7-26 機人族
全力ダッシュの結果、先にスタートしていたこともあり一番に辿り着いたのはイルミだった。俺達が追い付けないなんて随分と足が速いな。
「いっちばーん! やっはー! ただいまー!」
「くそ、追い付けなかった……って、思ったよりもちゃんとしてるな」
ジャンクパーツの山を越えた先は大きな縦穴の空間となっていて、下の方は周りの風景に反してSFチックな金属で綺麗に整地されていた。
寂れたコンクリートジャングルの中にこんな場所があるのは些か違和感があるな。
しかも、そんな場所に全長五十メートルはありそうな巨大な飛空艇が格納されていた。
ここに来るまでにイルミから作戦についてちらっと聞いたのだが、そこに登場していた物だ。想像はしていたが改めて見るとデカいな。
「へー、あれがイルミの言ってた飛空艇ね。確かに大きいわね」
「でも、大きいという事はそれだけ的がデカいという事なのですよ。本当に落とされずに飛ばせるのです?」
「そこら辺は任せてくれて大丈夫だよー! イルミのファン達がしっかりやるからねー」
「おー、それであそこで手を振ってるのがファンの人達かな?」
シルフェの指さす方を見ると確かに三人の機人族がこっちに手を振っていた。機人族……だよな? やけにでっかいのとちっさいのがいるぞ?
「あの三人は機人族でいいのか?」
「そーだよー。なんか変な所でもあった?」
「いや、イルミやカミンさんと明らかに違うのが二人いるみたいだからちょっとな」
「見た目の話をしているのなら、この距離で機人族とロボットを見分けるのは難しいだろうな。私達は感覚的に分かるが、君達にはそうはいかないだろう」
「カミン、追い付いてきたんですね」
「あぁ、それとフレイルが目を覚ました。フレイル、この人達が私達を助けてくれているエページュの使いだ」
カミンさんが促すと背負われていたフレイルさんがひょこっと顔を覗かせた。
さっきまでは抱えられていたので、目が覚めて恥ずかしかったから運び方を変えてもらったのだろうか? なんとなく想像できるな。
「初めまして~、カミンの妻のフレイルと申します~。この度は私のために来て頂いたとか、感謝の言葉もありません~」
なんか喋るとかなりふわっとした人だな。
まだ体調は悪そうだが、すぐにどうこうはなりそうにない。一先ずは安心か。
「あぁ、俺達はSSCの隊員だ。エページュ様を通してカミンさんから救助要請を受け取って助けに来た。よろしくな」
「ほらほら、立ち話してないで早く行くよー。イルミのファン達が待ってるんだからー!」
「わっとと。はいはい、分かったから押すなよ」
ぐいぐいと背中を押されるので進んでいくと、エレベーターのような物だろうか? 俺達全員が乗っても余裕がありそうな大きな円盤が上がって来たのでそれに乗って下に降りる。
その間にカミンが機人族について話してくれた。
「機人族とロボットの違いはマザーに作られたか、機人族に作られたかの違いだということは知っているな? 我々とロボットではやはり出来が全然違うんだが、見て分かる部分は細かな違いだからな。素人ではよく観察しなければ判断は難しいだろう」
「そうだよなぁ。……因みにマザーが作ると何が違うんだ?」
「性能は勿論だが、大きな違いとしては機人族はマザーネットワークに繋がっているということだな。それと、何より大きいのが人格を持っているという点だ」
「人格……ロボットのそれとは違うって事か?」
「あぁ、そうだ。実は私はロボットを作る技師でな。君達に会った時に戦ったロボットがいただろう。あれは私が作った物なんだ」
「え、えっと、それは何というか……悪かったな」
「あぁ、すまない。気を遣わせたかったわけではないんだ。あれは役割を果たしてくれたし、君達も役割を果たそうとしただけだからな。……私はこれまでロボットを作る事に尽くしてきたが、私が作り出せる人工知能はマザーのそれに遠く及ばなかった。私に出来るのは学習し、柔軟に対応出来るようになるプログラムに過ぎないが、マザーの作るそれは別格だ」
「そうなのか? 俺には違いがよく分からないな」
「では聞くが、私やイルミと話していて人と話す時との違いを感じるか? 」
「え、いや……特には感じないけど」
「私もだ。君達と機人族の間に、その人格と言える部分の違いは感じない。私はその差とは、感情を再現出来ているかどうかだと考えている。我々機人族の作るロボットは今の所感情の再現には成功していない。故に、損得での判断や機械的な対応は出来ても、非合理的な判断は出来ない。だが、機人族はそれを超えた判断を可能としている」
「なるほどね。だからあなたやイルミみたいなのが出て来ているってわけね」
カミンさんの説明を聞いてフィアが頷いた。
それを見てカミンさんは遥か上にある天井を見上げた。
「……あぁ、そうだな。感情があって合理的でない判断が出来てしまうが故に我々のような反抗者が存在している。感情を優先するが故に、どれだけ可能性が低くとも事を為そうとしてしまう」
それを聞いてカミンさんの背中に背負われているフレイルさんが身を縮める。
想い人が自分のために危険に身を晒そうとしているのだ。その気持ちは想像に難くない。
「……カミン~。やっぱり私の事は良いですから、危険な事は~」
「フレイル。確かにマザーに逆らう事は危険な事だ。だが、私はそれでいいと思っているんだよ。フレイルを想うこの気持ち、それを私は好ましく思っているのだから」
「カミン~……」
「そうね。分かるわ」
「あぁ、そうだな。大いに同意だ」
流れる甘い空気に俺とフィアは深く首肯した。
危険だと分かっていても想い人のために動かずにはいられない。あぁ、確かに機人族は人間だとも。
「ささ、惚気話はそのくらいで! そろそろ下に着くよ!」
イルミが割って入って来ると同時、俺達を乗せた円盤が一気に減速して下腹部に浮遊感を覚えたのだった。
ロボットと人との違いは正直難しいものですよね。
皆様は少し前にやっていたアニメ「ATRI」は見られましたか?
ポンコツ可愛いアンドロイドの話で非常に良い作品なのですが、こちらでも同様の問題を扱ってました。
メモを見つけた後の展開はかなり衝撃的でしたよ。
今でも学習して成長するAIは有名ですし、自然な抑揚の声のパターンを覚えて
状況に合わせて使われたら機械的な対応かどうかなんて分からなくなりそうです。
実際人も色々と状況に合わせて演技とかするわけで、パターンを覚えて対応する機械と何が違うのか
本当に難しいですよね。心がどうとかは、もはや本人にしか分からないと思います。
……などと面倒くさい長文を失礼しました!
本作ではこれ以上突っ込んだ話はしませんので、あまり気にせずお楽しみ下さい!
ではでは、また次回をお楽しみに!




