7-11 エページュの依頼-2
「それではエページュ様、依頼の詳細を聞いても宜しいですか? 個人としての依頼、という事は表立って動くと種族間の対立を招いてしまうような内容という事でしょうか?」
「あぁ、そうだ。ついさっき俺の友人から救助要請が届いてな。送り主はカミン・アフェットって名前の機人族だ」
「……機人族って?」
「機人族は簡単に言うと人の形をした機械、ロボットよ。雷人だったらアンドロイドって言った方が分かりやすいかしらね」
「アンドロイド……」
アンドロイドと言われても人型なだけのロボットから人と見分けがつかないレベルの物までイメージ出来るが、機人族というのはどんな感じなんだろう?
それにエページュ様は友人と言っていたよな。
ということは機人族は決まった受け答えをするだけじゃなく、AIの様に状況に応じた判断が出来るということだろうか?
そんな事を考えているとエページュ様が気を利かせてくれたらしく、説明を始めた。
「機人族ってのはマキナウォルンっていう星に住んでる連中のことだ。見た目はかなり人に近くて会話も問題ない。個体によっては言われなきゃ機械だと分からねぇようなのもいるぜ。生物ではないが思考して話せるからな。世間的にも機人族は一つの種族として扱われているな」
「なるほど、そんな種族がいるんですね。それで、そのカミンさんって人が助けを求めてきたんですか?」
「あぁ、そうだ。ただ、俺が受け取れたのは位置情報とそこまでの侵入経路くらいでな。他のデータは届くまでの過程で破損しちまったみたいで、詳しい状況は何も分からねぇ。だが、今回の救助要請は俺個人に向けた秘匿回線で送られたものでな。つまるところ、かなりまずい状態の可能性が高い」
「秘匿回線ですか? そんなものを使うという事は確かにまずいかもしれませんね」
話を聞いたロナルドさんが難しそうな顔をしていた。
秘匿回線を使う、それが送った相手以外に情報が漏れないようにしているという事はなんとなく分かるが、それのヤバさの度合いがいまいち分からない。俺は宇宙の事情に疎いのだ。
フィアに説明してもらえないかと視線を送るが首を振られてしまった。
どうやら俺だけが分からないわけではなく、そもそも一般的な話ではないようだ。
「えっと、その秘匿回線を使ってると何が問題なの?」
フィアが尋ねるとロナルドさんが答えてくれた。
「うーん、それを説明するにはまず機人族の特徴を説明する必要があるね。実は機人族にはマザーって呼ばれてる統率個体がいてね。大半の機人族はネットワークで繋がっていて、定期的にマザーと同期しているんだ。つまり、マザーを頭脳とした一種の群体生物のようなものなんだよ」
「マザーを頭脳とした群体生物? えっと、群体生物ってあれよね? たくさんの個体が一つの生物みたいにして生きてるってやつ。それでマザーと定期的に同期してて……それってどういう事? カミンさんに自分の意思はあるの?」
「あぁ、個人の人格は存在するぜ。そうじゃなきゃ俺は友人になんてなってねぇよ。ただ、言ってしまえばマザーは上位人格でな。基本的にマザーが個人の人格に干渉する事はねぇが、ネットワークを使って同期すればそいつの知っている情報は筒抜けになっちまうし、もし何か問題があれば個人の人格なんて簡単に歪めちまえるんだよ」
「はぇ、複雑なのね……」
フィアがあんまり理解出来ていなさそうな顔をしている。
まぁ確かに難しい話だな。正直俺も半分くらいしか分かってないと思う。
しかし、人格を歪められるというのは怖い話だ。
ロボットで言えばバグを消すためにプログラムを書き換えてしまうようなものなんだろうが、人格と言われると一気に恐ろしく感じるな。
「そういうわけだから、基本的にマキナウォルンの中で問題が起きた場合はマザーが判断して機人族に命令を出して問題を解決するんだよ。それで、今回の秘匿通信が何で問題になるかなんだけど、エページュ様個人に向けた秘匿回線を使ったという事はその通信はマザーに届かないようにしているという事なんだ」
「……え、えっと? それってつまり?」
「要するに、マザーに知られたくないような事情があるという事ですね。しかし、同期すれば情報はマザーに筒抜けになります。ふふふ、ここから考えられることは?」
「……カミンさんはマザーと同期しないようにしてるってこと? もしかして、それって所謂バグのようなものとして処理されちゃうんじゃないの?」
「恐らく、そういうことでしょう。そうなればマザーはカミンを排除しようとするかもしれませんね。ということはマザーが敵、つまり機人族は全て敵という事です」
「……え、それってかなりヤバいんじゃないですか? 因みに、マキナウォルンには機人族以外の種族って……?」
「おらん。つまりそういうことだ。今回の一件はマキナウォルンという星からカミン一人を助け出さねばならん。星一つが全て敵という事だ」
は? え? いやいや、流石にそれはシャレになってないんじゃないのか?
ホーリークレイドルの皆は十分に強いと思うが、一つの星相手に戦争出来るとは思えない。
機人族がどの程度の強さかは知らないが、全面戦争になってしまえばその結果など考えたくもない。
……いや、待て待て。流石に考えが悲観的過ぎたな。
そうだ、状況を考えればカミンさんはバグのようなもののはず。それはきっと、俺達でいえば犯罪者のようなものじゃないか?
見逃すのは良い事ではないが、それだけのために全面戦争に発展するとまでは思えない。要するに、マキナウォルンから外に出してしまえばそれまでという事だろう。
「えっと、確認なんですけど、カミンさんを連れ出しても追手が掛かったりはしませんよね? 星一つ相手は冗談……ですよね?」
「そうだな。ヴェルクオンが主導すれば星間の問題に発展しかねんが、個人として動けば戦争にまで発展することはないはずだ。とは言ってもかなり危険が伴うことは分かっている。それに、これでも俺はヴェルクオンの王族だからな。直接関与することも出来ん。だからこんな依頼は馬鹿げているとは分かっているが、それでも……頼む! カミンを助けてやってくれないか!」
そう言ってエページュ様は頭を下げた。
エページュ様は王族だという。その頭を下げるという事は、俺が頭を下げる事とは訳が違うだろう。
……いや、違うな。そうでなくても俺は助けられるならば助けたい。
俺の手が届くのならば……。
俺は皆の顔を見回した。
フィア、ディビナさん、ロナルドさん、全員が頷いた。
良かった、皆考えは同じみたいだ。
「分かりました。依頼は受けましょう。ですが……そうですね。交換条件というわけではないですが、せっかくですからフィア達に刀を打ってもらえないでしょうか?」
「ふ、ははは! 相変わらずだなロナルド。あぁ、良いだろう。俺が直々にお前達に最高の刀を用意してやる。だから、カミンの事は頼むぞ」
「はい!」
こうして俺の初めての異星での仕事が決まったのだった。
というわけで、初めての異星は機人族の星でした。
統率個体であるマザーを中心とした群体のような種族と言うのは結構ありがちな設定かもしれませんが、
全が一で一が全。いやぁ、なかなか厄介な相手ですね。




