7-3 何ですって?
「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」
フィアと俺を渦潮で洗濯したフォレオは肩で息をしていた。
何だか随分と興奮していらっしゃるようだ。
フォレオはフィアの事が大好きだからな。フィアに何かあったと思えばこれも当然なのかもしれないが、もう少し俺の事を信用してもらいたいものだ。
「き、気は済みましたでしょうか?」
「……とりあえず話を聞いてもらってもいいかしら? 大丈夫、大丈夫だからね?」
「……ふぅ、フィアがそう言うなら」
ようやく落ち着いて話を聞いてくれたフォレオ。
いつの間にかちゃっかりとシルフェも戻って来ていた。
元々フィアが原因であり防止策も特にない事、ちゃんと寝る時はそれぞれの部屋で寝ている事を説明するとフォレオはしぶしぶながら納得してくれた。
結局潜り込んで来るなら最初から一緒に寝てもと思わなくもないが、そこは線引きしているらしいんだよな。
俺としても夜にフィアが隣に寝ていたら寝れるか不安なので特に言うことは無いけども。
「そういえば、今日は何でこんな朝早くにフィアの所に? かなりびっくりしたんだが」
「そうね。何か用事があったの?」
「あぁ、それはあれですよ。今日はせっかくうちが朝ご飯を作ったのになかなか起きて来ないから起こしに来たんです」
「何だって?」
「何ですって?」
「お腹空いた」
俺とフィアが真剣な顔でそう言うと、真似をしたのか真剣な表情でシルフェも続く。全くもって決め顔で言う内容ではないが、それにツッコんでいる余裕はない。
始まるのか、最後の晩餐が。いや、朝ご飯だけども。
「フォレオ、私達抜きで料理しちゃ駄目って言ったわよね?」
いつも並大抵の事では怒らないフィアが静かに怒っている。そう、これはそのレベルの話なのだ。しかし、フォレオは自信満々に胸を叩いた。
「問題ありません。今回は自信がありますよ!」
「……そこまで言うなら、私が毒見をするわ」
そう言ってフィアはスタスタと歩いて行ってしまった。
その時のフィアはまるで戦場にでも向かうかのような顔をしていた。
いやいや、そんな顔をされて食わせられるか。
俺はフィアを追いかけてシチューっぽい何かを口にしようとしているその手を取った。
「待て待て待て、そういう危険な役は俺がやるから。フィアにそんなことさせられないって」
「駄目よ。雷人にそんな危険なことさせられないわ。大丈夫、すぐにミューカスの所に行けば死んだりしないから」
「ちゃっかりイチャイチャしてんじゃないですよ! 作った本人を前に失礼過ぎないですか!?」
「馬鹿野郎! これがイチャついてるように見えるのか!」
「茶化さないで! 私達は今、命のやり取りをしているのよ!」
「えぇ!?」
フォレオは若干涙目になっているが、こっちは本気なのだ。三途の川を渡りかけた経験があるのにふざけられるわけがないだろう。
俺達がそんな事をしていると後ろで静かに見ていたシルフェがスッと俺達を躱してシチューっぽい何かに近付いた。
「もう! 私がこんなにお腹空かせてるのにコントなんてして。食べないんだったら私が貰っちゃうね」
「ま、待て。はやまるな!」
止めるのも間に合わずシルフェがシチューっぽい何かを口に入れる。
そして次の瞬間、バッと手を口に当てた。
くっ、だから言ったのに!
「急いでミューカス先生の所に!」
「任せて! すぐにシンシアに連絡を入れるわ!」
俺がふらっと倒れそうになるシルフェを支えるべく受け止めると、シルフェは幸せそうに表情を緩めながら口をもぐもぐと動かし飲み込んだ。
これは……死んでない、だと?
「お、おいしぃ」
「ほ、本当か?」
「うん、美味しいよ。ほっぺたが落ちちゃいそう」
「そ、そんなに? ……それじゃあ私も一口」
「じゃ、じゃあ俺も」
そんな、少し前には人を殺せる料理を作っていたのに、ほっぺたが落ちるほどの料理を作れるはずが……。
「こ、これは!」
「お、美味しい!」
俺達は涙を流した。人知れず努力をしていたのだろうか?
この短い間にこれほどのものが作れるようになるだなんて。俺達は今、猛烈に感動していた。
「頑張ったのね、フォレオ」
「あぁ、完璧だ。にわかには信じられないが、完全に俺を超えたぞ」
フィアがフォレオを抱き締め、俺はフォレオの手を握って泣き、シルフェはそんな俺達を眺めながらおかわりを食べていた。
フォレオはその様子を冷めた目で見ながらため息を吐いた。
「……はぁ、なんだか凄く複雑な気分です」
フォレオは努力すれば出来るという事を証明して見せた。
だが、フォレオがまだその料理しか上手く作れないという事を雷人達は知らなかった。
後日、調子に乗ったフォレオの作った料理を無警戒で食べた三人は緊急でミューカスの元へと運び込まれるのだった。
倒れて運ばれるオチまでがワンセットですね!
SNSでよく見かける担架で運ばれるシーンが目に浮かびます。
まぁあれはキュン死とか尊死ですけども。
ちなみに、「何だって?(真剣)」 の部分はビスクドールの「なんですって?」のオマージュです。
面白いので興味あったら見て下さいね~。
それでは、今日はこの辺で!




