7-16 隠密行動3
「シルフェ、蓋を閉めて」
「うん!」
「相変わらず速いですね! フィア、浮遊で落下速度を落としますよ」
「着地するぞ! っとぉ!」
二十メートルほどを落ちて地面に着地した。
着地時の音が反響したので見つかるのではないかと警戒するが、どうやら近くにはロボットはいないらしい。
見るとそこは四メートル四方の通路となっていてあまり整備はされていないらしくなかなか汚い場所だった。どうやら通路としては使っていないようなので、やはりただの空気の通り道なのだろうか?
「ふぅ、ようやく一息つけるわね。シルフェ、迷彩はもういいわよ」
「はぁい。ふひぃ疲れたぁ。ちょっと休憩しよう?」
「そうですね。十分くらい休みましょうか」
「そうだな。しかし、ここはちょっと汚いな」
俺が腰を下ろすのを躊躇っているとフォレオが呆れたように溜め息を吐いた。
「戦闘服は自浄作用があるので汚れても構いませんし、座りたくないからと休まないようではこの先大変ですよ。ま、気持ちは分かるので簡単な掃除くらいはしてあげましょう」
そう言ってフォレオが指を振ると溢れ出した水が周囲の汚れを攫って行った。おかげでヘドロなのか油なのか分からなかった黒い汚れが取れて気にならない程度には綺麗になった。
「悪いな。ありがとう」
「このくらいは何ともないのです」
「もう、フォレオは素直じゃないわね」
そう言ってフィアが俺の隣に腰を下ろした。
するとそのさらに横にフォレオ、それを見たシルフェが近寄って来てフォレオの隣に座った。
結構広い場所なのに一か所に固まって、これも仲の良さの証明と考えていいのかな。
あ、フィアの手が俺の手に触れた……付き合ってるんだし良いよな?
俺がゆっくりと指を絡ませると、フィアは何も言わずに握り返して来た。うーん、ちょっとしたことだが幸せを感じる。
正直付き合う前と後で変わったことはあまりないが、ある程度は触れても良いという気になるのは変わったかな。実際、拒まれたことはないし。
そんな事を考えつつ視線をフィアの方に向けると、フィアもこちらを見ていたらしく見つめ合う形になる。どことなく恥ずかしくて反射的に逸らしてしまった。もう一回見るのも憚られたので、横目で見てみる。
通気口の中は暗いので、カナムで仄かに照らしているのだが、そんな中でもフィアの頬がどことなく赤らんでいるのが分かる。
なかなかに破壊力があるな、これが恋人同士の甘い空気というやつか!
だが、フォレオ達がいる中でそんな事は叫べない! などと心の中で悶えているとフォレオが不意に呟いた。
「ふと思ったのですが、ここに来るまでほとんど機人族を見ませんでしたよね? これって普通のことなんでしょうか?」
びっくりした……隠れて手を繋いでいるのがバレたのかと思って咄嗟に手を放してしまった。
フィアの方を見ると名残り惜しそうに手を見つめていた。うーん、何ともいじらしい。でも今は我慢だ我慢。
それで……機人族を見なかっただっけか?
確かに人型ではないロボットは数多くいたが、大通りを歩く中には人型のロボットも結構いた。あれは機人族じゃなかったのだろうか?
「えっと、すまん。俺にはロボットと機人族の違いが見ても分からないんだが」
「違いですか? まぁ、うちもはっきり分かるわけじゃないですけど、機人族の方が作りがこまやかだと聞きますので分かるんじゃないですか? ぱっと見では人と見分けがつかないそうですからね」
「そうなのか。というか今更だが、この星って機人族しかいないんじゃなかったっけ?」
「あぁ、あの話はあくまで他の種族がいないって話ね。聞いた話だと統率個体が機人族を作るんだけど、機人族はロボットを作って労働力にしてるんだって。だから統率個体からしか作られない機人族よりも圧倒的にロボットの方が多いのよ」
「なるほどな。そういうことか」
「それならありがたいですね。機人族は仮にも種族として認められた存在ですし、自我を持っていますから。壊してしまうとなると躊躇われますが、ロボットはプログラムで動いているだけなので手加減の必要がありません」
確かに、ロボットが相手なら気負わずに済むか。
ロボットならこれまでにもさんざん壊してきたから今更だしな。それに、あまり躊躇っていたらこっちが危険だ。
とはいえ、その前にそもそも見つからないようにしないとな。
今回の依頼内容ならそもそも戦う必要はないわけだし。
「もしかしたらフォレオの言うように機人族が少なかったのかもしれないけど、何かあるにしても今回の依頼は特に問題なく終わると思うわよ」
「……フィアがそんな楽観的な事を言うなんて珍しいですね。何か理由があるんですか?」
「えぇ、依頼を受けた時にディビナが言ってたのよ。今回の依頼で仲間が増えるはずですから頑張って下さいって。それってカミンさんをうちで雇うって事でしょ? だったらこの依頼は成功するはずよね」
なるほどな。ディビナさんがそう言っていたなら依頼は成功する可能性が高いか。
うーん、とはいえやはり楽観的過ぎないだろうか? フォレオの言っている違和感も少し気になるんだよな……。
まぁ、そんなのは気にし過ぎかもしれないか。
ここまでは順調にいっているし、本当にこのまま何もなく終わるかもしれない。
とりあえず、油断しないようにだけ気を付けよう。
そう考えていると話を聞いたフォレオも釘を刺してきた。
「なるほど、ディビナの予知ですか。とはいえ予知を聞いて行動を変えてしまっては未来が変わってしまうかもしれません。あまり油断せず緊張感は持っていて下さいね」
「えぇ、もちろん分かってるわ。緊張し過ぎないで良いって言いたかっただけだから、安心して。さて、そろそろ時間ね。依頼者をあんまり待たせるわけにもいかないし、皆、そろそろ行くわよ」
「了解。行くか」
「うへー、もう休憩終わりかぁ」
「ほら、しばらくは隠れる必要もありませんから、頑張って下さい」
フィアの合図で立ち上がった俺達はどこまで続くか分からない暗い道へと歩き出したのだった。
二人が恋人になっても大きな変化はありませんでしたが、
なりたての少し遠慮があり恥じらいがある距離感が尊いのだと私は思います。
されども少し大胆に……あまーい!
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!
作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!




