7-14 隠密行動1
それはまるでSF映画でも見ているかのような光景だった。
奇抜なデザインの超高層ビルが幾つも立ち並び、ホバーバイクやホバークラフトのようなものが無数に空を飛んでいる。
きっちりと整備された道路は様々なロボットが行き交い、実に精巧に見える3Dホログラムが街を彩っていた。
俺達はそんな、さながら未来都市と言った景観の街を走り抜け、何とか路地に走り込んだ。サーチで周囲を確認するが、特に周囲にロボットは見当たらない。
「はぁはぁ、ふぅ、よし、何とか見つからずに検問を突破出来たな」
「どうやら追手は来てないみたいだし、そうね。まず最初の関門はクリアかしら?」
マキナウォルンの宇宙船発着場では危険物持ち込みの防止やマーカーを着けるために検問を行っていた。
そこを避けて侵入するルートには円柱型の警備ロボットやセンサーなどが張り巡らされていたが、シルフェの光学迷彩とこんな時のためにとエページュ様が用意してくれたセンサーを誤魔化せるというジャミング発生装置を使ってなんとか突破することが出来た。
とはいえ、ジャミング発生装置については一度の効果時間が短いらしく、長びけば警備ロボットが何かおかしいと判断する可能性が高いとのことだったのでなかなか肝が冷えた。
しかし、特にロボットが捕縛に向かって来ることもなかったので何とか誤魔化せたのだろう。ようやく一安心だな。
さて、周囲の安全が確認出来たことでようやくシルフェの光学迷彩が解除された。
うん、サーチで分かってたけどちゃんと全員いるな。
シルフェが髪で繋いでいたので互いが見えなくても逸れずに済んだ。……天使族の能力ってほんと便利な能力だな。
「ふぅ、人が相手ならともかく機械相手では見つかりそうで緊張しましたよ。それにしても、シルフェのこれもかなり精度が上がりましたね。動いてもほとんど違和感ありませんでしたし、素晴らしかったですよ」
「えへへ、ありがと。最近はすごーく訓練頑張ってるもんね。髪をワイヤーに見立てた繊細な操作も練習してるから、能力の細かな制御も上手くなってるんだー」
「こんなにしっかりと成果が出てるなんて凄いじゃない。見直したわ」
「ノイン師匠が厳しいからねー。逆にルー師匠は教え方が大雑把で困っちゃうよ」
「あぁ、師匠は精密操作にはうるさいですからね。それと、ルーは感覚で動くタイプなので説明が下手なのは仕方ないですよ。足りない部分は自分で考えて補完するしかないです」
「あはは、そうなんだけど、それがなかなか難しいよねぇ」
ここまで気を張り続けていた所為なのか、一気に気が緩んだ感じがする。
労うのは良い事だが、この路地もいつまで安全か分からないしな。さっさとこの後の動きを確認しないと。
そう判断すると俺は軽く手を叩いて皆の注目を集めた。
「ほら雑談はそのくらいにしよう。いつまでもこんな所に居たら見つかるし早いとこ移動しないとな。フィア、カミンさんの場所って分かるか?」
「えぇ、エページュ様から位置情報とそこまでのルートは貰ってるわ。ただ、ずっとそこにいるとは限らないし細かいところは地道に探す必要があるかもしれないわね」
「うぇ、そうなったら隠れながら地道に探すのですか? これは骨が折れそうですね」
「うへー、ということは透明になるのはまだまだ継続って事なの? あれって結構集中が必要だから疲れるんだよねー」
「えっと、エページュ様から貰った資料によると、少し離れた所にある通気口から地下に入れば警戒が薄いみたいなのよね。そこまでいけば休憩も出来るはずだから、もう少しだけ頑張ってくれる? 私達は隠れるのは苦手だから、シルフェだけが頼りなのよ」
「そうですね。うちの能力では出来ない事です。頼りにしていますよ」
「そうだな。頑張ってくれれば、後で何か甘い物を作ってやるぞ」
「えー、えへへ、そこまで言われたら頑張らないといけないね。よーし、それじゃあ行くよ!」
シルフェが気合いを入れた所で俺達の体に髪が巻き付いてきて包み込まれる。
巻き付かれる時はこそばゆいし、全身を覆うので息がし辛くなる。
最初にやられた時はそれはもう驚いたものだが、慣れてしまえば少し窮屈な服を着ているのと変わらない。
最初の頃は外側にのみ対応していた光学迷彩も、今では内側にも対応しているため視界が塞がれないのが素晴らしい。うーん、いや、ほんとに便利過ぎるよなぁ。
さて、マップ情報を確認しているフィアを先頭にしてしばらく進むと、大通りに差し掛かったところでフィアが不意に止まった。
「どうした? ロボットの通りが激しくて通るのが難しいとかか?」
「それなら浮いて行けばいいですよ。空中浮遊の指輪でどうにでもなりますから」
「いや、通り抜けたいんじゃなくてね? その……入口っていうのがあそこなんだけど」
フィアはそう言うがあそこがどこか分からない。
もしかして指差してるのか?
サーチを使ってフィアの輪郭を感じ取ると思った通りどこかを指差していた。
天使族の能力。話が進むにつれてどんどん便利になっていきますね。
一家に一人、天使族! とはいえ、シルフェレベルで能力が使えるのはごく一握りだけだったりしますが……実はシルフェは優秀なんですね。




