大丈夫なら後はミューカスに何とかしてもらえばいいわ。まずは作戦を成功させるわよ!」
何で機人族なのにそんな薬を買ってたんだとか、こうなるの分かってたんだろとか、いろいろ聞きたい事はあるがフィアの言う通りだな。
「あぁ、やるぞ!」
そして、俺達は各々に武器を構えたのだった。
ロマン、やっぱりロマンですよねぇ!
……えっ、こんなのはロマンじゃないですか? そうですかぁ。
でも楽しければOKです!




