7-10 エページュの依頼-1
目を開けるとそこは最初に来た謁見の間だった。
アルチザン様は玉座へ歩いて行くと腰かけ、虚空から赤い石柱の欠片を取り出した。深紅の欠片が鈍い輝きを放っている。
「それでは、これで黒き力制御用の耳飾りを作る事にするが、要求は耐久性の向上と抑え込む出力の調整で良かったか?」
「はい、それでお願いします」
ロナルドさんが答えるとアルチザン様はフィアに視線を向けた。
それは心配そうな、どことなく温かさを感じる視線だと思った。
「ふむ、あの力を利用しようとはな。まぁよい。精進する事だ。フィア、分かっているとは思うが言っておく。この力は危険な代物だ。くれぐれも吞まれないようにな」
「大丈夫です。私は絶対に自分のものにして見せますから」
フィアが自信満々に言い切るとアルチザン様は頷き、そして俺の方に視線を向けた。
「そうか、それならばよい。守り人の少年、雷人といったか。フィアをしっかりと支えるのだぞ。その肩に宇宙の命運が掛かってると思って励め」
「……はいっ!」
その鋭さを感じさせる瞳に一瞬怯みそうになったが、何とか耐えて声を張った。
俺はフィアのパートナーなのだ。言われずともやってやるとも。
アルチザン様は満足そうに頷くと今度は視線をロナルドさんに向けた。
「ロナルド、完成までには一週間ほどかかるだろう。完成したら連絡するから取りに来い。それと……あの子に宜しく伝えてくれ」
「分かりました。宜しくお願いします」
「うむ、儂からは以上だ。……ん?」
「おや、どうかされましたか?」
アルチザン様が何かに気付いたように顔を上げるとすかさずディビナさんが尋ねた。
すると、アルチザン様は少し思案した後に答えた。
「……ふむ、どうやらエページュがこちらに向かっているようだな。何やら急いでいるみたいだ。もしかしたら、そなた達に何か用があるのかもしれんな」
「私達に用ですか? ……あぁ、これはまた」
何やら含みのありそうな表情でディビナさんが扉の方を振り返ったので、俺達も釣られて扉に視線を向ける。
すると、焦った様子でエページュ様が謁見の間に駆け込んで来た。
「はぁはぁ、よかった。まだ帰ってなかったな」
「どうしたエページュ。何かあったのか?」
「あぁ、兄貴。ちょっとそいつらに用があってな」
「私達にですか? 一体何でしょうか?」
さっきの反応からして恐らく予知で分かっているだろうに、きょとんとした表情で尋ねるディビナさん。
まぁディビナさんが分かってても俺達は何も分かってないからな。
多分、話がスムーズに進むように気を遣ってくれたのだろう。
「……悪いがお前達、マキナウォルンへ行って俺の友人を助けてくれないか?」
「マキナウォルンですか? ……それはホーリークレイドルへの依頼という事でしょうか?」
「あぁ、そう受け取ってもらって構わねぇ。だが、これはヴェルクオンからじゃねぇ。あくまで俺個人からの依頼だ。だから、兄貴は絶対に関わらないで欲しい」
そう言ったエページュ様とアルチザン様が何やら視線を交わしていた。
これって国として関わるわけにはいかないって事だよな? 何だか大変なことになる予感がするんだが……。
「……そうか、分かった。ならば場所を変えた方が良いだろう。ロナルド、ホーリークレイドルの会議室を貸してやってくれ」
「えぇ、分かりました」
ロナルドさんが二つ返事で了承するとアルチザン様が指をパチンと鳴らした。するとまたもや視界が一瞬にして切り変わった。
グレーを基調としたシンプルな金属の壁、簡易的なモニターとホワイトボード。そして机と椅子が並ぶ部屋、どことなく見覚えがある。ここはホーリークレイドルの会議室だ。
エページュ様やフィアは一瞬驚いた様子だったが、すぐに冷静さを取り戻して席に着いた。ロナルドさんとディビナさんは言わずもがなだ。
今更驚くほどでもないという事だな。俺も静かにフィアの隣に座った。
全員の着席を確認するとディビナさんが続きを促した。
さぁ、前置きが長かったですがここからが本章の本題です。
宇宙人とか出て来るのに、ずっとフロラシオン内の話でしたからね。
今回は別の惑星、マキナウォルンメインの話になります。
乞うご期待!




