7-5 ヴェルクオン
そこは金属に囲まれた街だった。
パイプが至る所に這いまわり、色んな所から蒸気や炎が上がっているのが見える。
所謂スチームパンク。
古めかしくも前衛的な機械都市といった印象の街だ。
まるでゲームの中にでも入り込んだかのような光景に俺のテンションは一気に上がった。
「す、凄い。ここは一体どこなんですか?」
「ここは匠人族が住む星、ヴェルクオンだよ」
「匠人族って言うと……レジーナやサリアさんの故郷ですか」
「そうね。あ、でもこの街は凄い蒸気が立ち上ったりしてるけど、別に蒸気機関で動く街ってわけじゃないからね。変な期待はしちゃ駄目よ?」
ん? 蒸気機関で動く街じゃない?
見る限りあちこちに蒸気を通すパイプが張り巡らされているし、蒸気を上げながら走る乗り物が幾つもあるみたいなんだが?
「……え? どういう事?」
俺がフィアの言葉がすんなり呑み込めず、不思議そうな顔をしているとくすくすと笑いながらディビナさんが説明を始めた。
「ふふふ、このアンティークな見た目はファッションのようなものなのです。仮にも匠人族の星ですからね。この街はもっと高度な技術で形作られているのですよ。確か、数年前はサイバーパンクと呼ばれるネオンライトが特徴的な街でした。次の流行は一体何なのでしょうね?」
流行だって? 流行で街の見た目が変わるのか?
……そう言われるとなんか高速で空を飛ぶ小型の乗り物がたくさん見えるし、鉄道を走る列車は蒸気機関車のような見た目なのにめちゃくちゃ速い……。
まぁ、そうだよな。俺達が普段使っている設備みたいな物が作れる匠人族の技術がその程度なわけもないのだ。地味にドワーフのイメージに合っていたから騙されてしまった。
……見かけだけか。男心が少し揺さぶられたというのに、少し残念な気持ちがあるな。
「うんうん、私も男だからね。気持ちは分かる。だけど、残念ながらここは二人の言う通りの街なんだよ」
「ほう、残念だとは聞き捨てならないな。ロマンと実利を兼ね備えた素晴らしい街だと言って欲しいものだ」
突然、俺に同意したロナルドさんの言葉に反論する声が後ろから聞こえた。
落ち着いた低い声、間違いなく俺達に向けられた言葉に声のした方を見る。
すると、数人の匠人族らしき小さな人達に囲まれて一人だけ二メートルはありそうな巨躯の男が立っていた。
男は怪しげな黒いマントを羽織っていて顔が見えない。
どこを見ても観光客らしき人達以外は小柄な匠人族しか見当たらないこの町では、その巨躯は非常に目立っていた。
匠人族に囲まれていることから考えて無関係とは思えないが……。
そう考えているとロナルドが恭しく頭を下げた。それに合わせてディビナとフィアも頭を下げたので反射的に俺も頭を下げる。
「お久しぶりです。まさか直接来られるとは思いませんでした、アルチザン様」
「あぁ、久しいなロナルド。あの子は元気にしているか?」
「はい、いつも私達に力を貸してくれていますよ」
「そうか……来てはいないのだな」
「そうですね。一応声は掛けましたが、無理に連れて来るものではないと思いましたので」
「あぁ、それでいい。儂も無理矢理に会いたい訳ではない」
ロナルドさんが丁寧に話をしている辺り、この人はかなり偉い人か凄い人なのだろう。……というかアルチザン様ってどこかで聞いたような?
そう思っていると隣にいたフィアが小さな声で説明してくれた。
「アルチザン様は匠人族の王。現人神とも言われている凄い人よ。ほら、例の神機の作り手でもあるわ」
あ、そうか。あの爺さんが言ってた人か!
なるほどな。それなら確かに凄い人なのだろう……って、え? 匠人族の王だって? とてもじゃないが匠人族には見えないんだが?
「ここで立ち話というのも何だ、王城に招待しよう」
スチームパンク、サイバーパンク、良いですよね!
あの現実とは違う雰囲気には心が躍ります!




