7-18 地下鉄に乗り込め2
列車のものと思われる光が刻一刻と迫ってくる。
これに飛び乗らないといけないのにノープランって、そんなことある?
いや、そんな事を言っている場合じゃない! こうしている今も列車は迫っているんだ。今はやれるだけやるしかない!
「シルフェ!」
「ひゃいっ! な、何?」
「俺達全員を髪で繋いでくれるか!? それで一か八か、全員で全力で飛んで相対速度を少しでも列車に合わせよう! 何とかするしかない!」
「——っ! 他に良い案もありません! やりますよ!」
「わ、分かったわ。それじゃあ集まって! 真ん中で私とフォレオが浮遊で体を浮かせるから、外側でシルフェと雷人で引っ張って!」
そう言ってフィアがフォレオを抱き寄せた。
「わひゃっ! ん……すーはー、すーはー。……はっ、気を乱してはいけません。集中集中」
この非常時にフィアの胸に顔を埋めて赤くなっている奴がいるが、それどころではないので突っ込んではいられない。俺はフィアの後ろから抱き着き、シルフェの手を掴んだ。
シルフェの髪が巻き付いて固定されるや体が浮き上がり宙に浮かぶ。
そして、列車の風を切る音が僅かに聞こえたその時、翼を生やした俺達はロケットの様に飛び出した。右が俺、左がシルフェとなって四つの翼が空を切る。
カナムを全力で回転させ、前方にカナムの壁を円錐状に配置して空気抵抗を少しでも減らしながら飛ぶ。
最初は力のつり合いが上手くとれず上下左右にフラフラしていたが、カナムの回転を微調整する事で奇跡的に安定させることが出来た。
結構な速さで飛んでいるはずだが、飛ぶのに精一杯で周囲の状況がいまいち把握出来ない。
今は真直ぐな道を飛んでいるので大丈夫だが、もしカーブがあればきっと曲がり切れずに壁に激突してしまうはずだ。
そんな事になれば即死は必至だし、そうならないためにも可能な限り早く列車に乗り込みたいところだ。
「フィア、フォレオ! 列車は見えるか!? どうなってる!?」
「見えました! でもスピードが負けててぐんぐん迫って来てますよ! もっと速度出ないんですか!?」
「私は限界ぃ!」
「俺もこれ以上は制御が……!」
全員の全力を出したうえで飛んでいる今は限りなく繊細なバランスの上で飛んでいる。一応この中で一番速い俺がサポートしてバランスを制御しているが、俺の制御はそこまで緻密ではない。
長時間の制御は難しいし、大きくバランスが崩れれば立て直しは不可能だ。
そうなれば、とんでもない速度で壁に激突して死んでしまうのは想像に難くないので、安易に雷輪を増やすわけにもいかない。
雷輪の追加以外で速度を上げるのは難しいが、このまま何もせずに列車に追いつかれて轢かれてしまえばそれまでだ。
「どうする……一か八か? いやでも……くそっ!」
「うーー! にゃああああああ!」
「うちに出来る事、うちに出来る事、何か、何かないんですか!?」
皆現状の維持で一杯一杯だった。
そんな風に俺達がパニックになっている中、毅然とした声が聞こえた。
「……私がやる。だから、皆は落ち着いてこのままの状態を維持して」
「フィア……ごめんなさい。うち、役に立たなくて」
「そんなことないわ。適材適所なだけよ。実際ここに来るまでには皆の力が必要だった。今度は私の番よ!」
「うん、頼むね!」
「……はい、せめて、浮遊での姿勢制御は任せて下さい」
こちらを振り向くフィアと視線が合う。その不安に揺れそうでいて、必死に堪えているようなその目を見れば、言葉は一つしか思いつかなかった。
「信じる」
「……えぇ、任せて。ふぅ……はあああああああああぁ!」
フィアが翳した手から炎が吹き荒れさらに速度が上がった。
そして、少しずつ進路が上に、左にずれていく。次の瞬間、背中のすぐそばを何かが通り過ぎた。いや、現在進行形で通り過ぎている!
少し視線を後方にずらすと、ようやく俺達よりも少し高速で進むそれが視界に入った。
黒色を基調としていて、エメラルドグリーンに光る装飾が綺麗なカッコいい車両だった。
この色合い、まるでモノリスがあった場所で見た岩壁を思い出す。
全体的に流線形ではあるものの、上部の所々に突き出している箱のような部分が見えた。
そこに上手く引っかかることが出来れば乗る事自体は不可能ではなさそうだ。
いや、それにしても近いな。もうちょっとズレたら頭が削り取られてしまいそうだ。
「やばい、やばい、やばい!」
「もうちょっと我慢して! あと、少し……やああああああああぁ!!」
「うひっ!?」
フィアの炎の出力が上がりさらにスピードが上がる。
あともうちょっと……よし、相対速度が合った! 今なら飛び乗れる!
「ここだ! 行くぞ、皆! 衝撃に備えろ!」
「分かったけど衝撃って、きゃっ!?」
「うわっ、何々!?」
「ちょっ! 何をするかは先に言って下さいよぉ!?」
俺は叫ぶと同時にカナムで体を無理やり横から弾き、車両の上に着地しようとした。
「うぐっ! おわっ! あぁっ!」
しかし、僅かな速度の違いから足が縺れ、列車の上を団子状態でゴロゴロと転がった。
「きゃあっ! ま、回ってる!?」
「わわわ、いた、いたた、痛い!」
「ぎゃっ! だ、だから言ったじゃないですかぁ!」
そんな上も下も分からない状態の中、近付いた箱状の突起にフィアとフォレオが手を伸ばす。
「ふくぅ! あと、ちょっと!」
「むぁっ! 掴みましたよぉ!」
「っ! 今だシルフェ! 掴め!」
「んーー! よいしょおっ!!」
フォレオが突起を掴んで出来た一瞬のチャンス。
それを見逃さずシルフェが髪を伸ばして突起に巻きつけ、転がらないように食いしばる。
「むーー!! 掴んだけど、滑りそうだよ!?」
「いや、でかした! 後は任せろ!」
シルフェの頑張りで生まれた時間を使ってカナムの壁を作って車両に固定。
これに体を預ける事で何とか転げ落ちないようにすることが出来た。
よし、勢いも完全に止まって体勢も安定したな。
「ふぃー、何とかなったか。こんなのはもう二度とごめんだな」
「ははは、同感ですね」
「どっと疲れたぁ」
「ふふ、まだ何も終わってないのに、何だかやり切った感があるわね。でもほら、早く車両の中に入りましょ。風も強いしカーブに入ったら振り落とされるかもしれない。流石にここは危険すぎるわ。雷人は安全に降りれるようにサポートしてね」
「了解。そしたらちょっと休憩させてくれ」
そうして何とか無事に列車に乗り込むことに成功した俺達は、とりあえず車両内の安全を確かめると荷物に紛れて休息をとるのだった。
全員で力を合わせて空を飛ぶ!
言うのは簡単ですが、実際にやるとなったらすごく難しそうです。
一人でなら上手く出来ても、他人とやるとなるとバランスや力加減とかが難しいことは多々ありますよね。
いや~上手く行って良かった良かった。




