7-4 ストライキ
あれからさらに一週間が経った。
フィアと戦闘訓練を行っているとロナルドさんから連絡が入った。
「ロナルドさんからの呼び出しか。って事は例の耳飾りの件か? 随分とかかったな」
「そうね。でも、これでようやく現実でも黒き力の訓練が出来るようになるってことよね? ふふ、待ち遠しいわね」
フィアはそう言いながら拳を握って意気込んでいた。
フィアはこのところ毎日時間を作っては仮想空間で黒き力の訓練をしていたからな。
最初に暴走した時は偶然出来ただけなのかと思っていたのだが、仮想訓練で暴走した時も俺が触れる事でフィアの暴走は抑える事が可能だった。だから、俺が手伝う事で効率的に訓練が出来ていた。
暴走が精神的な理由で、俺がフィアの支えになれているとかなら俺としては非常に嬉しいものだが、実際の所はよく分からないな。
何にしても、訓練の成果は着実に出ている。
あくまで仮想空間内の話ではあるが、今では黒き力の出力を制御して暴走せずに使うことが出来るようになってきていた。
ただ、本人曰く出力を絞って十パーセントくらいが限界らしい。
それも仮想訓練でのことだから、実際に使えるかはこれから次第といったところだな。
とはいえ、十パーセント程度でも黒き力を纏ったフィアは指輪による能力も格段に強力になるし、身体能力も上がる。
体力の消耗が激しいみたいだし、持続時間もあまり長くないから使いどころを吟味する必要があるが、これからの事を考えると切り札が出来るのは大きい。使えるようになった方が良いのは間違いないだろうな。
さて、シンシアさんによる転送で俺達はロナルドさんと合流し……何だ? 何か騒がしい?
見ると何やらロナルドさんがホーリークレイドルの隊員達に囲まれていた。
先輩方の表情を見る限り困っている様子だ。何かあったのだろうか?
「あの、どうかしたんですか?」
「パパ、何かあったの?」
「あ、あぁ、二人とも来てくれてありがとう。呼び出したのにこんな状態で悪いね。実は……」
「え? ウルガス(さん)がストライキ!?」
俺とフィアは声をハモらせながら驚いた。
まさかあのウルガスさんがストライキをするとは、確かにちょっと適当そうな見た目はしているが結構しっかりとした人だからな。こういった我儘を言うとは意外だ。そんな風に思っていると、隣でフィアがため息を吐いた。
「はぁ、またなのね」
「え? またって、もしかしてよくあるのか?」
「んー、よくあるって程ではないけど偶にあるのよね。ほら、こういう仕事だからどうしても装備の修理やメンテナンスが必要になるでしょ? でも隊員の数に対して職員の数が少ないから、技術開発研究所はいつも人手不足なのよ。その所為でなかなか開発の時間が取れないみたいでね。時々発作みたいにストライキを起こして研究所に引き籠っちゃうのよ」
「それはまた……」
「ははは、元々ウルガスには開発の援助をする約束で働いてもらっているからね。開発の時間が取れないのはこっちに問題があるんだよ。だから私の立場としては皆に我慢してもらうしかないんだ。隊員の皆には申し訳ないけど、一週間くらいの辛抱だと思うから許して欲しい」
ぺこぺことロナルドさんが謝っていると徐々に取り囲んでいた隊員達が散らばり始めた。
それをぼーっと見ていると頃合いを見計らっていたかのように小人族の少女、ディビナさんが現れた。相変わらず小さいな。
「こんにちは、二人とも。待たせてしまってすみません」
「いえ、それは別に大丈夫です。ロナルドさんも大変ですね」
「ふふふ、社長なのですから、こういう時くらいは働いてもらわないと困ります」
……え、普段は働いてないのか?
そう思ったがそんな事を聞くのも失礼だと思い飲み込んだ。するとようやく解放されたロナルドさんがやって来た。
ロナルドさんは見慣れた狐の面を横にずらすと申し訳なさそうに笑った。
「さて、待たせたね。それじゃあ行こうか」
「はい、予定通りです。早速出発しましょう。シンシア、お願いします」
「え、予定通り? ディビナ、もしかしてこうなるの分かって……」
「ふふ、秘書ですから」
「はいはーい、準備できたので行きますよ! いってらっしゃーい!」
こうなる事を予知でもしていたのだろうか?
それならどうにか回避してくれれば良かったのに。
そう言いたげな雰囲気を漂わせるロナルドさんと注視してやっと分かる程度に微笑むディビナさん。
それを見て仲良さそうだなぁ、などと考えつつ転移の光に包まれる。
そして、次の瞬間には俺達は見た事のない場所にいたのだった。
ストライキも予定に入れてしまうディビナさん。
うーん、実に優秀な秘書ですね。
え? 分かってるなら事前に対処しろ?
きっと解決できる未来が見えなかったんですねー(棒)




