7-8 刀の声
さっきは刀を打ってやるつもりはないと言っていたはずだが、どういうつもりなのだろうか?
「どうせ兄貴がここに寄こしたんだろ? 何もせずに帰したら何のために来たのか分からんだろうが。そのくらいはしてやる。いいから出せ」
俺とフィアはエページュ様に言われるままに普段使っている刀を渡した。
ついでと言っては何だがケラディウスも出した。
「ん? こいつぁケラディウスか? これは悪魔族の王に打った刀のはずだが……お前に見合う刀じゃねぇ。どうやって手に入れた?」
「えっと、ある悪魔族が持っていた物です。悪魔族の姫様に渡して欲しいと言われて預かったんですけど、必要に駆られまして……ちょっと使いました」
「……ふむ、なるほどな。こいつには強い魂を感じる……。おい、お前はもうこいつを使うな。こいつの主はもう決まってる」
この刀の主が決まっているって、刀に意志とかあるのだろうか?
そうだとして、それはジェルドーの事なのか、それとも渡して欲しいと言われた姫様か?
まさか持ち主は殺してしまいましたとは言えないし……後者であることを願いたいな。
「あー、そうですよね。分かりました。すみません」
「……俺の打つ刀は使えば使うほどに研ぎ澄まされていく刀だ。使い手に染まっていく一点物と思ってもらっていい。それで、こいつは少し特殊な刀なんだがな。もう十分に染まってるんだよ。強い想いをその身に宿してやがる」
「強い想い、ですか?」
「そうだ。こんなこと言っても分からねぇだろうが、これを使うべきなのはきっとその姫様ってやつだ。伝言通りにそいつに渡してやるんだな。それに、お前にこれを使うだけの腕があるとも思えねぇしな」
……うーん、よく分からないが作り手だからこそ分かる何かがあるのだろうか?
そんな風に思案を巡らせていると、最後の言葉が引っ掛かったらしく、フィアが少し不機嫌そうな顔をした。
「確かに雷人はまだ未熟ですけど、最近ではかなり強くなってきてます。これからもまだまだ強くなりますよ」
「あぁ、そうかよ。だが、こっちの刀を見る限りそいつはまだまだひよっこだな」
フィアが反論するとエページュ様は属性刀を手に取った。
俺が一番使っている武器だ。
「これはウルガスが作ったものだろう。出来は悪くねぇ。汎用性を求めた量産品だろうが、なかなかのものだ。これでも十分に実戦に耐えうるぜ。だが、こいつはボロボロだ。刀の使い方がなってねぇ証拠だよ」
「それは……そうですね」
正直な所、剣術はマリエルさんから暇を見つけては教えて貰っているが、まだ俺の剣術は素人に毛が生えた程度のものだ。
普段の戦いでは能力による素早さ頼りで戦っていることに間違いはない。
そう思ったのだが……。
「お前、こいつがどういう刀か分かって使ってるか?」
「どういう刀か、ですか?」
「あぁ、物作りってのはこういうのを作りたい、こういう事が出来るようにしたい。大なり小なりそれを作る意図ってものがある。こいつには能力の増幅やそれを纏わせることによって性能を向上させる意図が見える」
能力の増幅? 説明では属性の付与とかいうふわふわした内容だった気がするが、聞いたような気がしないでもない……。いや、とりあえず今は目の前に集中だな。
「えっと、そうですね。確かウルガスさんからもそんな説明を受けました」
「そうかよ。で? 分かっているのなら、なぜそれを鍛錬しない?」
「え? いや、一応普段からやるようにはしてますけど……」
「本当か? おい、やって見せろ」
「……分かりました」
エページュ様がそう言って俺に向かって属性刀を投げたので、それを受け取って言われるままに刀身にカナムを纏わせた。
するとエページュ様は近付いて来てその刀身をじーっと見つめた。
こうもまじまじと観察される事ってないから緊張するな。
すると突然エページュ様は近くにあった刀を持ちあげると俺の属性刀を叩き切った。
「は? え、は?」
カナムを纏わせたはずの属性刀はさほどの抵抗もなくあっさりと切れると宙を舞って地面を転がった。
俺は信じられない光景に目を見張った。こんなにあっさりと切れるなんて。
「やっぱり駄目だな。安定性が全然足りてねぇ。お前の能力は切れ味の向上と耐久性の向上の両方に向いてる良い能力みたいだが、これじゃあ宝の持ち腐れだな。無駄に多い量を纏わせ過ぎてる。もっと薄い膜を作れ。それでいて膜を超高速で流動させるイメージだ」
「え、膜を超高速で流動? え?」
「薄くて鋭い切れ味。膜のムラがなくなって安定すれば明らかな弱い場所はなくなって耐久力も上がるはずだ。それが出来ればあいつの作ったこの刀でも十分やれる。そんな状態で俺の刀を使ったところで実力が付かなけりゃ強くはなれんぞ」
刀を叩き切った事はスルーなんですか? いや、スペアはまだまだあるけどさ。
それにしても能力の制御か。ノインさんにも言われたんだよな。安定性……要練習だな。
「分かりました。精進します」
「ふん、そうすることだな。それでこっちか、小娘の方はまだマシなようだな。努力が見える。才能に頼るんじゃなく努力で埋めるってのは嫌いじゃねぇぜ」
「そ、そうですか? まぁ、褒められたら悪い気はしないですけど」
さっき不機嫌だった所為で気持ちに上手く折り合いがつかないのか、嬉しいようなでも手放しで喜べないような複雑な表情のフィア。
褒められるなんて、やっぱり流石だな。
「炎と氷か。炎は切れ味の向上と爆発力で攻撃的。氷は硬度と耐久性の上昇と守りに向いてる。悪かねぇがまだまだ甘いな。お前も精進しろ」
「わ、分かりました。アドバイスありがとうございます」
フィアは気持ちの整理がつかないせいか少し歯切れの悪い返事をしていた。
それにしても凄いな。フィアは能力を見せてないのに完全に言い当ててたし、そんなに分かるものなのだろうか? ……聞いてみるか。
「えっと、刀を見ただけなのにどうしてそんなに色々と分かるんですか?」
「あぁ、俺には刀の声が聞こえるからな」
「刀の声……ですか」
それはエページュ様の能力なのか、刀神と呼ばれるまで技術を磨き、作り続けてきた結果なのか。
どちらにしてもこの人は凄い人なんだな。ただそう思った。
「おや? 皆さん。どうやらここまでのようです。アルチザン様がいらっしゃいましたよ」
ディビナさんの言葉に入口の方を見ると、ちょうど扉が開いてアルチザン様が入って来る所だった。それを見たエページュ様がフィアに刀を手渡した。
「思ったより早かったな。兄貴」
「あぁ、必要な道具を取りに行っただけだからな。邪魔をしたなエページュ、それでは行くとしよう」
そう言うとアルチザン様は何かを高く掲げた。
あれは……黒くてうっすらと緑に光る箱?
エメラルドグリーンに光る軌跡が箱の表面に無数に走っている。
よく分からない記号のようなものが書かれているが……何かカッコいいな。
「……って、え?」
次の瞬間、俺達は不思議な場所にいたのだった。
今回は属性刀についての設定メインでしたが、次回は少し重要な話です。
乞うご期待!




