7-21 もう一人の救助対象
俺達はカミンさんに付いて通気口を進んだ。
少し入り組んでいたがカミンさんは迷うことなく進んでいき、やがて巧妙に隠された穴に辿り着いた。
「ここだ。付いて来てくれ」
カミンさんがそこに入って行くので大人しく付いて行くと、そこはどうやらどこかの建物の中のようだった。
これまで見てきた近未来的な見た目の建物とは違い、鉄筋コンクリートで作られたような見た目の建物で、見る限り結構ボロボロな感じだ。いつもの侵入不可区画の廃墟を思い出すな。
「ここはどこなんだ?」
「ここは最初期に作られた簡易都市の区域だ。今は放置されているが、時間が経てば最新の都市に作り替えられるだろうな。とはいえ、今は誰も寄り付かない何の機能もない場所さ」
「なるほど、隠れるためですか。それで、会わせたい人というのはどこです?」
「こっちだ。フレイル! 私だ! 今戻ったぞ!」
カミンさんの後に付いて部屋の中に入っていくと、そこにはボロボロのベッドの上に寝ている一人の女性がいた。
低い位置で短いツインテールを結んでいて、ゆったりしたワンピースを着た大人しそうな人だった。
具合が悪いのか、息が荒くなっていて発汗もしている。顔が赤いので熱がありそうだった。
寝ているようで意識はないらしく、本人に状態を聞くのは難しそうだな。
「これ、もしかして人間? シルフェ、下ろすわよ」
「ふぇ? ふぁーい」
今の今までフィアの背中で寝ていた豪胆なシルフェ。
下ろされると寝ぼけ眼を擦りながらなんとか立ち上がった。ふらふらしているけど大丈夫だよな?
「そうだ。名前はフレイル、俺の嫁だ」
「嫁ですか? 機人族が人と結婚するなんて意外ですね。それに、この星には人はいないものだと思っていましたよ」
「あぁ、そうだろうな。実際この星にいる人間は観光客くらいだし、皆マザーによってマッピングされ、管理されている。だが、フレイルは違う。彼女は家が困窮した末に売られ、逃げ込んだ商船が偶々マキナウォルンにやって来たんだ。その時に運よくマッピングをスルーしていてな。彼女はマザーに認識されていない唯一の人間なんだ」
「へぇ、俺達みたいな密入星の仕方だな。って、売られた? もしかして、奴隷とかそういうやつか?」
「そうだな。私が見つけた時は首輪と手枷を着けていたし、ひどく痩せていたんだ。……マザーからは人には関わらない方が良いと言われていたのだがな。私には彼女を星から追い出すことが出来ず、こうして匿っているのだ。だが、俺には人のことは分からん。食料くらいは何とかなったが、彼女が熱を出してしまってな。こうして苦しんでいても何もしてやることが出来ない。……お前達ならどうにか出来るか?」
「うーん、ただの風邪ならいいけど、私達じゃ詳しいことは分からないわね。ホーリークレイドルまで連れて帰れば何とか出来るだろうけど……とりあえず今出来ることはしてみるわ。応急手当」
フィアがフレイルさんの手を握って応急手当を使うと苦しそうだった顔が少し和らいだ。気休め程度だろうけど効果はあるみたいだな。
「ありがとう、助かる。これで少しは楽になっただろうか。……何にしても、この星は人が住むのには適していないからな。私はフレイルと生きると決めた。だから、この星から脱出しなければならない。すまないが、手伝ってくれないか?」
「うん。私達そのために来たんだもんね」
「そうですね。まぁでも、合流出来てしまったなら簡単な話です。もうバレても逃げられますから、後はシンシアに回収してもらうだけです。そういうわけですから、シンシアよろしく頼みますね」
「……」
フォレオが通信端末に声を掛けるが通信端末はうんともすんとも言わない。
全員が黙っているので呼吸音が耳についた。
「あれ……シンシア? いつもの元気な返事はどうしたのですか? シンシアー?」
「……」
もう一度話しかけてもやはり返事はなかった。
うーん、嫌な予感がしてきた。
「……これって」
「どうやら通信が妨害されてるみたいね。通信も出来ないし、居場所を伝えるのも難しいとなると、転移には頼れないわね……」
「そうか。恐らく私が救助要請を送ったのがバレたのだろう。すまない」
「え? それじゃあ、どうするんです? もしかして、二人を連れて元来た道を戻るんですか?」
「うへー、それはきついねー」
「そうだよな。それに船の発着場に着いたところでタイミングよく出星する船があるとも思えないし。こっそり出ていくのは厳しいだろうな」
「それじゃあ通信が妨害されてるのが問題なんだから、そのジャミングを解除するのはどうかしら?」
「それも難しい。恐らくその通信妨害を行っている装置は複数存在するだろう。一つ止めればその時点でマザーにバレるはずだ。マザーに本気で追いかけられたらこの星に逃げ場はない。間に合うとは思えないな」
「じゃあ、どうする? 元々の計画だと帰りは転移で帰る予定だったし、このままじゃ俺達も帰れないんじゃないのか?」
皆が良い案を思いつかず沈黙が続く。
そして数秒の後、背後から突然見知らぬ声が聞こえた。
「それならさぁ。やることってば一つしかないんじゃないかなー?」
人と機械の夫婦、禁断の恋の逃避行って感じがしますね。
そして、声を掛けて来たのは一体何者だ!?
次回、凄く元気な新キャラ登場です!




