7-6 王城にご招待
「王城に招待しよう」
そう言ってパチンとアルチザン様が指を鳴らすと一瞬にして景色が変わった。いや、転移したのか。転移時の光すらなかったが何かの能力だろうか?
そこは恐らく謁見の間というやつなのだろう。
王が座るのであろう豪華な椅子が階段の上にあり、周囲を武器を持った匠人族達が囲んでいた。
アルチザン様は椅子に向かって歩きながら周囲に立っていた匠人族達に声を掛けた。
「悪いが皆の者、しばらく席を外してくれ」
アルチザン様の言葉が意外だったのか警備達が一瞬どよめき、一番上等そうな装備を身に着けた兵が前に出た。
「失礼致します。お言葉ですが陛下、外の者を招いているのに警備が席を外すというのは流石に不用心ではないでしょうか?」
「構わん。彼等は儂の客人だ。加えて、ここは儂の城だ。不用心という事はあるまい」
警備の人の言う事はもっともだと思うが、アルチザン様の一歩も引かぬ態度に流石に折れたらしく、一歩下がった。
「……仕方ありません。それでは我々は部屋の外で待機しておりますので、何かあればお呼び下さい。総員、退場!」
リーダーらしき男の声掛けで匠人族の兵士達が部屋を出ていく。
命令には従っているものの内心は納得出来ていないのだろう。こちらを怪しんでいるのか視線が痛かった。
そして最後の一人が外に出たタイミングでアルチザン様が腕を一振り、すると扉がやんわりと光った。
「これで話の内容は外には漏れん。自由に話してよいぞ」
「配慮頂き感謝します」
「そうしなければならんだろう。大勢の前で事情を説明するわけにもいくまい。さて、フィアよ。大きくなったな。儂のことは分かるか?」
「はい、もちろん存じています。少し前まで知らなかったのですが、私のためにお力を貸して頂いていたと聞きました。心より感謝致します」
普段あまり畏まる事のないフィアがしっかりと頭を下げて丁寧な言葉遣いをしている。王様なのだし当たり前だが、それだけ偉い人だという事なのだろう。
いや、これまでフィアの身内以外の偉い人には会ったことなかったな。フィアはしっかりしているし、俺が知らなかっただけか?
そんな事を考えながらフィアの事を見ていると、アルチザン様は俺の方にも目を向けて来た。
「それで、そこの者がフィアの守り人か?」
「私の守り人……ですか?」
薄々分かっていた事だが、アルチザン様はフィアの事情を把握しているみたいだ。
一体どんな立ち位置なのか。気にはなるがそれよりも、今はフィアがいるから失言に気を付けなければ! フィアは確かに当事者だが、絶対に事情を知られてはいけないのだ!
「ちょっと変わった言い回しだけど、恋人って言いたいんじゃないか?」
「え? あ、恋人? ……そうね、そう。そうです」
不思議そうにしていたフィアに小声で囁くと頬を染め、ブツブツと言いながら両手の指を絡ませ始めた。
よし、疑ってはいなさそうだ。こちらの様子を察したのかアルチザン様がロナルドさんに視線を送っている。何やら目配せをしているようだ。
恐らく意味合い的には「話していないのか?」「話していません」と言ったような内容だろう。そういう大事な事は事前に伝えておいて欲しい。
俺はアルチザン様がこちらに視線を向けたのを確認し、膝を突いて頭を下げた。
「お目に掛かることが出来て光栄です。フィアの恋人の成神雷人と申します。どうぞ宜しくお願いします」
「あぁ、宜しく頼む。……それで、今回の件は黒き力を抑える耳飾りが壊れたから替えが欲しい、だったか?」
「えぇ、その通りです。あれはアルチザン様以外には作ることが出来ませんので、こうして依頼させて頂きに来ました」
「あぁ、そうだな。壊れて発散したばかりなら当分は大丈夫なはずだが、念を入れておくのは良い事だ。だが今は手元に材料が無い。まずはそれを取りに行かなければな。そなた達も付いて来るといい。知っておいた方がいいだろう」
「そうですね。知っておいた方が良いでしょう」
「はい、そのつもりです。お手数をお掛けしますが、お願いします」
知っておいた方が良い? 話の流れからして黒き力に関する事だよな。
ディビナさんとロナルドさんは何のことか分かっているみたいだし、もったいぶらずに教えておいてくれればいいのに。
「儂は少し準備をする必要がある。その間、弟にでも会ってきたらどうだ? それも必要だろう」
アルチザン様はなぜか俺の方を見ながらそう言った。
弟……確か刀神と呼ばれている人だったか?
赤城さん達の剣、そして封印刀ケラディウスを打った名匠……か。確かに興味はあるな。
「分かりました。ご厚意に甘えさせて頂きます」
「よろしい。ではそのようにしよう」
アルチザン様が杖で床をコンコンと叩くと匠人族の兵士が一人入って来た。
「客人達をエページュの所に連れていけ」
「はっ、承知しました。それでは皆様、どうぞこちらへ」
そうして俺達は兵士の案内に従って部屋の外へと出たのだった。




